第七話 兄


 これまで分かったことをまとめると……。


 ぼくには「好きな物」が設定されていることから、ゲームではある程度重要な可能性が高い。

 ぼくの幼馴染(?)であるルリリアちゃんの声優が有名な人なので、ゲームでは重要な役の可能性が高い。


(これは……もしかすると、もしかするな)


 ぼくがゲームの主人公で、ルリリアちゃんがゲームのヒロイン。

 そんな可能性が出てきたんではなかろうか。


(あるいはこの世界はイチャイチャ系ギャルゲーの世界で、ルリリアちゃんとの同棲生活が始まったり……)


 なんてちょっとキモイ妄想を頭の中で繰り広げていると、知らず知らずのうちに自分の部屋を通り過ぎてしまっていた。


「あれは……」


 ただ、そこで窓越しに知っている人の姿を見つけたぼくは、これ幸いとそちらに向かって駆け出した。



「――レイヴァン兄さん!」



 庭の魔法練習場では、ぼくの二つ年上の兄が、一人で魔法の鍛錬をしていた。

 ぼくが声をかけると、真剣な顔をして一心不乱に魔法に打ち込んでいた兄さんが、振り返る。


「アルマ! イングリット伯とのお話は、もう終わったのかい?」


 見ただけで性格までいいと分かるさわやかな顔がぼくを捉え、ぼくの姿を認めた途端、すぐに笑顔になる。

 その完全無欠なイケメンフェイスから繰り出されたちょっとハスキーな感じの声を聴いた瞬間、ぼくは気付いた。



(――兄さんの声、「石影 明」さんじゃん!)



 ぼくも聞いたことがあるくらいに有名で、演じられるキャラの幅が広いことで有名な人だ。

 主役も当然のようにこなすほか、最近では物語の黒幕役なんかをやるのも多くて……。


「ハッ! に、兄さんは大丈夫だよね? 裏切らない方の石影 明だよね?」


 思わず聞いたら、「なに言ってんだこいつ」って顔をされたけど、まあ普段は兄さんとぼくはすごく仲がいい。


 というのも、子供の頃のレイヴァン兄さんは魔法の才能がありすぎたのか、自分の魔力がうまく制御出来なくて人を傷つけてしまうことがあったそうだ。

 そんな中、孤立しがちな自分にこっそり会いに来て、自分の魔法を見て「すげー!!」と素直に喜んでくれるぼくに救われたんだとか。


 いやまあうん。

 さすがに物心つく前のことは「ぼく」もそこまで覚えてないんだけど、すごい小さい頃からぼんやりとだけど日本人としての記憶があったせいか、普通の子供よりはものが分かってたし、魔法にはすごい憧れがあったっぽいんだよね。


 当時は病弱であんまり外に出してもらえなかったこともあって、隙を見つけては兄さんのところに遊びに行っていた、っておぼろげな記憶が確かにあった。

 ただ……。


「せっかくだし、アルマも一緒に練習していかないか? 初級魔法、まだ使えてないんだろ?」

「う……」


 魔法に憧れていたのは過去のこと。

 どれだけ練習しても芽が出ないので幼いアルマくんはすっかり魔法練習嫌いになってしまって、今はサボりがちだ。


 い、一応言い訳をしておくと、まだ八歳なのにここまで魔法を使える兄さんがすごいのであって、ぼくが特別ダメな奴という訳ではない……はずだ。


 しかも、兄さんはただ魔法が使えるだけじゃなくて、勉学や運動も完璧だ。

 いや、流石に数学とかだったら前世の記憶を全活用したぼくの方が出来ると思うけど、歴史とか礼儀作法とか、前世アドバンテージがない部分ではすでに完敗している。


 もはや、どっちが転生者なのか分からない完全無欠っぷり。


(と、いうか……)


 あらためて、兄さんを見る。


 さわやかなイケメンな上にCV石影 明で、有力貴族の長男だけど偉ぶるところもなく、勉学にも運動にもずば抜けた才能を持ち、弱冠八歳にして四属性全ての魔法を操る天才にしてCV石影 明(二度目)。



 ――これもう、どう考えても兄さんの方が主人公なのでは!?



 自分で言うのもなんだけど、ぼくとスペックがあまりにも違いすぎる。


(ってことは、ルリリアちゃんは兄さんのヒロイン!? ぼくの方が先に、好きだったのに!!)


 と頭の中でバカなことを考えていると、


「アルマ……」


 兄さんが「こいつ、また発作が……」みたいな残念なものを見る目でぼくを見ていた。

 ちょっと苦笑いしてから、兄さんはぼくの頭に手を置いた。


「アルマは僕にとって自慢の弟だし、みんなにもアルマがすごいってこと、分かってほしいんだよ。だから、アルマにはもう少し頑張ってほしいんだ」

「うぐっ!?」


 ルリリアちゃんとはまた違った意味で澄んだ瞳が、ぼくを貫いた。


「それに、しばらくしたら学園に通うための勉強が始まるだろ。僕も、アルマと一緒に通いたいし……」


 さらに追い打ちをかけてくる兄さん。

 そうは言っても、成果の出ない努力ほどつらいものはないと言うし……。


(あ、そうだ)


 ぼくは思いついて、最近ご無沙汰だったメニュー画面を呼び出した。


(魔法の項目は……あった!)


 ステータスを端から端まで眺めていると、【魔法適性】というそのものズバリの項目が存在していた。


 どうやらどの魔法に素質があるのか、アルファベットで示してくれているらしい。


(うおおおお! 神様、ありがとう!)


 今まで全く進展のなかった魔法関連にようやく希望が出たことで、ぼくのテンションも上がっていた。


 地味だけどこれが転生チートという奴だ!

 ぼくはニッコニコで自分の【魔法適性】の項目に目をやって、


「……へ?」


 それを目にした瞬間、思わず口から間抜けな声がこぼれた。


(いや、え? ……え?)


 今まで、どうしてぼくがなかなか魔法を使えなかったかは分かった。

 分かったけど、そんなことはもはやどうでもいいくらいに、そこに書かれていた内容は衝撃的で、




【魔法適性】

 火:E

 水:E

 土:E

 風:E


 闇:E

 光:S




 ――こんなの、もう主人公じゃん!!



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主人公じゃない!じゃない!

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