一話 吸血鬼-6
※
きっかけはなんだったのだろう。
今となっては忘れてしまった。
だけどひしゃげた風景から滴るあの色。
赤、赤、赤。
血の色だ。
その色だけを覚えている。
変わってしまったのは、あの日だろう。
気がつくと病院だった。
事故に遭ったことを告げられた。
生き残ったのは自分と弟だけで目を覚ましたのは奇跡だと言われた。
一時は心臓が止まっていたほどだったという。
だけど本当は目を覚さないほうがよかったのかもしれない。
死者が息を吹き返せばそれは化け物と呼ばれるものでしかないのだから。
※
千秋庵から出ると白雨と京一は路地裏に回ってみる。
徐々に日が落ちてあたりが暗くなってきた。
「たしかにあまり街灯はないようですね」
白雨の言う通り並んでいる街灯は少なく、路地裏であるということを考えても夜はほとんど通りが見えなくなるほどではないかと思った。
「女性が倒れていたのはこのあたりでしょうか」
白雨が立ち止まる。
コンクリートで舗装されている特に何もない道だ。
意識がなく倒れている状態だったらしいので車通りがほとんどないのはよかったと思う。
「こんなところに一晩中いたのか……」
「ええ。朝に犬と散歩に出ていた人が見つけたとのことでした」
犬、のワードのところでなぜか白雨はチラリと京一を見る。
「なんだ?」
「ふふ、何でもありません。散歩は久しぶりなもので」
なぜか一人で楽しそうに笑っている。
「すでに知っている情報よりあまり得られるものはありませんでしたね。彪さんに怒られてしまうかもしれません」
白雨は軽くそう言うが京一は重い気持ちになった。
次の瞬間、携帯電話の着信音が鳴る。ビクッと震えて取り出すと彪の名前が表示されている。
「おや、噂をすれば」
俺が出るのか?という視線を向けたが白雨はニコニコしているだけで何も言わなかった。
観念して通話ボタンを押す。
「もしもし」
『何か有力な情報は得られましたか?』
うっと言葉につまる。収穫はありませんでしたと言ったらどうなるだろうか。
文字通り首が飛ぶ気がした。
トントンと肩を叩いて白雨が小声で言う。
「スピーカーにしてください」
切り替えると携帯電話に向かって白雨が話した。
「先ほど京一さんと一緒に目撃者の方にお会いしまして、事件当日のことを聞きました。なかなか実り多いお話をすることができました」
実り多かったか?と思うが彪は静かに言う。
『それはよかったです』
あれ、やけに落ち着いているなと思った。
『ところでそちらの用件はもう終わったのでしょうか?』
その時京一は異変に気づいた。
通話口越しに呻き声のような音が聞こえる。
思わず自分への乱暴な行動を思い出してしまった。
何をしているのか。
「はい、ちょうど今から戻ろうかと思っていたところですが」
白雨が言うと彪は言った。
『なるべく早めに帰ってきてください』
それから何でもないことのように言う。
『吸血鬼だと思われる人物を捕まえました』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます