第2話 浮き沈みする
「ねー、ずっと楽しそうに話してるじゃん。なんの話?」
チャイムが鳴って休み時間になると、後ろの席から
ずっとじゃあないかも知れないけれど、話しているところを見られていたのが恥ずかしい。
「なんかね、色んな話をしてたよ。
「そうなんだー? カッコイイもんね、見てるとだけど」
「
「だって大きいバイク乗るの怖いじゃん? 原付ならいいけどさー、私、人、轢いちゃいそう」
ケラケラ笑って答える美也子にわたしも同意すると、小林くんは苦笑して返してきた。
ちゃんと乗れば、そんなに危なくないよと言うけれど、わたしは自分が運転したときに、事故に遭うイメージしか持てない。
それからわたしたちは、休み時間になると良く一緒に話をした。
小林くんの後ろの席にいる
「小林ってさ、どこ中だったの?」
「俺は
「水原北中って、水原駅?」
「んー……水原と
わたしたちの高校は凄く辺ぴな場所の川沿いにあって、最寄りの
わたしと美也子は地元の
小林くんの出身中学がある水原駅は、浅瀬駅まで三駅だから、わたしたちより近い。
「じゃあ、朝はバスなの? 小林くんと会ったことないよね?」
いつも同じ時間のバスに乗るけれど、小林くんと一緒になったことはなかった。
「俺、最初の一週間で萎えて、チャリ通にしてるから」
浅瀬駅の一つ手前の
わたしと美也子は思わず互いの顔をみた。
「バスさ、混むもんね? チャリ通もアリ?」
「うん、そのほうがいい気がする」
バスは学校の生徒たちだけでなく、近隣の企業に通う通勤者たちでぎゅうぎゅう詰めになる。
吊革に掴まる余裕もないほどで、揺れるたびに右へ左へと流れるようによろめくし、足を踏まれるしで、学校に着くころには疲れ切ってしまう。
「水原北から来てる人、多いの?」
「五人だけど、みんな違うクラス。そっちは?」
「私と
「少なっ。ここ、地元中ばっかだよな」
「だって七中まであるじゃん? 水原北も少ないけど、ほかも少ないもんね?」
「うん、最初の自己紹介のとき、ほかの地区のヤツら少ししかいなかった」
「ところでさー、小林って彼女いるの?」
美也子は一瞬、わたしに目を向けてから、小林くんにそう聞いた。
小林くんの表情が今までよりも柔らかい笑顔になった。
「いるよ」
あ……。
そうなんだ?
彼女、いるんだ?
「へぇ、そうなんだ? ねねね、どんな人? 見てみたい!」
「えー……じゃあ、明日、卒アル持ってくるよ」
二人のやり取りを眺めながら、酷く痛む胸に触れることもできず、そこに早くふたをしなければと思った。
ほんの数日、話すのが楽しかっただけなのに、わたしは小林くんを好きになっている。
ちょろい女。
まだ傷は浅いんだから、いくらでも諦めようはあるじゃない?
……でも……ね。
彼女はこの学校にいないんだし、楽しく話すくらいなら、いいんじゃないかな?
駄目かな?
どうする?
わたしはどうしたい?
「そうだ、
「うん」
「やった。ちょっと写させてよ」
「字、うまくないけどいい?」
「俺よりうまいでしょ。全然平気」
ニコニコと差し出す手に、ノートを渡す。
「次の授業のときに写しちゃうからさ、ちょっと貸しておいて」
「いいけど、次の授業でそれ写してたら、次の授業のノート取れないじゃん」
「あ、そっか。でもいいや。そしたら次の授業のノートも写させてよ」
「それじゃあ追いつかなくなるよ! もー……ノート貸して。私が次の授業の分、二冊書くから」
「ホントに!? 助かるー! 相葉、ありがとうな」
こんなやり取りだけで、十分満足じゃない?
仲良くできるなら……彼女がいても、好きを隠していたら、いいよね?
トントンと指先がわたしの背中に触れた。
振り返ると、美也子が笑いながら唇を動かした。
『よかったね』
わたしは緩みそうになる口もとをキュッと引き締めて、小さくうなずいた。
好きだと思った気持ちは、美也子にはすぐにバレてしまった。
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