第17話 猫人の看板娘
シオと狩りをして、マーゴットに魔法を教えてと、遊んでいたらもう週末。
土曜日に相当するであろう「ソリドの日」は、毎週、街の広間で市が開かれる。
市場は、その週に必要であろう必需品から、遠方からやってきた輸入品などが並ぶ貴重な日……。
地球のように、二十四時間営業の店舗なんてなく、何でも揃う百貨店なんてのものない。
輸送網とか、在庫管理とか、そう言ったものが未熟だからな。
だからこのタイミングで買い出しをしないと、食べ物や着るものが、金は持っていても手に入らない!なんてことがある。
いやもちろん、店舗そのものはちゃんと街中にあるのだが、新鮮な肉や野菜とかはこの日にしか手に入らない。家畜の屠殺とかもこの日の早朝にやるからな。
後はこの街にないもの……、例えば遠方の本やワイン、柑橘類などの果物に、香料、植物性の布、香辛料など。そう言ったものは、この市で手に入れるのが普通かね。
因みにミッドフォードの主要な産業は、農業、鉱業、宿屋運営の三つだな。
農作物や鉄を、開拓の最前線である「辺境都市」に送りつけて、辺境都市に出入りする商人を宿に泊めて儲けている訳だ。
さて。
そんな訳で今日は、朝の鐘が鳴る頃にはもう、広場に人が集まっていた。
もちろん、人口過密都市のモナコやマカオほどのギチギチ感はないが、東京二十三区くらいの密度はあるなと感じられる。雰囲気的には中東やアジア圏のバザールとかそういうタイプの賑わいだ。
いや、総数的には一万人足らずってところなんだろうが。
ミッドフォードのこの街に住んでいるのは一万人もいないし、ミッドフォードの周辺にある他の農村やらを諸々含めても十万人は行かないくらいかなあ……?
近隣の農村の住民や、旅人に行商人、通りがかりのストライダーなど諸々合わせて、市に顔出ししているのが一万足らずってことね。
まあ中世都市の人口なんてそんなもんだ。
広場には屋台がずらりと並び、敷物を敷いたところに人が座り込み露店で何かを売っている。
もちろん、ちゃんとした屋台でちゃんとしたものを売る商人も多いが、謎の薄汚い露天商とかもあって面白みはある。
……残念なことに、こう言う露店で当たりの品物を引いたことは一度もないが。俺の観測範囲が悪いのかね?ゲームとかではこういう露店にすっげえ掘り出し物とかあるもんなんだがなあ。
とにかく、そんな露店と屋台がずらりと並んでいる。
毎年一度の「歳市」ならば、高級な織物や毛皮、宝石や、魔煌石なんてのもここで競りに出されることがあるんだが……。
今日みたいな毎週開く週市では、飲食物や日用品などがメインだな。
具体的に?
農民の皆さんが持ってきた野菜とか、家畜とか。
それを使った簡単な料理……、まあこの地方ではミートパイかな?
半円状のパイ生地に、豚の端肉のミンチと林檎、リーキ、タマネギ、ドライフルーツとナッツ類などをフィリングにして、シナモンの香りを利かせたものだな。
えっ、肉とフルーツ?合わなくない?……と一般通過日本人は思うかもしれんが安心してほしい、ちゃんと日本人の舌には合わないから。
俺は仕事の都合で海外に行くことも多かったのでそんなに気にならんがね。
あとはちょっと高いが、蜂蜜ベースの調味液で照りを出した焼き鳥とか、豚肉のソーセージとかもよく売ってるぞ。
この辺は川があるから、焼いた川魚や、塩茹でした川エビなんかも売っている。
飲み物は断然、エールだな。
そんな、雑多な飲食物の匂いをスルーしながら、俺は。
「あっ!おはようですにゃあ!」
ストライダーズギルドの長の娘、ミレディと会っていた。
え?うん、デート。
ミレディ。
まだ十代程度の若い半獣人。
ストライダーズギルドの長は男で人間だが、その妻が猫科獣人で、娘であるミレディは半獣人という訳だな。
ダークブラウンの髪に猫耳がトレードマーク、若くてパッション溢れる美少女だ。あと巨乳。
シオは絶壁、マーゴットは普通盛り、トリスはロリって感じだから、デカいおっぱいを揉みたい時はミレディのを揉むことにしている。
デカパイ供給たすかる……。
で、ミレディは、そのデカパイを俺の腕に押し付けるようにしながらくっついてきて、こう言った。
「ドルーさん、今日は来てくれてありがとにゃ!」
んー、媚びっ媚びでかわええ。
「いやいや、ミレディの為だからな」
「えへへ、嬉しいにゃ!じゃあ早速、お店見て回るにゃ!」
はい。
本日のデートは、ミレディが市を見て回って良さげなものを買いたいというタイプのやつ。
女の買い物は長いから付き合いたくない?
