第六十四話 次なる方策


(ど、どうしよう? どうすればいいんだ?)


 レベル上げは出来たけれど、レベルアップで上がったMPはたったの1。

 これじゃ〈ライト〉の使用回数一回分にも満たない。


 い、いや、でもまだ動揺するには早い。

 もしかするとこのゲームは、MP関連がめっちゃくちゃ渋いのかもしれない。


 どうにかして他人のMPが見れれば……そうだ!


「に、兄さん! ちょっと〈トーチ〉の魔法を使ってみてくれない?」

「え? まあ、いいけど」


 ぼくは他人のHPやMPはゲージでしか見れない。

 でも、消費MPの見当がつく〈トーチ〉の魔法を使ってもらえば、そこから目算で最大MPが割り出せるはず。


「アルマからそんなに見られると、緊張するね」


 なんて言う兄さんには悪いけど、ぼくは兄さんの魔法なんて見ていなかった。

 それよりも兄さんの頭の上、満タンの状態のMPゲージを注視する。


「――〈トーチ〉」


 わずかな集中のあと、兄さんが呪文を唱えた。

 当然その瞬間、MPゲージにも変動はあったんだけど……。



(――ミリしか減ってなああああああい!!)



 その動きのあまりの少なさに、ぼくは心の中で絶叫した。


〈トーチ〉の魔法を使っても、明らかにゲージの端っこの部分が少し減っただけ。

 この減り方からすると、少なくとも兄さんの最大MPは10や20じゃ効かない。


 おそらくは50以上。

 場合によっては100以上ってことだってありえるかもしれない。


(……ふぅ。ちょっと落ち着こう)


 どうも感情の抑えが効かない。

 まあ所詮は「大人だった記憶を引き継いだ六歳」だから、このくらいが年相応なんだろうけど、それで判断を間違う訳にはいかない。


 とりあえず、これではっきりした。



(――今のぼくに、魔法の才能はない)



 考えてみれば、当たり前のこと。

 原作のアルマくんは、十五歳の時点でも魔法を一切使えなかった。


 そんな人間キャラクターがMPだけ豊富という方が不自然だ。

 いや、まあ何か秘めたる力がある証明としてわざとそういう違和感を残す手法もあるにはあるけど、ぼくアルマはそうじゃなかったということだろう。


(まあ、ステータスの傾向を見ても魔力よりも腕力とかの方が高かったし、戦士型だよね)


 これがずっと続くのか、それとも高レベルになると魔法も育つのか、あるいはイベントを経て突然覚醒するのか、それは分からない。


 ただ、子供時代の育成では、あまり当てにする訳にはいかないというのは間違いない。


 ――だったら、今出来ることは……。


 ぼくはパッと顔を上げると、ドリッツさんに向かって勢いよく飛びついた。


「ドリッツさん! このスライムを倒すの、もっと頼んでもいい? なんだったら、毎日とか!」


 ぼくの「これから毎日スライム焼こうぜ!」宣言にも、ドリッツさんは嫌な顔一つせずに応じてくれた。

 しかし……。


「お、おう! 坊ちゃんやる気だなぁ。いいぜ! ……ただなぁ」


 どうも、この「スライム焼き」が有効なのは、位階が極端に低い場合だけ。

 これで位階を上げられるのはレベル5くらいまでで、それ以上をスライムだけで上げようとすると、年単位の時間がかかってしまうとか。


 どうやらスライムを三百年倒し続けてもレベル99は望めないような世界らしい。

 おそらくは自分のレベルより弱いモンスターを倒すとレベル差に応じて入手経験値量が半減してしまう仕様なんだろうけど、やっぱりちょっと世知辛い。


「大丈夫! ありがとう!」


 とはいえ、これで安全にレベルを5まで上げられるなら十分すぎるほどだ。

 なんだかんだ言ってそれだけでMPを倍近くに出来るはずだから、やらないという選択肢はない。


 それに、兄さんが見かねて話してくれたところによると、レベルアップによる能力上昇には幅があるらしい。


 レベルが高くなると能力上昇幅も上がることが多いほか、同じくらいのレベルでも大きく能力が上がったり、そうでもなかったりと波があるとか。


 それは単に事前に設定された能力上昇に波がついているだけなのか、実は毎回、ランダムで能力上昇値を決定しているのか、ゲーマーとしてはちょっと気になる。


(うぅぅぅ。セーブ&ロードして検証したい! 無駄にカーソルをころころ動かして矢印の向きで乱数消費して調整したぁい!)


 ぼくの中のゲーマーの「俺」がそんなことを言って騒ぎ出すが、堪える。

 ないものねだりをしても仕方ない。


 ……そう、「ない」ものをねだっても意味がない。

 ねだるんだったら、「ある」ものにしないと。


「――よし!」


 前世の記憶を取り戻し、絶対原作守るマンになったぼくに、もはや躊躇やためらいなんてものはなかった。

 即座に次の「獲物」に狙いを定めると、すぐに行動に移す。


「おじゃまします!」


 ぼく自身の魔力最大値が低いのなら、外からそれを補填すればいいだけだ。

 つまり……。


「ん? アルマか。何か用かな?」


 ぼくは父さんの執務室に飛び込むなり、こう叫んだ。



「――父さん! ぼく、装備がほしいです!!」




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