第12話 狩りの前の一幕

朝。


起きてから顔を洗い、歯を磨いたところで……、呼び鈴が鳴らされる。


家のドアを開くと……。


「エ"へ、えへ、エヘヘ……!オはようデす……!」


「うおっ、おはよう」


謎の黒髪デカ女がいた。


……いや、謎ではないな。


黒髪姫カットの、人相が悪い、長身痩躯の女サムライ……。


ストライダーズクラン『青のほうき星』の副団長……。


「カエデか」


「エへ、名前、発音、合ってまズねぇ……!」


カエデちゃんがいた。


「どうした、カエデ?こんな朝から……、あ、いや、シオを探しに来てくれたのか?」


「え"へ、ハイ、です……!シオ、ここに居るですカ……!」


あー、やっぱりな。


カエデは見た目に反してめっちゃ良い子だから、昨日の夜にクランで借りてる宿に戻らなかったシオを心配して、探しに来てくれたってことだろう。


青のほうき星は、シオみたいな部族民とか、カエデみたいな外国人とかの、訳アリな女達のクランにして互助組織。


真面目で良い子なカエデは、シオのことをちゃんと心配してやってるんだろうなあ。


「良い子だねー、えらいえらい」


女なのに、俺と同じくらいの身長があるから撫でづらいが、頭を撫でてやる。


「ァ、エ"っ?!いやいや、えへへ……!」


ふふっ、いつになったらこの国の言葉の発音がまともにできるようになるんだこの子……?もう五年くらいここに居ないか?


……まあ良いや。


「ふぁあ……、あ、カーディじゃん。おっはよー」


お、シオが起きて来たな。


「ァ、シオ!ダメだよ……!外泊する時ハァ、ワタシに言ってヨぉ……!」


「あー、ごめんごめん!でもどうせ、僕はドルーんとこ以外じゃ外泊なんてしないんだから大丈夫かなーって……?」


「ダメだよー……!心配したジャない……!」


「ごめんってばー!」


うーん、かわいい。


カエデも人相は悪いとはいえ、美形ではあるからな。


朝から目に優しいぜ!




……で、顔を洗って、朝食。


カエデも誘ったが、「ご馳走になるナんて申し訳ナいデす……!」と言って帰ってしまった。


とりあえず、だが、手ぶらで帰すのは申し訳ないから、自家製のジャムを押し付けておいた。


副団長であるカエデには好かれている感じはするが、団長には若干嫌われてるからな俺……。


まあ、訳アリ女達の互助組織である青のほうき星の女の子達を何人か食ってる訳だから、警戒されるのはうん……、そうね。


けどアレだぞ俺は、ちゃんと大切にしているし、避妊薬も飲ませてるし、アレなら産んでもらっても良いぞ本当に。


愛人数人を養うに余りある金はあるからな。


それに、足りないならちょっとまた「発明」すれば、金なんていくらでも……。


爵位も、名誉称号である一代騎士くらいなら取れそうだし、取っても良いよ?


いや、面倒なのはヤダけども、女の子の為となるとちょっとくらいは頑張るよそりゃ。


今んところ、ペニシリン的なものとバイアグラ的なものと、最悪は趣味で作った「エリクサー」とかあるからな。


え?ああ、この世界はファンタジーだけど、魔法は希少な技術だから、「回復魔法でどんな怪我も治る!」とか「マジックポーションを飲むと何でも治る!」とか、そんなんはないぞ。俺はできるが。


ポーションはあるし、効き目も凄いが、お値段の方はもう本当に高い。


それに、複合的な効果の薬ってほぼないんだよね。


傷を治すったって、「消毒」「血止め」「縫合」「自然治癒」と色々こう、プロセスがある訳でしょ?


それを一つにまとめるのが難しいのよ。


まとめたやつもあるけど、それは値段の割にそこまで効く訳でもなく、あと腐るし……。


だから冒険者は、傷治しのポーションはそこそこに、基本的には血止めの軟膏とか持ち歩いてるな。


癌を治す!とか、インフルエンザを治す!とか、そういうポーションはもっと無い。


魔法もそう。


回復魔法というものはあるが、万能ではなく、病気には効かないし、欠損が治ることとかも基本的にはない。俺はできるが。


そんな訳なので、飲むと傷病が治る水薬を魔法で作って、「霊薬」だの「エリクサー」だのと言ってお偉いさんに献上すれば、金なんざいくらでも……。


……いや、いいや。


そういうのは、そうなってから考えよう。


今は飯だな。


朝は普通に、ベーコンと卵焼き、サラダとトースト。


これだけなんだが、この世界ではご馳走らしく、シオは朝から腹一杯に食べていた。


まあ卵とかかなり高いもんなあ……。


鶏の品種改良があんまりされてないから、毎日卵を産まないんだよ。


滋養があり、うまいものである卵は、高級品だった。


それを贅沢に四つも、腐っていない上に香辛料たっぷりの風味良いベーコンの上に乗せられて半熟に焼かれてお出しされるのは、シオ曰く「幸せの味」なんだそうだ。


さあ、飯はこんなもの。


準備をして、狩りに行くぞ。




準備。


シオは、部族民の戦士としての装い……、すなわち、草木染めの前垂にホルターネック状のブラ、サンダル。そこに、魔獣の牙が連なる首飾りに、獣の頭骨と皮を加工して作ったベルト。ベルトには、ナイフと小物入れがぶら下がっている……。


そして本来ならば、身の丈ほどある巨大な剣を持つのだが……。


「お金がないんだぁ……」


という訳なので、本日は手投げ槍をお持ちになっていらっしゃる。


「ま、まあ、投げ槍は部族での狩りで使ってたし!大丈夫だよ、大丈夫!」


ふぅん、そう?


で、俺も準備をする。


俺が使う武器は基本的に、ロッドとショートソードだ。


ロッドは身長より少し短い程度の長棒で、「アイアントレント」という木の魔物から削り出したもの。木の魔物とは言うが、材質的には鉄なのでまあ、鉄棒でもあるな。


ショートソードは店売りの高品質なもの。鋼の剣だ。肉厚だが短くて取り回しのいいものを愛用している。


服装は鉄板を入れたブーツと、動きやすいタイトなズボン。上着はシャツの上から厚手のコートを羽織り、肩、腕、腰、胸を守る革鎧を着る。


それに、狩りで使う罠などの道具を入れたウエストポーチと、食料を詰めた小さなバックパックも持つ。


こんなものだろう。


今は朝の七時くらいか?


ちょうどいい時間帯だ。


「よし、行くぞ!」


「おーっ!」

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