第二十八話 Aクラス
――今年のAクラスの人数は、僕を入れて十九人らしい。
日本の学校に慣れている僕としては少ないと感じてしまったけれど、もともとが少人数を想定していて、基準を満たす生徒がいないとクラスが成立しないことすらあるAクラスとしては、今年は例年に比べて異例の多さだとか。
それに、いつもなら女子より男子の方が多いのが通例なのに、今年は女子が十人に対して、男子が僕を入れて九人しかいないのもまた、異例のことらしい。
(普通に考えれば、「ファイブスター」の影響なんだろうけど……)
この世界の基になっているのはギャルゲーだ。
男よりも女キャラの方が需要があると判断された結果の人数比、と考えればまあ納得は出来る。
(どうせなら、ぴったり二十人にすればよかったのに、とも思っちゃうけどね)
しかし、キャラを一人作るのにもコストがかかる。
あんまり無駄なキャラを増やして余計なお金をかける訳にもいかなかったんだろう。
ただ、そんな事情もあってか僕の両隣の席は女の子。
特に右隣の子はかなりぐいぐい来るタイプで、お互いに軽く自己紹介を済ませると、
「よろしくねー、レオっちー!」
なんていきなりあだ名で呼んでくるほどに気さくな子だった。
(そっか。学園は、実力主義だから……)
流石に初対面でこれはちょっと面食らってしまったけれど、十五年も貴族の子供として同年代とほぼ触れ合わずに暮らしてきた僕にとっては、こういうノリも久しぶりで楽しい。
席自体も後ろの方の目立たないところを確保出来たし、環境としてはなかなかの当たりと言っていいんじゃないだろうか。
(……座学も、全然問題なさそうだ)
この学園では、基本的に午前中に座学、昼休みを挟んで午後には実技を学ぶ。
しかも、どうもこの学校は実学……というか戦闘訓練を最優先。
座学なんて入学前に済ませとけ、みたいなスタンスが割と見え隠れしていて、座学については試験を受けて単位認定されれば、以後は午前中も実技の時間に使えるらしい。
日本じゃありえないシステムだけど、ここには学習指導要領も教育法もない。
個々の教師の裁量がかなり大きいらしく、そこはやっぱりファンタジーだな、というところ。
(でもまあ、好都合と言えば好都合かなぁ)
幸いなのは、この世界の学力レベルが元の世界と比べると控えめだということ。
いかにこのゲームが高難易度とは言っても、流石に学園で高校数学だのをやらせるつもりは製作側にもなかったようだ。
そうなると、元の世界になかった社会系科目がネックになるかなと思っていたんだけど……。
(社会は、なんかテキストがうっすいんだよね)
入学試験の時にも感じたことだけど、この世界の教育は、不自然なほどに社会系科目の難易度が低い。
もしかすると、ゲームではこの辺をプレイヤーに暗記させてゲーム内の試験問題にでも出していたのかもしれない。
少なくとも、年単位で学ぶと考えると余裕で覚えられるレベルだ。
(これは、早々に免除になるかも)
座学を終わらせて一日フリーになれば、その時間を使って実習という名目で外での戦闘なんかをしてもいいらしいし、興味がないと言えば嘘になる。
これはなかなかいい滑り出しかもしれないぞ、と思っていたんだけど……。
――事件は、実技の授業で起きた。
※ ※ ※
初日の実技授業は屋外訓練場。
お昼を終えた生徒が、各々動きやすい格好に着替えて集まってきたその前で、
「――おっし! ま、今日は初日だし、軽く模擬戦でもしてみっか!」
僕らの指導教官になったネリスという女性が、軽い口調でそう言い放ったのだ。
(な、なに言ってんだ、この人!?)
ざわつく僕らを見まわして、ネリス教官はボサボサの真っ赤な髪をめんどくさそうにかきまわしながら、ダルそうに言った。
「みぃんなお行儀よくしてっけどよぉ。お前らだって、本当は気になってんだろ? ……お互いの実力、って奴がさ」
けれど、その一言で生徒同士の空気が変わる。
やる気のなさそうな態度で、それでいて彼女は蛇のようにじっとりと、僕らの戦意を煽る。
「ま、別に全員に戦えたぁ言わねえよ。ただ、自分の今の立ち位置を知るためにも、こっちが二、三組見繕うからそれで……」
教官がニヤニヤとした笑みを浮かべながら、模擬戦のメンバーを選ぼうとしたところで、
「――その役目、ボクにやらせてください!」
一つの声が、空気を切り裂いた。
――セイリア・レッドハウト。
いつもの鎧を身に着けた小柄な少女が、教官に向かって颯爽と手を挙げていた。
……なぜだろう、なぜだかとても、嫌な予感がする。
「おっ! なぁるほどねぇ。いいねえ、いいねえ、そういうガッツがある奴はお姉さん好きだぞー」
そのねっとりとした口調に、不安が勝る。
そして、その不安を裏付けるかのように、教官はニヤニヤとした笑みを隠さずに、言葉を続けた。
「それでぇ? もしかして、誰か戦いたい相手でもいるのかぁ?」
まるでセイリアが何を答えるか分かっているかのような口ぶり。
ただ、それは直情的なセイリアには、これ以上なく効果的だった。
教官の言葉を受けて、セイリアの瞳が燃え立つように輝きだす。
そして、
「――はい! ボクは、アルマ・レオハルトに勝負を申し込みます!!」
セイリアが示した指の先には、当然のように僕の姿があった。
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なろう名物!!
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