第五十四話 世界一ファクトリー


 僕は、どうやらちょっとだけ、やらかしてしまったらしい。


 流石に、そりゃあね。

 今は使い手がいない魔法を学園の新入生がパパッと使っちゃったらまあ、その……ちょっとびっくりするよね?


 うん、わかるわかる。


 ……とはいえ、だ。

 第十三階位の魔法は誰も使い手がいないというのは、「使えると明かしている」人がいないだけで、おそらく原作の強キャラとかは平気で覚えていて使ってくるはず。


 というかきっと、終盤になって物語がインフレしてった場合、「伝説の遺失魔法(ただし雑魚敵もガンガン使ってくる)」みたいになる、僕は詳しいんだ。


(〈ファルゾーラ〉のことを父さんが「失われた伝説の魔法」って言ってた時、「あれ?」とは思ってたんだよなぁ)


 実はこの〈ファルゾーラ〉という魔法、第十五階位の火魔法で、僕は当然普通に使える。

 第十五階位魔法は第十三階位魔法なんかとは比べ物にならないくらい習得がきつかったから、伝説って言われてもそこまで違和感はなかったんだけど、うん。


 どうやら僕の中でのアウトのラインが、大きく狂ってしまっていたらしい。


 でも、本当だったらちゃんと周りの様子を見てから調子を合わせるつもりだったんだ。

 ただ、当初の想定よりも周りのキャラレベルがすごく高かったから、逆に魔法のレベルだけが想定より低かったことに気付けなかった。


 いや、それだけじゃない。


 あのバカ教官に目をつけられなければ。

 模擬戦で皇女が気軽に十一階位なんて使ってなければ。

 兄さんのCVが石影 明でさえなければ。


 そのどこかが違っていただけで、こんな未来は訪れなかっただろう。


「……やめよう」


 言い訳をしたって、何も始まらない。

 僕は確かに、失敗をしたんだ。


 もはや僕は、遺失魔法を使う全校に名の知られた有名人。

 アンケートにあった、魔法の使えない落ちこぼれの主人公像とはあまりにもかけ離れている。



 ――でも、まだだ!!



 まだ、希望は残されている、はず。

 ワールドワンちゃんがここにあったということは、この世界ゲームは〈世界一ファクトリー〉製だということが確定ということ。


 そして、「俺」が好きだった〈フォースランドストーリー〉こと、「フォースラ」もそうだったように、世界一のゲームは周回要素が充実しているものが多い。


 一周目にはどうやっても勝てない負けバトルなどにも、二周目で勝った時を想定して、わざわざ勝利時の分岐が用意してあったりするのだ。


(実際、セイリアとの一騎打ちはそんな雰囲気あったんだよな)


 あれは、一周目では実質的な負けイベントとなってランドイベントにつながり、セイリアをランドから助けることで関係改善。

 二周目以降は素直にセイリアに模擬戦で勝って関係改善。


 結果的に勝っても負けても同じルートに合流する、って感じに調整されていたんじゃないだろうか。


 だとすると、初っ端から魔法が使えて〈ファイブスター〉の仲間入りするのも二周目の想定ストーリーのうち……という可能性も、まだゼロと言い切ることは出来ないような気がしないでもないかもしれない。



(――はぁぁ。もういっそ、原作ガン無視で自分を鍛えまくって、有り余るパワーで魔王を殴って解決! ……って出来たらいいんだけどなぁ)



 残念ながら、それは望み薄だ。


 確かに、精霊と契約出来た今、ストーリーを無視してダンジョンにこもれば、ゲームでラスボスと戦えるくらいのレベルまで自分を鍛えることは不可能ではないとは思う。


 ただ、世界一は割とシナリオギミックには凝る方だし、ラスボスが普通に戦って倒せるような相手とは思えない。

 例えばフォースラでは「魔王の正体は遥か昔に堕天した元天使であり、その魂は通常の手段では傷つけることは出来ない」という設定があった。


 それを解決するパーツは各ヒロインの個別のエピソードに隠されていて、リリサの家に伝わる歌が重要な魔法の呪文だったり、ミューラのイベントで見つけた古文書から魔王の正体が分かったりと、一見関係ないヒロインたちのエピソードが一つにまとまっていくところにカタルシスがあるのだけど、当事者となってしまうと面倒なだけだ。


 ――とにかく、だ。


 想定される原作の動きからは少し、いや、もしかするとちょっとばかし大きくブレてしまったかもしれないけど、ヒロインたちが全員無事ならたぶんまだ大丈夫。


 最悪家の事情とかを根掘り葉掘り聞いたりすれば、原作とは違う方法で原作通りの結果が得られる可能性もある。


 まだ詰んではいない……はず!



(――僕は、あきらめない! 絶対に、原作を守護るんだ!)



 そう心に決めて、決意も新たに教室に戻った僕を、待ち構えていたもの。



 ――それは、〈シックススター〉の一人で魔法公の娘〈ファーリ・レヴァンティン〉がその姿を消した、という最悪の事実だった。



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消えた魔法少女!

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