第14話 魔獣狩り

「はああ……っ!うりゃあ!!!」


シオが叫び、飛びかかってくるバーゲストを受け止める。


部族民、褐色肌に細マッチョ的な腕の筋肉。体格はむしろ小柄なのだが、その腕の太さは、女の子にしてはかなりしっかりしたもの。


しかしそれは「ヒト」のもので、獣に……況してや「魔獣」に叶うはずはない。


だが現に今。


『ギャガアアアア!!!!』


「こんにゃろ!おらっ!えいやーっ!」


女の子が、ヒグマほどの化け物と、殴り合いをしている、できているのだ。


よく見れば、熱源が近くにあるかのように、シオの身体の周りの空気は揺らめいており……。


その瞳には、青白い光が灯っていた……。


俺のような、「見える」存在からすると、シオの肉体に青い炎のようなオーラが纏わりついているのがはっきりと分かる。


つまり、これがどういうことか?


……「魔力」の力である。


この世界では確かに、魔法使いは極めて稀少で、ほんの少しの火の玉を出す程度の魔法すら、使えるようになるのに年単位の修行が要る。


しかし、「魔力」を扱える人間は、魔法使いよりかは多い。


魔力を使って、身体能力や手持ちの武具を強化したりするこの技術を、この世界では「魔技」と呼び……。


「くのっ、このっ!くらえっ!おりゃあ!」


『ギャヒィ?!』


シオのような、一流の戦士であれば。


肉体に魔力を纏わせて強化し、筋力と防御力を高める、『剛体』の術は、必ず体得していた……!


だからシオは、この巨体の魔獣と格闘戦ができて、普段から身の丈ほどある大剣を片手で振り回すことができたのだ。


「よーし、そのまま抑えていてくれよ!」


「な、長くは保たないからねーっ!」


「すぐに終わる!『קיבוע מטרה, קרן פירוק(崩壊光線)!』」


そこに俺は、魔法を放つ。


崩壊光線……、緑のビームを。


これは、触れたものを分解する光線だ。


『ギャッ?!グオアアアアアアア!!!!』


浴びると、見た目は変わらないが、体内の筋繊維や毛細血管が断裂し、細胞が破裂して、どんどん身体が崩れていく。


今回は素材を残したいが故に、完全崩壊はさせないが。


いやそりゃ、完全崩壊した肉塊を持って行っても、買い取ってもらえんしな。


『ギャアオオオオオオ!!!グウオアアアアア!!!』


この光線を浴びたバーゲストは、浴びた部分の神経全てに「返し」のついた針を抜き差しされているような苦痛を味わう。


生きたまま「分解」されるというのは、それくらいの苦痛だ。


「おおおっ!な、なんか効いてる?!」


「今のうちだ!槍で仕留めろ!」


「分かった!うりゃーーーっ!!!」


『ギャーーーッ!!!!』


シオが、腕に魔力を纏わせた……『剛力』という魔技を使って放った、投げ槍の一撃。


それは、俺の崩壊光線を受けて、苦痛に身を捩り暴れているバーゲストの眼孔に突き刺さった!


シオの筋力は凄まじい。攻城兵器のバリスタ級の威力が籠った投げ槍は、眼孔から入り、目玉を寸断し、脳を破壊。有り余る威力はそのまま、槍の先端が内側から頭骨を突き破って、穂先が半分飛び出てくるほどだった。


大きな大きな断末魔を上げて、バーゲストは倒れ込む……。


「……やった!倒したよ!」


……討伐完了だ。




帰り道。


「いやー、凄いね!何あの魔法?」


「崩壊光線だな」


「見たことないなあ……?普通魔法って、雷とか炎を出すんじゃないの?緑の光出てたけど」


「まあ誰も知らない『真語』を使ってるからな」


「へえー、あれって当たったら死ぬの?」


「人間なら十秒で溶けて死ぬぞ」


「溶ける?」


「ああ、ドロドロのスライム状になると言うか……」


「じゃあバーゲストが苦しんでたのって、溶かされてたからなの?怖〜……」


「秘密だからな?」


「分かってるって!……にしても、なんでバーゲストを?高く売れるのは分かるけど……、それならゴールドダックとかの方が良くない?美味しいし」


「あー、それは俺が最近、趣味で新しい魔剣を作ってるんだけど……」


「え?は?待って?魔剣?!」


「魔剣の材料として、魔獣の甲殻が必要だったんだ。この辺りで強い甲殻魔獣と言えば、やっぱりバーゲストだろ?」


「えっ、え?趣味?これ君の趣味?!」


「あ、もちろん、甲殻分は俺の買い取りってことで、分け前はそっちが多めで良いからな?」


「え、あ、うん……?」


「魔剣、作ったら見せてやるよ」


「わ、わー、楽しみだなー……?」


そんな無駄話をしながら、俺とシオは街へ戻った……。




で、ギルド。


「にゃああっ?!バーゲストにゃっ?!!」


酒場で給仕をしているミレディが、驚いて腰を抜かした。


それもそうだ、かなりの大物だからな。


少なくとも、二人で狩れるものではない。


だがまあ、俺は三級、シオは二級の高位ストライダー。信用はあるので、変に疑われずに引き取ってもらえた。


その金額は……、なんと二百二十万リド!


甲殻の一部を俺が貰ったことも勘定に入れて、シオには百二十万……金貨十二枚を渡した。


「わあっ!これなら新しい大剣も買えるし……、一月は保つよー!ありがとー、ドルー!」


「構わんよ」


「この後、飲まない?勝ったんだしさ!」


「良いよ、けど飲み過ぎるようなら止めるからな?無駄遣いし過ぎるなよ?」


「うんっ!」


こうして、俺は、シオと狩りをして大金を稼いだ。


命懸けだが、まあ、楽しいアクティビティだったな……。

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