第五話 確信
タマゴボ……ルナ焼きをおいしく食べたおかげで同志認定されたのか、ルリリアちゃんとの距離は一気に縮まった。
最初は父親の陰に隠れていたのがウソみたいに彼女はぼくになついてくれて、
「あ、あの! お、おにいちゃん、って呼んでいい?」
上目遣いでそんなギャルゲみたいなことをお願いされるまでに仲良くなってしまった。
もちろん、ぼくがそんな可愛いお願いを拒否するはずもなく、
「もちろんいいよ!」
と快諾。
ルリリアちゃんの顔にパッと笑顔の花が咲いた。
「あら、まあまあ」
「ははは、よかったな、ルリリア」
子供たちが仲良くしているのが嬉しいのか、大人たちもご満悦だ。
……ただ、そこで楽しいだけで終わらないのが、色々と曲者なイングリットおじさんだった。
「まあ実際、昔はアルマくんがうちの家族になるって話も出てたしな」
「っ!?」
突然放り込まれた爆弾に、ぼくは思わず、「えっ!?」と反応しそうになって、あわてて取り繕う。
ぼくは「なにもわかってませんよー」という顔をつくろってはいたが、内心ではドッキドキだった。
(家族になるって……それは、そういうことだよね?)
この世界ではゲームの都合上なのか恋愛結婚も多いようだが、貴族同士、お互いの縁をつなぐ手段として政略結婚は一般的だ。
貴族社会のことはよく分からないものの、上に兄さんが一人いるからぼくは次男だし、仲のいい伯爵家というのは結婚相手として手ごろなようにも思える。
「ちょ、ちょっと! その話はなかったことにしたって言ってるでしょ!」
ただ、母さんにとってはそうではなかったようだ。
肩を怒らせておじさんをにらみつけている。
「分かってる分かってる。とはいえ、ルリリアもなついてるようだし、こっちとしては今から本当にしても構わないけれどな」
「全然分かってないじゃないの!」
私の目の黒いうちはアルマを遠くにやったりしませんからね、と話す母さんに、なんだかちょっとくすぐったくなる。
ぼくはごまかすように鼻の頭をこすった。
「おにいちゃん?」
ただ、大人たちの会話に気を取られて、肝心のルリリアちゃんを置いてけぼりにしてしまったようだ。
不思議そうなルリリアちゃんの声に、あわてて振り返った。
「ん? なんだい、ルリリアちゃん?」
「えへへへ。えっとね、呼んでみただけー」
なんだこの子、魔性の女かよ!
ぼくは戦慄した。
おじさんによると、ルリリアちゃんはぼくの一個下らしいので、まだ五歳。
五歳にしてこんな技を使いこなすなんて、末恐ろしいとしか言えない。
それに、彼女から「おにいちゃん」と呼ばれると、なんだか変な扉が開きそうな……ん?
「ル、ルリリアちゃん!」
「んぅ?」
その時ぼくが思いついたのは、悪魔的な発想だった。
いきなりきょとんとしているルリリアちゃんに詰め寄って、ぼくは頼んだ。
「あ、あのさ! ちょっと、ちょっとだけでいいから、『お兄ちゃんのことなんて、別に好きじゃないんだからね』、って言ってみてくれない?」
「へ……?」
きょとんを通り越して、ぽかーんとするルリリアちゃん。
そういう時は年相応の反応が出てかわいい……じゃなくて、ぼくは重ねて頼んだ。
「一回だけ、一回だけでいいんだ。ちょっと、『お兄ちゃんのことなんて、別に好きじゃないんだからね』って言ってみてほしいんだよ! ……ハッ!?」
必死で詰め寄るぼくに、背後から冷ややかな視線が突き刺さる。
「ア、アルマ……」
「アルマくん……」
母さんとイングリットさんが、なぜかかわいそうなものを見る目でこっちを見ていた。
い、いや、違うんだよ。
こんな小さな子に対して自分の性癖を押し付けようとしてるんじゃないんだよ母さん!
しかし、空気を読んだのか、それとも読めなかったのか、ぼくが弁明の言葉を口にしようとした瞬間に、ルリリアちゃんが無邪気に「わかった!」とうなずいた。
それから、たどたどしくも口を開いて……。
「おにいちゃんのことなんて、べつに好きじゃない、からね?」
「違う! もっと感情を込めて!」
「お、おにいちゃんのことなんて、べつに好きじゃないんだからね!」
「惜しい! もっとツンツンした感じで!」
何度かのリテイクで、ルリリアちゃんの演技(?)の質は飛躍的に上昇していく。
そして、ついに……。
「――おにいちゃんのことなんて、別に好きじゃないんだからね!!」
完璧だ。
そして同時にぼくは、完全に理解した。
ルリリアちゃんは、ヒロインか、それに準じる重要キャラで間違いない。
だって……。
――ルリリアちゃんの
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