第11話 南方の女戦士

今日は市場は開いてないな。


市場は週末だ。


このミッドフォードはそこそこに大きい街なので、市場は週に一回のペースで開いている。


王都なんかは毎日市場が開いているらしいが、そこまで人の多いところに住むのは大変そうだしな。地価も物価も高いだろうし……。


やっぱり、この程度の片田舎が一番過ごしやすいだろう。


そんな訳で、俺は市場で野菜を買い始めた……。


もちろん、食わない。


この世界の品種改良がろくにされていない野菜は、苦くてスカスカ、美味しくないんだもの。


だが都市に住んでいて全く食品を買わないのも怪しまれるし、家畜の餌として考えれば、俺が「庭園」で育てている高級品よりも安物の方がたくさん手に入って良い。


後は、成分を魔法で抽出して染料や薬なんかにもするな。


葉物野菜の薄緑は綺麗だし、根菜のカーキーやイエローも目に優しい。紫や青なんてのもいける。


果物なんかは、果糖のみを抽出したり、ジャムなんかにして知り合いに渡している。


後は香料として使ったり、医薬品として娼婦達の香水にして売り捌いたり?


とにかく、そんな大した量ではないが、植物も買っている。


肉類は逆に売っているな。


ストライダーだから、森で狩ったイノシシやシカを売れるんだよ。


布屋から布を買うこともあるし、刃物とかも買う。


できるだけ、買えるものは買おうという意識ではあるのだ。


俺だけが稼いで金を溜め込み過ぎても良くないからな。


「あら先生!今日はいいキャベツが入っているのよ!いかがかしら?」


「ああ、もらうよ。いくらだ?」


「一つ五百リドでいいわよ」


「安いな、二つくれ」


「まいどあり!」


こうして野菜売りのおばちゃんからキャベツなどを買い、荷物を抱えて街を歩いていると……。


「や、やあやあ!奇遇だねドルー、こんなところで会うなんて!あ、荷物重そうだね?持ってあげよっか?!」


シオが湧いて出た。


部族民の出の女ストライダーだな。


察するところ……。


「金がなくて、今日の飯も食えないってところか?」


「うげっ、何で分かるのさ……?」


「お前に金があった試しがねえだろうがよ」


「……お願い、ドルー!ご飯食べさせて!この三日間、碌に食べられてないんだよー!」


手を合わせながら頭を下げるシオ。


「『青のほうき星』では、食わせてもらってないのか?」


「もう何回も素寒貧になっちゃってるから、団長にどやされちゃって……。何とか投げ槍は買えたから、これで明日にでも魔獣を狩って売らなきゃ、立場がなくなっちゃうよー……」


しょーがねーなー……。


「明日、俺もまた狩りに行く予定だから、手伝ってくれるなら食わせてやっても良いぞ」


「本当?!ドルー、大好きー!」


そう言って俺に抱きついてきたシオを引き摺りつつ、俺は家へと帰って行った……。




「おかえりなさい、アンドルーズ様!」


「ただいま」


帰宅すると、ドアの前で出待ちしているトリスがいた。


いつもそうだ、特にそう躾けた訳ではないが、この子には俺しかいないから、俺に全てを捧げようとしてくる。


どんなに寒い日も暑い日も、こうやって俺を待っているのだから可愛いものだ。


優しく頭を撫でてやってから、俺は手洗いうがいをして料理の準備に入る。


「いらっしゃいませ、シオさん!」


「おー、魔族ちゃんかー。元気だった?」


「はいっ!」


シオはトリスと話してくれている。


シオも余所者の部族民で、ストライダーだ。他人を差別しない。……良くも悪くも、な。


「ほら、シオも手を洗っておけよ」


「はーい」


さて……、どうするかな。


シオは肉と甘いものが好きらしいから、適当に肉メインで作ろうかね。


……フライドチキン。


フライドチキンが食いたいな、フライドチキンにしよう。


付け合わせはもちろんポテト。


コーンの水煮から作ったバター炒めと、ザワークラウトを中心にピクルスを添えて申し訳程度にバランスを取り、デザートにはアイスクリーム。


油で重いメニューだが、ストライダーにはこんなものでちょうど良いはずだ。


本当はローストやパイなんかを焼いてやりたいが、今急に来られたから用意してなくてなあ……。


今あるのが、この前に森で仕留めた鳥型モンスターの肉だから……。


はい、じゃあパッとチキンを揚げます。


これがねー!地球で一番有名な、ケンタッキー州のフライドチキン屋の味を再現する遊びを定期的にしててぇ……!


今、バージョン0.91くらいで、もうちょっと研究すれば記憶にあるあの味に届きそうなんだよ……!


しかし、プレーンのチキンを再現したとしても、ホットチリバージョンや、期間限定のブラックペッパー味にハニーマスタード味、ガーリックソイソース味などとバリエーションが多い。


それらの再現もやろうとなると、人生一度じゃ足りんだろうな。長命なチェンジリングに生まれてよかった!




「ひゃああ!相変わらず、ドルーは料理がうんまいねえ!たまんないよー!もぐもぐ……!おいしー!」


はい。


シオは一人で、チキンを20ピースと、ポテトを十個分、そして酢漬けを瓶一つ分と、アイスクリーム二リットル分くらいを一人で平らげた。


魔力はカロリー摂取で回復する為、ストライダーでも兵士でも騎士でも、食事量は多くなりがちだ。


俺も同じくらい食うから、「庭園」産の高級素材はなるべく温存したくてな……。


いや、なくなるって程じゃないんだが、死んだ家畜を甦らせるのにも、収穫した野菜を再生するにも、ある程度の魔力が必要な訳で。


だから、無理ではないんだが。


庭園の広さが四十ヘクタール前後、そのうち農地は二十ヘクタール。一ヘクタールで人一人を養えるくらい。


つまり、二十人までなら面倒を見れる。


うーん、心配性なだけかな……?


今後はもっと、『庭園』のものを出して良いかもしれない。


「ドルー!僕ねえ、君に言われたらどこにでも駆けつけるからね!戦士としての腕前、ドルーに預けるよ!」


「はいはい」


「あー!本気にしてないー!僕はねー、ドルーになら従っても良いって思ってるんだけど……」


「『青のほうき星』に所属してるんだろ、そこで頑張りな」


「むぐ、団長には恩があるけどぉ……、やっぱり僕、本当ならドルーのものになりたかったなあ……」


「兵力なんて持ってても使い道ないんだもんよ」


「えー!南で戦争やってるんでしょ?行こうよー!僕とドルーなら、首百個は掻けるよ?!」


「ダメです。俺はここでの暮らしが気に入っているんでな」


「ちぇー……。本当ならうちの団長より強くて、その上魔法使いなのにさ。なんだよもー、スローライフ?とか言っちゃって……」


「偉くなっても良いことなんざ何もないからなあ」


「名誉でしょ?」


「要らねーよそんなん。それにそんな立場になったら、こうしてお前にうまい飯を食わせてやることもできなくなっちまうぞ?」


「あー、それはやだなぁ」


そんな話をしながら飯を食って、ベッドに突撃してきたシオと添い寝(意味深)をして、今日は終わり。

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