第6話 「家族」
非常に楽しく、非常に面白い。
無料キャバクラを楽しんだ俺は、家に帰ってきた。
「あっ、お帰りなさい、アンドルーズ様!」
ててて、と。
小さな魔族の女の子が駆け寄ってくる。
うちの奴隷、トリスティアが俺を出迎えたのだ。
魔族は体格やらオプションパーツ(角や尻尾など)やらの個人差が大きいのでよく分からんが、この子は十年前からこの姿をしているので、多分これが成体なのだろう。
体格は十三歳の子供くらいかな?
顔の作りも幼なげで、声なんてあまったるぅーいアニメ声。
まあでも、骨盤とかはしっかりしているから、性行為はできるが。してるし。
とにかく、魔族とかいう不思議種族なので、年齢については考えていない。抱き心地は普通に良いし……。
「今日の業務報告をしますね!今日は、傷薬が五個、咳止めが十二個、うがい薬が三つ、腰痛軟膏が四つ、それと薔薇石鹸が十七個、牛乳石鹸が十四個売れました。売り上げ金額は〜……」
……こうして、俺の代わりに店番をもしてくれる。
非常に助かる!
まあ、文字の読み書きも計算も、簡単な診察術も、仕込んだのは全部俺。
なのでこの子は、俺の為にその能力を使うべきだと思っているらしい。
現代日本人から見ると可哀想な子だろうが、人権とか自由の尊さとか、そんなことを奴隷に教える訳ねえよなあ!
教えたところで、それを望めるほどにこの世界は豊かじゃねえし、特に魔族は被差別階級なんでね……。
魔族は、世界の敵である『魔王』を産んだ種族として嫌われていて、ちょっと差別感情がヤバめな土地だと、普通にいきなり衛兵に殺されたりするぞ!
この街でも、魔族の立場は良くはないが、そこは「俺の奴隷である」ということで立場を与えてやり、守ってやれているという面が強い。
それに、俺が教えた読み書きに歴史、簡単な診察術、製薬なんかは、この世界じゃ「秘伝」のそれ。
学校があって、どんな知識も万民に開かれているやさしい現代地球とは違い、こういう有用な知識はある種の特権階級が秘匿して然るべきものなのだよ。
それを惜しみなく、孤児の魔族に教え込むってのはまずあり得ないし……、そうだとしたら、一生かけて恩返しをしなきゃおかしいと考えられている。
……なんだかんだ言ったが、結局、奴隷という立場がこの世界にあるのは、そういう世界だからだ。
もし、奴隷が許されないような社会情勢になれば、俺は別にこの子を解放しても構わないとは思ってるよ。
「……以上で報告を終わります!」
「ああ、ありがとう。今日もよく頑張ったね」
「はいっ!えへへ……♡」
……まあでも、親兄弟も居らず、生まれてからずっと迫害され続け、奴隷の身分にまで落ちて。
そして俺に買われて初めて他人の優しさに触れたこの子には、俺から離れるって選択肢は思い浮かばないようだがね。
んー、かわいいね。
手洗いうがいを済ませてから、トリスティア……トリスにキスをして、それから晩飯の準備を始める。
今日は……、そうだな。
シェパーズパイにしよう。
ミートソースとじゃがいものパイだ。
ミートソースは作り置きの瓶詰めを開けて、じゃがいもは茹でて……。
サラダも作るか。
グレープフルーツとにんじん、ズッキーニとベビーリーフ的なものを、エビのアヒージョの瓶詰めから出したエビを混ぜて、オイルで和える。気持ち、塩胡椒もしておくか。
スープは残り物の野菜の切れ端をみじん切りにして、マッシュルームを入れ、顆粒コンソメで煮込んだ雑スープ。
こんなもんかな。
デザートに作り置きのビスケット……ああ、日本風ではなくて洋風の、つまりスコーンとホットミルクで出せばOKだろう。アメリカ式の、生地にチョコチップなどを練り込んだものは、殆どケーキみたいなもんだからな。
トリスと二人で料理をして……。
「「いただきます!」」
食事の時間だ。
