第3話 卒アル

 翌日――。

 小林こばやしくんは最初の休み時間にさっそく卒アルを出して見せてくれた。

 どこの学校の卒アルもだいたい同じで、集合写真と個人写真のほかに、体育祭や文化祭のワンシーンを切り取った写真が載っている。

 パラパラとクラスの個人写真のページを開き、一人の女の子を指さした。


「これ、彼女」


 照れくさそうにアルバムに視線を落とした小林くんの指先をみると、目のぱっちりした可愛い子がニッコリ微笑んでいる。


成田菜穂子なりたなほこっていうんだ……それにめっちゃ可愛い子……)


 しっかり名前までチェックしてしまった……。

 彼女の通う高校は、近隣では有名な私立の女子高だという。


(女子高じゃ、新しい出会いもないだろうし、二人が別れるなんてことはないんだろうな……)


 ふと、そんなことを考えてから、慌てて咳ばらいをした。

 わたし、別に小林くんに不幸になって欲しいわけじゃないんだから。


「小林くんは何組だったの?」


「俺は三組」


 わたしは話を変えようとページをめくりながら、三組の中から探した中学生の小林くんの写真をみた。

 ほんの数カ月前に撮られた写真のはずなのに、今よりも幼く見える気がする。

 小林くんの下の段に、二つ隣のクラスの男子の写真があった。


「あ……田沼たぬまくんって同じクラスだったんだ?」


「そー。ここでは別々になっちゃったけどね」


「そっかぁ……」


 同じ中学から入学してきた人数が多いと、クラスの割り振りで離れてしまうんだろう。

 わたしと美也子みやこは二人きりだったから、同じクラスになれたのかもしれない。

 卒アルはみんな興味があるのか、近くにいたクラスメイトたちが小林くんの卒アルを見に集まってきた。

 普段はあまり話さない子たちとも、自分の出身中学の話で盛り上がり、いつもとは違う休み時間になった。


・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 放課後、わたしと美也子はバス停へと急いだ。

 午後の時間帯はバスの本数が少なくて、一本逃すと一時間近く待たなければいけなくなることがあるから。

 だからなのか、最初はバス通学をしていた子たちも、自転車に切り替える子が増えた。

 わたしたちも来月からは自転車通学に変える予定でいる。


水原北中みずはらきたちゅうの卒アルさ、彼女、可愛かったね」


 不意に美也子にそういわれ、わたしは「そうだね」としか返せなかった。


「でもさ、学校は違うんだし……彼女がいても仲良くは、なれるじゃん?」


「ん……そうかな?」


「あんなに話しているんだし、いいんじゃない? それにさ、嫌だったり彼女に悪いと思ったりしてたら、話さないと思うよ?」


 そうなのかな……?

 少しだけ罪悪感があったけれど、このまま話もしなくなるのは嫌だなって思っていた。

 もしもわたしが彼女の立場だったら、きっと嫌だと思う。

 でも……彼女の目の前でわざと楽しく話をする訳じゃないんだし……と、迷っていた。


「小林くん、別に話さないワケじゃないんだし。私はいいと思うよ」


「そうだよね。話すだけなら構わないよね」


 自分だったら嫌だと思う、そう考えているのに、ズルいわたしは少しでも仲良くなりたくて、このまま今までのように楽しく話を続けていけることを願った。

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