んー、いかにも短命人種の言いそうなこと。
俺みたいなチェンジリングはエルフ並の長命種なので時間は実質無限。
それを思うと、一日二日程度を女の買い物に付き合って潰すのも悪くない。
あとそういう態度だとモテないから気をつけようね。
「ドルーさん、とりあえず何か食べてきませんかにゃ?お腹減ったにゃ〜」
おっと、それよりもミレディを構うか。デートだしな。
「良いね、屋台ならサム爺さんところの揚げパイとかが良いんじゃないか?」
「おっ、定番ですにゃあ〜!」
二人で向かった先は、惣菜屋のサム爺さんの屋台だ。
ここでは、餃子くらいのサイズの一口揚げパイが売られていて人気なんだよ。
しかし人はそこまで多くなく、隠れた名店っぽい扱い。
「よう、サム爺さん。調子はどうだ?」
「おお、ドル坊か。この前の痛み止めはよく効いたよ、ありがとな」
「そうか。だがあれは強い薬だから、飲む量は守ってくれよ?」
「もちろんだ。薬の使い過ぎでぶっ倒れた肉屋のボナンザは今でも話題になるくらいだからな。それで……、今日はデートかい?良いねえ、若くてよお」
「そうだ、羨ましいだろ?揚げパイを二袋くれ」
「あいよ」
禿頭に口髭を生やしたサム爺さんにパイを貰う。
作り置きされているものらしいが、まだ温かいな。
サクッとした口当たり、中身は鹿の魔獣肉と、鳥の魔獣のゆで卵、それとリーキとパースニップ的な根菜だな。
地球の揚げ餃子のような味付けで旨い。
「んー!美味しいにゃあ!」
ミレディもご満悦だ。
俺もまあ、旨いと思う。
肉の品質が若干アレだが、腹を壊さない程度。
味は、魔獣肉なんでワイルドな味わいかな。
下手な畜肉より魔獣肉の方が旨かったりするからな、この世界。
「ほう、サム爺さんってば腕を上げたなあ」
「サム爺さんは、どこでこんなレシピを思いついたにゃ?揚げ物って、もっと南方のものなんじゃ……?」
と、ミレディ。
するとサム爺さんは半笑いで言った。
「そりゃ、そいつに習ったんだよ」
と、俺を指差して。
「……え?」
「ん?サム爺さんの惣菜屋のメニューは、俺の監修が入ってるぞ?」
だってこの世界の飯ってあんまり美味くないんだもん。
サム爺さんのところに定期的に魔獣肉を卸す代わりに、俺の監修をちょいと受け入れてもらってるんだ。
「えー?!そうなんですかにゃ?!」
「サム爺さんは昔、ストライダーをやっててな。まだその頃はミレディも子供だったから覚えてないだろうけど、そこそこ腕利きだったんだぞー?」
「へえー……」
「死んだ兄貴の惣菜屋を継いでストライダーを引退したんだが、その時にドル坊に色々と料理を教わってな!それが流行って、今じゃいい暮らしができてる!本当に、ドル坊には感謝してるよ!」
そう言って親指を立てて見せるサム爺さん。元気だなあ。
「ドルーさんって、本当に色々やってますにゃあ……」
そんな感じで、路上で楽しく食事をした……。
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