第4話 物語を終えた男

これが、今流行りの……いやもう流行ってないのか?よく分からないが、「なろうチートもの」という括りの世界ならば、俺の物語はもう終わってんだよね。


だって、よく考えてもみろよ?


恵まれない生まれから成り上がり、迫害してきた奴らは軒並み死んでざまあ!して、奴隷の魔族美少女と、そこそこ辺境の城塞都市で、庭付きの家で二人暮らし!


冒険者……この世界では『ストライダー』って呼ばれてるんだが、それの真ん中程度のランクで、本職は薬師!


スローライフをしながら、裏でこっそり魔法使いとしての活動をしている!


いやぁ、最高だね。中学生が寝る前にしている妄想みたいな生活だ。


ここに来るまでにもちろん、色々あったさ。


身寄りのない無頼漢の立場から、街の薬師に成り上がるまでに、様々なことをしたし、ストライダーとしてもベテランと言えるくらいには働いた。


ストライダーになったのが十二の頃だから、もう十三年目だわ。


苦労だってしたし、知り合いが死んだり、俺自身が死ぬような思いだって多少はした。


けどもう、全て終わった後の話なんだわ。


今はなんもないよ、なんも。


このまま死ぬまでこの街で薬師をやるんじゃないかな?


まあ一身上の都合で死ぬのはかなり先になりそうだが……。


とにかく、今はもう何もない。




かと言って、人生の目標がなく、無味乾燥で無意味な生活の始まりだ!という訳でもないんだな、これが。


俺が最近ハマっているコンテンツ、それは……。


「いらっしゃいませにゃ、ドルーさん!」


「お、ドルー!来たんだ〜!」


「おはよう、ドルー」


無料キャバクラである。


……ここはストライダーギルドの酒場。


常識的に考えて、ギルド内に酒場がある仕事なんてあり得ない話なんだが、ストライダーギルドはストライダーのような乱暴者の溜まり場にギルドを酒場として提供することで、善良な一般市民の皆さんの前を粗野なストライダー共が歩ないようにするという高等テクニックを炸裂させている。


……後は、依頼達成後に財布の紐が緩くなったアホなストライダー共から音速で報酬金を回収する、みたいなのもあるだろうが、それはいいとして。


とにかく、ストライダーギルドの酒場でのことである。


この酒場は、ギルド長の嫁さんが差配しており、看板娘にギルド長の娘さんがいる。


で、こちらの、栗毛のショートカットに猫耳が生えた、元気のいい美少女が、その看板娘のミレディちゃんだ。


ミレディは、金を持っている上に薬師という食いっぱぐれない仕事をしていて、その上で顔が良くて他の粗野なストライダーとは違って都会風に洗練された風貌の俺のことが大好きなので、俺にめちゃくちゃ媚び入れしてくれる。


こうして、ギルドの酒場に来る度に、キャバクラか何か?ってくらいに接待してくれるのでマジで面白い。


「お飲み物はいかがしますかにゃ?ワインで良いですかにゃ?」


この女、サラッとワインをおすすめしてくるが、この街……「ミッドフォード」は、北部にある為、温暖な土地でのみ育つ葡萄を使った酒は南部からの輸入品……高級品となる。


その額は、一般的なストライダーが愛飲するエールと比べると、実に十倍!舐め腐っていらっしゃる……。


「ああ、一杯もらえるかな?」


でもミレディは可愛いので頼んじゃうよね。


「はぁい♡」


他のストライダー達は、「おいおい、あの男いかれてやがるぜ」みたいな顔と態度をしているが、知ったことではない。


金なんざいくらでもあるのだ。


何せ、この街の娼館街に香り付き石鹸を卸しているのは俺だ。更に、貴族にも売っている。


ワイン一杯と同じ価格の石鹸を、毎年何千個と売っているのだから、金なんざいくらでもある。


もちろん、回復薬の類や、滋養強壮薬に毒消しに痛み止め、軟膏なんかもかなり売れてるからな。


その額は、年収で二千万リド……。


一般的な職人の倍は稼いでいるのだった。


その上で、薬は魔法を使って色々ズルさせてもらっているので、元手は殆どかかっていない。原価0円である。


実質手取りで千八百万くらいじゃない?


