第13話 森歩き

はい。


じゃあ早速、街の近くにある森で狩りをやっていくこととします。


「何狙うの?ファングボア?サベージスタッグ?」


「イノシシもシカも、そこまでの金にはならんだろ?」


「じゃあ……、シルバーウルフとか?」


「惜しいな、黒い方だ」


「まさか……!森林墓地の『バーゲスト』をやるの?!二人だけで?!」


「そうだ」


「あんなの、魔法使いがいないと……って、そっか。君、魔法使いだったもんね。なら、行けるかな……?」


頭の中でイメトレと言うか、算盤を弾くと言うか……。とにかく、考え込むシオ。


「僕は剣はないけど、『剛体』を思いっきりやれば三十秒は耐えられるはず。それだけあれば、二回くらいは魔法を使ってくれるだろうし、瀕死とはいかなくてもかなり痛手を負わせられる。そしたら多分逃げる……?どうだろ、向かって来ても槍で……、うーん、行けそう、かな?」


ぶつぶつ言っているようだが……。


「まあ、安心しろ。スゲー魔法を見せてやるからな」


と、俺は言って。


シオの肩を抱いて、そのまま街を出た……。




門番のおっさんに挨拶してから、門を出る。


門前は、人通りが多く人や馬が道を踏み締める為に雑草が生えておらず、簡単な街道がそこから伸びる感じだ。


もちろん、街道と言っても、馬車一台が通れる程度の簡素なもので、決して地球のようなコンクリで舗装された道とかじゃないが。


土の道だから、雨なんか降るとドロドロで酷いんだぜ?


ま、ここ最近は晴れているから問題ないだろうし、俺の魔法天気予報でも今日は晴れと出ている。


心配ないな、進もう。


……で、しばらく街道を進んで、十分くらいかな?


そうするともう、森へ続く道。


いや、道ではないな。


何度も言うが、舗装されてねンだわ。


森の中、道なき道を行くことになる。


迷ったら?


死ぬよ。


普通に死ぬ。


中世世界ぞ?そりゃ死ぬわい。


まあでも、この辺で一番大きな川である「プロメロス川」に沿って歩けば人里には着くから大丈夫じゃない?


プロメロス川の支流がこの辺にはあって、そこには炭焼き職人達の集落があるから、そこで然るべき金額と敬意を払えば、街まで案内してもらえるよ。多分……。


おっと、森だな。


普通、中世ヨーロッパにおける森は、豊かな資源の宝庫であり、当然として領主などの権力者の所有物だったのだが、この世界ではもう少し緩い。


魔物の存在があるから、だ。


完全に、森の全てが領主の所有物!と、割り切って宣言してしまうと、例えば森の中に大規模な魔窟(ダンジョン)などが知らぬ間にできていて、魔物達の大氾濫!なーんてことになったら、領主の責任問題になってしまう。


なので、森の資源や狩猟権を一部平民層に開放することで、平民にも森の管理の責任と義務を負わせて、もしもの時のダメージを分散したい!と。


そう言う感じに、どこの国もなっている。


一応、名目上では、森はその地の領主のものだが、もしもモンスターの大氾濫があった時には、街人達も動員されるし、近隣の他領主も可能な限り手を貸すことを義務付けられている……。


何せ、いつどこに魔窟ができて、いつ大氾濫が起きるかなんて、誰にも分からないからだ。地震雷火事大風、災害と一緒。


災害が起きたことは領主の責任ではない、みんなで解決しようね!と。


そういうことだった。


しかしまあ、街人達も毎日戦うなんて普通に嫌だろう。めんどくさいから外注したい。死んでもいい余所者いねーかなー?


はい!そこでストライダー。


……そんな訳で、ストライダーはある種の兵士でもあるって訳だ。


有事の際は真っ先に死んでこいと言われるが、その分特権として、限定的ながらも狩猟権を持ち、森の魔獣や獣を狩って稼ぐことができる。


更に言えば、魔獣は増えるのも育つのも早いからな。こうして、間引きすることは推奨されているくらいだ。


しかし、闇雲に殺したりするのはよくない。限度はある……。


「うりゃっ!」


『キャイン!』


俺はそんなことを考えつつ、飛びかかって来たオオカミに蹴りを入れて弾き飛ばした。


『キューン!キューン!』


オオカミは、蹴られた右半身を庇いながら、森の奥へと消えていく……。


「あれ?殺さないの?」


「最近はイノシシが増え気味でな。オオカミには、ちょっと多めに食ってもらわんとならんだろ?」


「へー、『導きの鷹』みたいなこと言うねえ」


『導きの鷹』……。


この街を根城とする、狩猟専門のクランだな。


「実際そうだしな。魔獣は増えやすいとは言え、殺しまくるのは良くないんだよ。殺しても持っていけないしな」


「そうだねえ、荷物が増えるのはやだなあ」


「じゃあ、行くぞ」


「うん」




そうして半日ほど歩き、たどり着いたのが「森林墓地」……。


遥か昔の墓地らしく、朽ちて苔むした石碑らしきものがいくつかある、森の中の広場……。


魔法使いは殆どいないような世界だが、それでもファンタジー。


このような放棄された墓地では、陰気の含んだ魔力が溜まり……、魔物が生まれる。


「……来たよ!」


そんな森林墓地の主と言われている、大型の魔獣。


黒い体躯に、ヒグマほどの大きさ。


堅牢な骨格とワニのように大きな顎門を持ち……。


甲殻と、その分泌物からできた鎖のような触腕を複数、背中から生やした、化け物。


バーゲストが現れた……。


『グオオオオオオオオオッッッ!!!!!!』


バーゲストは大きな咆哮を一つ上げると、朽ちた石碑の上から飛び上がり、大顎を開いて襲いかかってきた!


さあ、戦闘の始まりだ!

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