第二十四話 光と闇
別キャラ視点です
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――「それ」が顕現した瞬間、大気が……いや、世界が震えた。
今までに見たことのないほどの光と、濃密すぎる魔力。
離れていてなお、よろめいてしまうほどの閃光に、その場にいた全員が、反射的にその方向を見つめた。
光と同時に押し寄せる、思わず震えが走るほどの魔力。
だが、それ以上に、
「まさか……」
隣から聞こえた姫様の声に、私は少なからず驚いた。
――誰にでも優しく英明で、誰より魔法の才に溢れ、十五歳になったその日のうちに〈光の大精霊〉と契約をした完全無欠の皇女。
彼女の言葉に、確かな動揺を感じ取ったからだ。
しかし、その光のあとに現れたのは、小さな妖精。
妖精は自分の召喚者の方へ飛んでいくと、コミカルな動きで周りのものの緊張を弛緩させた。
そして見せた、風の精霊術。
寒気がするほどの魔力量と、精密すぎる魔力の移動。
「す、すごい……」
「もしかしてあれ〈シルフ〉?」
周りからそんなざわめきが聞こえ、近くに立っていたセイリアがこわばった顔をしたのが分かった。
おそらくは、大して強そうでもない、いや、はっきり言ってその場の誰よりも弱いと思われた少年が、いきなり上級精霊を呼び出したという事実が、認めがたいのだろう。
……なぜなら、彼女が呼び出した精霊は、火属性中級精霊の〈サラマンダー〉。
「当たり」と言われる部類の精霊ではあるが、この学園に籍を置く者ならそうめずらしくもない精霊で、何より「ファイブスターズ」の中では、ただ一人の中級精霊だ。
その顔が悔しさに歪むのも、理解出来ないことではなかった。
――でも、違う。
魔力を肌で感じ取れる私には、分かった。
「あれ」が上級精霊だなんて、ありえない。
あれは……あれはもっと、すさまじいもの。
――人知を超えた「何か」だ。
そこで、試験を担当していた教師のもとへ、慌てた様子で別の教師が駆け寄るのが見えた。
何を話しているかは、流石に分からない。
ただ、二人の表情は険しく、そこにはある種の緊張が感じられた。
(……よかった)
少なくとも、彼らはあれを〈シルフ〉などと勘違いしているのではないと、その表情から読み取れた。
……確かに、風の精霊術を使う妖精は、図鑑には〈シルフ〉しか記録されていない。
けれどそもそもとして、私は〈シルフ〉を見たことがある。
もう一見するだけで、分かる。
存在感、装飾、魔力濃度。
全てが「あれ」とは似ても似つかないものだ、と。
そして、風の精霊術を使う妖精が図鑑に記載がないなら、間違いなくあれは「未知の精霊」。
おそらくは、超級、いや、もっと上の……。
「アルマ・レオハルト……Aクラス!」
考えを巡らせている間に、先ほどの教師によって、「あれ」を呼び出した少年のAクラス入りが宣告された。
あれだけのものを呼び出しておいてなぜ言われた本人が驚いた顔をしているのかは謎だが、まあいい。
同じクラスに配属となれば、あとで話をする機会もあるだろう。
「……っく!」
押し殺した声に振り返れば、一人の少女が悔しそうな顔で踵を返し、その場を後にするのが見えた。
「セイリア……」
何か声をかけるかは迷ったが、もとよりそこまで親しい訳でもない。
それに、このような葛藤を乗り越えるのは、自分の力以外にないだろう。
私は一度首を振ると、反対側を振り返る。
「姫様、私たちも……」
そう声をかけた一瞬。
本当に一瞬だけ、私は見た。
完全無欠であるはずの彼女が、いつも笑みを絶やさぬ〈帝国の至宝〉が、呪いさえ込められているほどの視線で、あの少年と精霊を、にらみつけていたのを。
「ひめ、さま……?」
けれどそれは本当に刹那のこと。
姫様は私の視線に気が付くと、一瞬で柔和な笑みを浮かべ、
「あぁ、ごめんなさい。思わず、見惚れてしまっていました。……参りましょうか」
いつもと変わらない穏やかな声で、私に返答する。
「い、いえ」
そこにはさっき見せた憎しみの色など、もはや微塵もない。
姫様に付き従って移動しながら、私は先ほどの姫様の変貌を思った。
(気の、せい……?)
光の加減か、はたまた精霊の悪戯か。
単なる見間違いだったと片付けるのが、もっとも簡単だ。
だが……。
だが、私には見えたのだ。
憎々しげに少年を見つめていた彼女の唇。
それが小さく、こんな言葉を紡いでいたのを……。
「――光の神霊〈ティターニア〉」
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強者は悟る!(なおアルマくん蚊帳の外)
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