この金額は、愛人が複数居ても養える額だ。


それに付け加えて俺は、ストライダーなら誰にでも付与される狩猟権を使って、自分で新鮮な肉を手に入れ、野菜も魔法を使って手に入れる。食費もほぼゼロ。


そして……、領主から持って来られる、「仕事」の賃金を含めると、騎士の年収すらはるかに超える。


とにかく、金には困っていない。


「ねーねー、ドルーさ、いつ僕らの『クラン』に入るの?」


「ん……、入るべき」


そして絡んでくるのは、ギルド酒場の看板娘だけではない。


二人の女ストライダーもだ。


片や、スレンダー(やさしい表現)で、日に焼けた褐色肌が目に眩しい黒髪の美少女。


もう片方は、儚げな白髪白肌の無口でクールなエルフ美女。


シオとマーゴットの二人だ。


シオは南方の戦闘民族の娘で、この若さながらにして一人前の女戦士。


マーゴットは何と、珍しい魔法使いだな。


この二人には恩を売ってあるのだが、それを縁に仲を深めていくうちに、こうして好かれるようになったのだった。


「いやあ、薬師の仕事が忙しくてさ」


「じゃーうちの専属薬師になりなよ!そしたら、毎日僕のごはんを作ってもらうんだー」


「私は……、『お勉強』、教えてもらう……」


いやあ……、最高なんだよなあ!


何もしてないのに、こうして複数の美女に好かれてさあ!


何もしてなくはないか?ただまあこの世界のガサツな男共と違って、俺は清潔でハンサムで気遣いができるからそれじゃないの?とは思うが、それは良いとして。


とにかく、三人もの美女にモテモテなのは助かるね。


それ以外にも、街の住人や他の女ストライダーにも大人気だし、もう本当に言うことなしだな!


「ねー、僕、ドルーの作ったごはん食べたーい!この前の『魔窟』攻略、すっごい疲れたんだもん!ご褒美ちょーだい!」


「んー?どうするかね……」


「ん」


お?


マーゴットがこっそり、小さな石のかけらを渡してくれた……。


これは……、『魔窟』の核である、『魔煌石』じゃないか!


小さなかけらだが、これ一つだけで数十万リドはする高級品で、マジックアイテム……魔道具の中心パーツになるものだ!


「これは……、良いのか?」


「ん、同じ魔導師のよしみ、ね?」


ああ、そうなんだよ。


マーゴットには、俺が魔導師であることがバレちまってるんだよな。


魔力の波動を見れば魔導師かどうかくらい分かる、とか言われてさ。


なので、黙っておいてもらう代わりに、ちょっと魔法を教えてやったり、食べ物をあげたりとかしてる。


もう出会って数年経つが、マーゴットはちゃんと誰にもバラさずに、こうして魔煌石のお裾分けとかまでしてくれる始末。


本当、好きだなこの子のこと。


「あ、また石渡したんだ。僕は魔導師じゃないから、魔煌石を欲しがったら怪しまれちゃうからさー。何もないんだ、ごめんねー?」


因みに、シオも俺が魔導師であることを知っている。


俺とマーゴットが二人で魔法の話をこっそりしているところを盗み聞きしてしまったという過去があってな……。でもちゃんと黙っておいてくれてる。


「いや、気持ちだけで充分だ。本当に必要なものがあれば、店名義で依頼を出させてもらうよ」


「そんなこと言わずにさ、もうちょっと頼ってくれて良いよ〜?普段お世話になってるんだしさあ」


「ん、同意」


こんな風にして、女の子にモテつつ、程々に仕事をして、楽に暮らしている。


クリア後の世界も中々楽しいもんだな……。

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