第十六話 旅立ち
「……じゃあ、行ってくるよ」
翌日。
僕は両親や使用人の人たちに見送られ、帝都へと旅立とうとしていた。
あ、ちなみに僕は別に内政チートとか移動チートとかは持ってないので、えっちらおっちらと馬車旅だ。
「くれぐれも、気を付けて行動するのよ」
「分かってるよ、母さん」
母さんがまだ心配そうに声をかけてくれるが、昨日のことがあって目が合わせられなかった。
それに、その母さんの懸念は、流石に無用の心配というもの。
何しろ僕は絶対原作守護るマン。
むしろ帝都にだって僕以上に用心深く行動する人間なんていないだろうと断言出来る。
すると、今度は父さんが僕に近付いてきて、そっと僕の手に小さな包みを握らせた。
「アルマ、これは私からの餞別だ。旅の間の暇つぶしにでも使うといい」
「わ。ありがとう、父さん」
どうやら、僕の旅立ちのために準備をしていたらしい。
昨日まではそんな素振り一切見せなかったくせに、全く粋な人だ。
「お前なら学園でもやっていけると信じているよ、元気で」
「うん、頑張るよ」
父さんらしい短い激励の言葉にうなずいて、
「……それじゃあ」
名残惜しいが、別れはもう昨日済ませた。
僕が馬車に乗り込もうとしたところで、
「――おにいちゃーん!」
そこには小柄な影があった。
ルリリアだ。
「ルリリア、来てくれたんだ!」
僕が喜んで駆け寄ると、ルリリアは一瞬だけ嬉しそうな顔をして、すぐにプイ、と横を向いた。
「べ、別に、お兄ちゃんのことを見送りに来たワケじゃないんだからね! ぐ、偶然! 偶然だから!」
「あ、うん」
えっ、じゃあ君何しにここまで来たの、とは訊かない。
なんというか、色々個性的な子なのだ。
それに、わざわざ僕のことを見送りに来てくれたのは嬉しい。
こんな時でもいつも通りの彼女に、僕が少し表情を緩めていると、
「こ、これ!」
父から贈り物をもらったのとは別の手に、何かが押し付けられる。
「わ、わたしだと思って、大事にしなさいよね!」
手作りだろうか。
ちょっとだけ不格好に作られたくまのぬいぐるみが、僕の手に握らされていた。
「ありがとう、大切にするよ」
「う、うん……」
僕が礼を言うと、ルリリアは照れ隠しの言葉を言うのも忘れたように、顔を赤らめてうなずいた。
妹のように思っていたルリリアも、もう十四歳。
可愛らしく頬を染めるその姿は、年相応の少女のようにも見えた。
「じゃあ、また、ね」
もう少し話していたい気持ちはあったけれど、これ以上は未練になる。
思いがけない贈り物ももらったところで、僕があらためて出発しようと馬車に向かおうとすると、
「ま、待って! そ、それと、こっちは道中のおやつで、あとこっちは酔い止め、それから、それから……」
「え、えぇぇ……」
出るわ出るわ、どこにそんなもの持ってたの、と言いたくなるくらいの量の小物が、ルリリアの手から押し付けられる。
君、僕の見送りに来た訳じゃないって建前なんだよね、みたいな言葉が流石に喉のところまで出かかったが、僕はなんとかこらえた。
その全部を馬車に押し込んでから、さらに何かを取り出そうとするルリリアの手を、僕は無理矢理に握った。
「ありがとう。……僕も最後にルリリアに会えて、嬉しかったよ」
「……ぁ」
ルリリアが硬直している間に僕は踵を返して、馬車に乗り込んだ。
これ以上いると、別れにくくなってしまいそうだ。
「出してください」
僕がそう言うと、馬車は静かに動き出した。
流れていく故郷の景色と、小さくなっていく両親とルリリアの姿。
馬車はそれらを置いて、遥か帝都までの道を意気揚々と進み出し
「――さ、最後じゃないから! わたしもすぐに、帝都に行くから! だから、だから……」
だんだんと遠ざかっていくルリリアの声を出発の狼煙として、僕は学園へと旅立ったのだった。
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旅立ちはやっぱりヒロイン(?)の見せ場!
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