第18話 小さな逢引き
ミレディとのお買い物デート。
とりあえず、パイの容器だった経木(薄く切った木のシート)をサム爺さんに返却する。
爺さんはそれを、パイを揚げている大鍋の下にある薪に放り込んで燃やした。実にエコロジーである。
で、買い物だが……。
「何が欲しいんだ、ミレディ?」
「んー、特にこれと言って欲しいものがある訳じゃないですにゃあ。でも、南方のワインは必要かにゃ?」
「え?ギルドのワインって、俺以外に飲む奴いるのか?」
「来客用ですにゃ」
つまり君は来客用のお高い酒を俺におすすめしてたってこと?
笑えるので許す!
さて……、市場。
ゴザのような、植物性繊維の敷物の上に商品を並べたバザーのようなものがあちこちで見られる。
それ以外では、木組みの屋台とか。
どれも、現代日本からすると大したものはなかった。
宝飾品は低級で形が歪だし、食品も粗が多い。
中には、詐欺同然の偽物もあるほどだ。
それでも、人々は楽しそうにしているし、活気が、生きた人々の元気がそこにはあった。
春の陽気の中で、こうして可愛い女の子とデートができるのだから、行き先なんて別にどこでもいいんだよな。
大切なのは、どこに行くか?ではなく、誰と行くか?じゃないか。仕事とかも大体そんな感じだ。
「にゃっ?!ドルーさん!蜂蜜のクッキーがあるにゃ!」
「はいはい、買ってあげるから」
と言っても、ミレディもまだ十六歳だからなあ。
やっぱり、幼さが垣間見えるねえ。
これでも、この世界じゃ嫁入りしておかしくない年頃なんだけどなあ。
まあ、人間、幾つになっても落ち着かない奴は落ち着かないから……。俺もそうだし。
「やった!ドルーさん、大好きにゃ!」
「そういうのはベッドの上で言ってくれる?」
「にゃ?いつも、する時は言ってるにゃあ?」
まあ、そうね。
ガキっぽいなと内心で言っておきながら、普通に手を出している。しかし、こんなもんだ。
そりゃ、やんごとなき身分の娘さんがクソビッチでは大問題だが、ミレディの貞操には価値なんてない。
ストライダーズギルドの長の娘であるのは確かだが、所詮は庶民だしな。
それに、ミレディの上の姉妹は二人とも嫁入りしているし、三人の兄もそれぞれがそれなりの仕事をしている現状、ミレディ自身には特に価値がなかった。
もちろん、貞淑であれとは宗教や道徳などで建前上は言いつけられているが、実際のところは「気持ちいいセックス」という娯楽を、庶民が我慢できるか?って言えばねえ……。
因みにミレディは、俺と付き合う前から非処女だったぞ?
何でも、幼い頃に恋仲だったストライダーの少年と、子供の頃に一発やったんだとか。
でもまあ、その少年は無理な冒険をしてあっさり死んで、ミレディはそれにショックを受けて……。
バカで粗野ですぐ死ぬストライダーより、金持ってて洗練されてる、手に職を持った男に憧れるようになった訳だ。それが俺ってことね。
そんな訳だから、あんまりこう……、貞操観念がしっかりしている訳じゃない。
後はほら、この世界って多神教だからね。
姦淫というか、産めよ増せよを推奨するタイプの教えとかもあるっちゃあるし。
そういうことだ。
「あっ、ワインありましたにゃ!」
「お、あったか?何本残ってる、俺も欲しいんだ」
「まだ十本くらいありますにゃあ。……ワイン、お好きなんですかにゃ?」
「そこまででもないさ。俺も、来客用だ」
「おおっ!やっぱり、凄腕の薬師様ともなると、偉い人がお家に来るんですかにゃ?!」
「石鹸の事業でな……」
「ああ、マクシミリアンさん……」
「そういうことだ」
そんな訳で、俺達はワインを二本ずつ購入。
買い物用のバスケットに入れて、市場を見て回る。
「あ!レッドベリー!」
レッドベリー。
野苺みたいなものだな。
そのままではかなり酸っぱくて中々食えんが、蜂蜜を混ぜて煮込むと食える味になる。
そうやって作ったジャムをパイにしたものが、この辺では定番の「ちょっといいおやつ」だ。
蜂蜜については、養殖などは特にしていないが、蜂型の魔物がいて、そいつがかなりの蜜を溜め込む。
倒して腹を割くと、ワイン瓶一本分位の蜂蜜が詰まってるんだよな。倒したらドロップアイテムがポン!と出てくるとかではない辺りに厳しさを感じる……。
ただ、魔物は、普通の生物とは違って、少ない餌と短い期間で早く大きく成長するから、この世界の資源問題は実はそこまで深刻なものでもない。
少なくとも、地球の中世ヨーロッパよりは豊かなのでは?
技術は置いておくとしても、富というか、土地の豊かさとかの話をすると、ヨーロッパ圏ではないのかもしれない。
まあだからこそ、魔物という明確な敵対種がいながらも、人間同士で戦争をする!みたいなアホなことをできる余裕がある訳で、良いことだろ!と言われれば、うーん?って感じ。
「レッドベリーが出てくると、春だなーって感じがしますにゃあ」
「ああ、そうね。今年も何事もなく春を迎えられて、ホッとしてるよ」
「にゃはは……、今年の冬は流行病が多かったですからにゃあ……」
「全くだ。流行病の治療薬は領主の命令で作らされるものだから、売っても利益は殆どないんだよ」
「で、でも、領主様の覚えがよくなりますにゃ!」
「……まあ確かに、領主からの覚えがいいから、俺は城壁の内側に店を出せてるんだが、それでもさあ」
「そ、それに!領主様の娘さんとも懇意にしてるとか〜?逆玉ですかにゃ?!」
「あの虚弱お転婆娘と?介護はなあ……」
「あはは、聞かれたら殺されるんじゃ?」
「まあそれはそう」
そんな風に、領主とその娘の悪口を言いながら、俺達は帰路につき……。
俺の家でミレディを抱いてから、土産を持たせて帰らせた。
こうして、デートは終わり、また日常へと戻ってゆくのだ……。
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