第二十話 スタートライン

ここからが本当のスタートです!


―――――――――――――――――――――


「これから試験なんだろ。気張っていけよ」

「ありがとう!」


 乗り合い馬車の御者さんから思わぬ激励をもらって、僕は試験会場に降り立った。

 時間が早めのせいか、思ったほどの人数じゃない。


(いや、こんなもんなのかな)


 主要貴族の子女と、それから超有望な平民だけしか入れない学校だ。

 前世の学校を基準に考えるのがおかしいんだろう。


(早く到着出来て、よかったな)


 今日の僕は、「イベント絶対見逃さないマン」だ。

 入学試験でイベントと来たら、決まってる!



 ――「平民が気に入らない貴族」イベントだ!!



 このゲームはベタな展開が多いらしいし、どこかですぐ平民に絡む貴族が出てくるはず!

 絶対に介入のタイミングは逃さない!


 僕はそそくさと受付を済ませると、全体が見える場所に移動して、会場全体を監視していたのだが……。


(……イベント、起こらないなぁ)


 特に何事も起こる様子はない。


 もしや、あの逃げ出してしまったマインくんがイベントキャラだったりとかしないだろうか。

 というか、マインくんは大丈夫だったんだろうか。


(……うーん、暇だ)


 イベントが起こらないなら、早く来すぎてしまったかもしれない。


(あ、そうだ。周りの人のレベルを見よう)


 マナー的にはあまりよくないことかもしれないが、好奇心には勝てなかった。

 僕はこっそりとモノクルを身に着けると、怪しまれないようにポーズを取って、その間にレベルを測定していく。


(ええと、まずは……)


 一人目は、僕の目の前を緊張で吐きそうな顔で歩いている女の子。

 モノクル越しにレベルを見ると……おお、26!


 すごい!

 ストーリーの都合ガン無視で鍛えてきた僕よりも、まさか1だけとはいえレベルが高いとは!


(人は見かけによらないなぁ……)


 じゃあ次はその奥を死にそうな顔で歩いているひょろひょろした男の子を……。

 と見てみると、LV28。


 その近くにいたいかにも弱そうな小柄な女の子……LV33。

 さらにその近くにいたルリリアとちょっと似ている子……LV36。


 お、おおっと!?

 これはもしかすると、隠れた強者が潜んでいる当たりゾーンを引き当ててしまったか?



「――すぅ……はぁぁぁぁぁ」



 特に意味はないけどポーズを解いて伸びをして、大きく深呼吸。

 なぜだか理由の全く分からない冷や汗が出てきたけど、全く問題はないので大丈夫。


「偶然。ただの偶然だよ、偶然」


 特に意味はないけどそうつぶやいて心を落ち着かせる。

 もちろん偶然なので、今度はサンプルが偏ってそんな偶然が起きないように、さっきとは逆の方にモノクルを向ける。



 シャキッとした態度で風を切って歩いてる少年はLV38。

 その隣で軽薄そうにしゃべっている友達がLV37。


 ……その近くを通りかかった少女がLV44。

 ……少女とすれ違ったガタイのいい少年がLV59。

 ……その少年と肩のぶつかった眼鏡の少年がLV47。



(あ、あれ? なんか……あれ?)



 ……LV35。

 ……LV51。

 ……LV48。

 …………LV68。



 いつしか自分よりも弱い奴を求めて、必死でモノクルを動かしていた。

 もう失礼がなんだとかそんな余裕は頭から消え去っている。


 なのに……。



 あ、あそこにうずくまっているいかにも逃げ出しそうな男の子は……LV29。

 ぐっ、ならあっちで笑っている争いとは無縁そうな女の子……LV70!?


 ならなら、逆に大穴を狙って引率しているっぽい上級生……LV67。

 ならならなら、いっそそこにいる先生っぽい人とか……LV84。

 初心に帰って、あっちの吹けば飛んじゃいそうな体型の少年……LV58。



「……はぁ、はぁ」



 いつの間にか、息が切れていた。

 だが、そんなことを気にする余裕すらなかった。





(――僕、弱くない?)





 ぐるぐると、視界が回転する。

 何を、どうして間違ってしまったのか、そんな考えが頭を回って、回って……。


 その時、俄かに入口の方が騒がしくなる。



「……来た」

「あの方たちが?」

「ファイブスターだ」



 さざめきのように潜めた声が広がって、会場の空気が一変する。


 聞いたことは、ある。



 ――ファイブスターズ。



 奇跡の世代の代名詞。

 それぞれ国をしょって立つ五人の要人の子供。


 そんなことを考えていたせいだろうか。

 わっ、と密やかな歓声が上がった瞬間、僕は反射的に振り向いた。


 振り向いて、しまった。



 ――それは、本当に奇跡のような偶然だったと思う。



 振り向いた「僕」と、顔を上げた「彼女」。

 奇跡的に、一瞬だけその五人の中心にいた「彼女」と完璧に目が合った。




「あ……」

「え?」




 見えたのは、輝くような銀髪と、底知れない深みを持った瞳。

 ファイブスターズの中心、帝国に輝く一番星〈皇女フィルレシア〉。


 まさに瞬きするほどの間だけの、奇跡。

 けれど、その一瞬だけで僕には十分だった。



「……っひゅ」



 一瞬で、皇女の情報が目に飛び込んで、





    LV250





 僕は死んだ。


―――――――――――――――――――――

ミリしら転生ゲーマー 終!!

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