俺は確かに、無料キャバクラにハマっているが、だからと言って家庭を疎かにするようなダメな旦那にはなりたくない。
故に、家の中でも、ちゃんとコミュニケーションは取る訳なんだよね。
食事をしながらも、俺はトリスと和やかに会話する。
「トリス、今日の仕事はどうだった?」
「ちょっと、忙しかったです。皆さん、咳止めを欲しがってまして……、まだ寒いですから」
「そうだな、春なのにまだちょっと寒い。皆、風邪気味なのかもしれないな」
「でも、普通の人はお仕事を中々お休みできないらしいですからね……。アンドルーズ様のお薬で、風邪が治るの良いんですけど……」
「貧民殺し(インフルエンザ)の流行は、今年はもう終わったからな。とりあえずは大丈夫だと思うぞ」
「そうですよね!」
「ま、薬屋に来る奴は皆、調子が悪いから来ているんだ。だから、調子の悪い奴ばかりと会っているとトリスは思っちゃってるのかもな」
「ギルドでは、ストライダーの皆さんはお元気でしたか?」
「ああ、みんなピンピンしてたよ。『青のほうき星』なんて、魔窟攻略をしてきたとか」
「『青のほうき星』……。確か、女性のみで構成された、ストライダーのクランでしたね。シオさんとマーゴットさんはお元気でしたか?」
「元気そうだったよ。ま、シオはいつも通り金がないない〜と嘆いてたけどな」
「そうなんですか?」
「あいつは武器代が馬鹿にならんのもあるけど、色んなものを衝動買いするし、未だに詐欺師に騙されて金を持ってかれたりするしで割りかし社不なんだよなあ……。いや、部族民だからなのかもしれんけど」
「お金がないのは辛いですからね……」
そう言ってワインを一口飲むトリス。
「ま、どうしても金がないならうちに来いっては言ってあるよ。青のほうき星の子達もみんな優しいし、路頭に迷うことはないだろうさ」
俺はパイを食べつつ、言葉を返した。
「シオさんも、うちの子になるんですか?」
「どうだろうな。だがまあ、シオとしては、俺を連れて故郷に帰りたいそうだが」
「へえ……、南方の密林ですね。前から見てみたかったんです!」
おっと、ナチュラルに着いてくる気だぞこの子。
「いや、行くつもりはない。まあ、シオにも色々事情があるだろうから、一度顔を見せに行くくらいは良いが……」
「はあ……、事情、ですか?」
「ん、ああ……。シオみたいな部族民は、未婚ではどんなに強くても一人前と見做されないからな。暫定でも、婚約者として男を連れ帰って、一人前としての称号を得たいということだろう」
「ああ……、部族民の方は、名誉を気にされますからね」
「名誉の為なら冗談抜きで死ぬことも厭わないからなー」
取り止めのない会話。
まるで親子のように、笑顔で語り合う。
まあやることはやってんだけど、それは良いとして、俺はトリスのことを妹とか娘とか、そんな感覚でめちゃくちゃ可愛がっている。
何故か?
それは……、トリスはかわいいので……。
可愛い女の子には、無限の価値があるんだよ!
「ん、もぐもぐ、おいひいれすね……」
パイを食べて顔を綻ばせるトリス。
あーかわいい。
この子は本当にいい子で、手がかからなくてさ。
なんでも美味しく食べてくれるし、俺にたくさん甘えてくれる。
前世では、「家庭」に良い思い出がマジで1ミリもないが、今はこうして「楽しい家族ごっこ」をしてくれるのだから、ありがたい話だ。
歳若く、しかし赤子や分別のないガキのように聞き分けがない訳ではなく、俺に全幅の信頼と無限の愛を捧げて、身体すら開いてくれる。
ここまで都合がいい存在は、真に家族とは言えず、故に「家族ごっこ」なのだが……。
俺からすれば、本物の家族より都合が良く、楽しいので問題はないな。
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