淡い朱色と黄金色の名残り
釜瑪秋摩
第1話 ファーストコンタクト
目が合うのは、見られているから。
でも、それ以上に、わたしが見ているから。
ざわざわとクラスメイトたちの声で賑わう教室の中で、彼だけが輝いているようにみえるのは、わたしが彼を好きだからなんだけれど……。
また、目が合い、わたしはパッと視線をそらす。
キモいとか思われてたりして……思われてたらやだな……。
仲の良い子たちが話しているのを聞いて相づちをうちながらも、わたしの目はつい、彼を探す。
教室の前に位置するドアに近い席で、輪になって笑い合っている男子のグループに交じって彼も笑い顔。
真ん中あたりのわたしの席からは横顔しか見えないけれど、それだけで十分に満足。
そんなことを考えながら、一人きゅうっとなる胸の痛みに浸っていると、彼の目がわたしに向いた。
『見ていませんよ?』
とでも言わんばかりに視線を泳がせて目の前の友だちへと視線を移す。
もう、わたしってば完全に変なヤツじゃんね……。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「今日は席替えをします」
高校に入学して一カ月が過ぎたころ、朝のホームルームで担任の
入学したときは出席番号順に廊下側の前から順番で席が決まっていた。
先生も、わたしたち生徒も、それぞれの名前や顔を覚えやすいからじゃないかと思った。
黒板に大きく縦に六、横に七つのマス目を書いて番号を振ったコッシ―は、クジの入った箱を出してくると出席番号順に引かせていった。
わたしの順番になりクジを引く。
三十四と書かれていて、黒板をみると、窓から二列目、前から四番目の席だった。
「早くしないと授業が始まるから、みんなさっさと机を動かして!」
コッシ―の声に、みんなが一斉にガタガタと机や椅子を動かしはじめ、その音は廊下まで響いていた。
「
机を押して移動させながら、同じ中学出身の
わたしたちが通う高校は地元中学の出身者が多い学校で、わたしと美也子のような市外からの生徒は三分の一にも満たなかった。
わたしたちの出身中学から来たのは、わたしと美也子の二人だけ。知らない子ばかりの中で、わたしにとって心強い存在。
「わたし、三十四~。美也子は?」
「ホント? 近いじゃん! 私は四十二番だよ!」
「一番後ろじゃん。いいなぁ~」
出席番号順だと三列も離れてしまうわたしたちだったけれど、隣の列になったことで変に盛り上がっていた。
「ねえ、ちょっと通らせて」
机と椅子を押しながら声を掛けてきたのは、
わたしと美也子が急いで場所を空けて机を正すと、小林くんは、わたしの隣に机を並べた。
「……バイク、好きなの?」
小林くんの机に広げられているバイクの雑誌が目に入り、わたしは思わず問いかけてしまった。
ファーストコンタクトは、色気もなにもない話。
「うん。今、欲しいヤツ」
「え? 買うの? でもうちの学校、バイクの免許とるの禁止じゃん? 免許は――」
「シイッ! コッシ―に聞こえたらヤバいでしょ!」
小林くんはくちびるに人差し指をあて、小声で言った。
それをみて、わたしも両手で口をふさいで何度もうなずいてみせた。
「机を並べたら席につけー」
コッシ―の号令で全員が着席する。
小林くんは広げた雑誌を閉じて、素早く机にしまい込んだ。
「
隣から小声で聞かれ、わたしはうなずいた。
「見るのが専門だけどね。バイク漫画とかも好き」
「ふうん。そうなんだ?」
そう言いながら笑いかけてくる表情に、わたしはドキリとした。
コッシ―が色々と話をしているあいだも、ヒソヒソと小林くんと話を続けていた。
話していてわかったのは、好きなものが似ていることだった。
バイクが好き、アニメも漫画も好き、絵を描くことが好き、好きなバンドや音楽も同じ。
だからなのか、小林くんと話すのが楽しくて仕方なかった。
話しながら向けてくれる笑い顔を見るのが、嬉しくて仕方なかった。
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