第16話 『庭園』での語らい

俺は『庭園』にて、マーゴットに怒られていた。


「前々から思っていたけれど、ドルーは、魔法の使い方が雑。魔法を道具としか思っていない、敬意がない」


「よく言われるよ」


「暴発すると、危ない。『真語』は本来、人の身には過ぎた力。便利に操れるなどと思い上がるのは良くないこと」


「それはそう」


「……ドルー!」


うひぃ、前世含めて六十年以上生きてるのに、こんな若い子に説教されるのは嫌だあ……。


「マーゴット、安心しろ!使い方はよく知っているから暴発なんてさせないって!」


「……本当に?『修復』のことも知らないのに?」


うーむ……、うん。


誤魔化しの言葉を考えた。


「実は、俺の魔法の師匠は人間じゃなくてな」


「……ヒトの魔法は知らない、と?」


「そういうことになる」


「チェンジリング、妖精の取り替え子、……まさか、妖精の師を?!」


「詳しくは話さないが、そんなところだ」


なんかね、そうらしいんだよね。


この世界での妖精は、とても力があるが気まぐれな存在。どちらかと言えば「精霊」みたいな感じ?


土地や部族によっては信仰対象になるレベルの存在だ。


幻の大魔獣、「龍」などと同等の格の存在と言えば分かるだろうか?


つまり、半神的存在って訳だ。


「……妖精に魔法を習うなんて、伝説の存在としか思えない。ドルー、貴方は凄い人?」


「さあな。だが、武名もいらんし、魔法使いとして成り上がるつもりもない」


「それは何故?」


「俺が欲しいものは、平穏な生活だからだ。成り上がり、隣人を疑いながら権力闘争をして、血に塗れた覇道なんてごめんだね」


「……分かった。ドルーは、変な人だけど、信用はできる。その言葉に、きっと嘘はない」


はぁ、良かった。


マーゴットとは仲良くやっていきたい友人というか恋人というかそういうものだからな。


嫌われずに済んで助かるよ。




折角なので、庭園の果樹園で好きな果樹をもいで良いよと言ってあげた。


「!!!!」


すると、貧弱白髪エルフとは思えない機敏さでシュババ!と動き出したマーゴットは、カゴいっぱいに様々な果実を詰めて持ってきた……。


マーゴットの好物は果物なのである。


しかし、持ってきた果物は、林檎と梨、葡萄と苺、それとオレンジくらいのもの。


南国フルーツの類は持ってこないようで……、ああ、そうか。


「知らない」のか。


この世界は魔物がそこら中にいるから流通のためのコストが大きく、輸入品は高級になりがち。


この辺だと小ぶりな林檎や洋梨がメインで、葡萄と苺はもっと南の方、オレンジなんて海外のものだけだ。


南国フルーツなんて、まだ見つかっていないのだろう。


転移魔法で世界のどこにでも行けて、集めた果実を急速に育てて品種改良しまくれる俺は、例外の存在なんだよな。


「た、た、食べて良い?!良いの?!」


「いいよ」


「ぶ、葡萄、苺も、南方のもの。多分、この街で買えば金貨三枚はする……!オレンジなんて、生のものは初めて見た!ほ、本当に、良いの?!」


「いいよ」


するとマーゴットは、意を決して葡萄を口に運んで……。


「ひゃああ♡」


とろけた。


「こ、こっ、これ、おいひ、美味しい!すごく、すごく、甘い!」


あー、まあ、品種改良してるからな。


前世で食べたルビーロマンに近づけようと頑張ってるんだが、まだなんかちょっと足りねえんだよなあ……。


「これ、大きい!何でこんなに大きい?」


葡萄の粒を摘んで見せてくるマーゴット。


俺は答えた。


「美味い果実が実る木を残して、他は全部切り倒す。そうして、美味い果実だけをずっと育て続け、またその中で一番美味い果実が実る木以外を切る。そうやって続けていると……、すごく美味いものだけが残る」


「……ドルー、天才?凄い、神!」


絶賛されてしまった。


気分がいいし、南国のフルーツも食わせてみるか。


パイナップル、マンゴー、バナナなどをカットして食わせてみる。


「美味しい!見たことのない果実……、どこの国のもの?」


「ん、ああ……。海を越えて、この大陸一往復分くらいの距離を南東に行くと、大陸があってな。そこの部族民達に貰った種を育てたものだ」


ピタリ、と。


マーゴットの動きが止まる。


「……南東?大陸?」


「ん?ああ、そうだ。知ってるだろ?冒険王クリスティウス・コロンボの……」


「あれは伝説!真実ではないのが学会では定説だった!」


「でも本当にあったし……」


「……まさか、『転移』?」


「あー、それも伝説の真語なのか?」


「……そう。あらゆる破壊を元に戻す『修復』、この世界のどこへでも行ける『転移』、時間の動きを操る『時間移動』、最も小さき粒へ還す最高の破壊術『元素分解』、そして国すら滅ぼす『隕石落下』……。こう言ったものが、伝説の真語と伝えられている」


んえー?


「おかしくないか?」


「……何が?」


「『時間移動』は、やった瞬間邪魔されるだろ?」


「……『時の守護獣』と戦った?」


「アレだろ、空間転移バシバシしながら襲いかかってくる半個体状のシシガミ様みたいな……。あと『転移』は座標検索が難しいだけであって、移動そのものは楽だな。『元素分解』は魔力量が必要な割に大したもんではない。『隕石落下』は……、強いけどわざわざ使うほどでも……?」


マーゴットは大きなため息をついた。


「…‥もう気にしないことにする。ドルー、果物を食べる」


そう言って、また果物を食べ始めた……。




そうして、昼食としてフルーツを食べた後に、また魔法の個人授業をしてやって。


真語について少し教えてやり、お土産に果物をたくさん持たせて帰してやった……。


マーゴットもやっぱり、可愛いよなあ……。


シオと違って、胸もそこそこあるしな。いや、ないのも好きだけどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る