第四話 進展


「ありがとう、ルリリアちゃん」


 ちょっと面食らってしまったものの、女の子がせっかくプレゼントをくれたのだ。

 ぼくはあわててお礼を言った。


 すると、それで緊張が解けたのか、ルリリアちゃんが話し出す。


「あの! それね! ルナ焼きって言うの!」

「へぇ、そうなんだ。食べたことないなぁ」


 少なくとも日本では聞いたことのないものだし、こっちに転生してからも聞いた記憶がない。

 ぼくが首をかしげていると、ルリリアちゃんが攻勢を強めてきた。


「わたし、ルナ焼きだいすきで! だから、おこづかいで買ったんだよ!」


 お、おお。

 どうやらこの子、ぼくにプレゼントをするために自腹を切ってこのお菓子を買ってくれたらしい。


 しかし、「ルナ焼き」なんて、どんなお菓子なのか想像もつかないな、と思いながら袋を開けると、



(タマゴボー〇じゃん!!)



 出てきたのは小さく丸い、ボロボロした感じのお菓子だった。

 いや、元ネタよりは気持ち大きめな気もするけれども、完全なまん丸ではないところや、上の方がちょっと焼き色がついているところも、まんま同じだった。


「それね! すっごくおいしいんだよ!」


 純真そのものの目でぼくにそうアピールするルリリアちゃん。


 だけどごめんね。

 さすがに大人(?)になったらタマゴボー〇に感動はしないんだ。


 ぼくは「あはは」と調子を合わせてから、そのタマゴボ……ルナ焼きを口に運んで、




「――――!!!?!?!?!?!」




 食べた瞬間、脳みそが沸騰した。

 あまりの味覚の暴力に、思わず、


「う・ま・い・ぞおおおおおおおおおおお!」


 と叫びそうになる。

 そんなぼくの反応に不安になったのか、ルリリアちゃんの顔が曇った。


「お、おいしくない?」


 こんないたいけな子に悲しい表情をさせる訳にはいかないし、何よりも魂がこれをおいしいと叫んでいた。


「いや、おいしいよ! 今まで食べてきたお菓子の中で、ううん、今まで食べてきたものの中で一番おいしい!」


 ぼくが即座に答えると、


「えへへ。やったぁ! わたしもすきっ!」


 ルリリアちゃんもぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。

 思わず反射的に「ぼくも好きだあああ!」と告白しそうになって、ギリギリのところで思いとどまった。


(あ、危ない。あやうく幼女に告白するところだったよ)


 まあ自分もギリ幼児だが、そこはそれ、だ。

 あまりにもおいしいものを食べて、テンションが完全におかしくなっていた。


(しかし……このおいしさは、やばいぞ。なんというか、こう、やばい!!)


 脳だけでなく、語彙力すら粉砕するおいしさだった。


「あ、そうだ! これ、母さんにもあげてもいい?」

「もちろん!」


 プレゼントを褒められたおかげかルリリアちゃんはニッコニコ。

 ぼくも当然ニッコニコだ。


 そのおすそ分けをしようと、ぼくはルナ焼きを母さんに差し出した。


「母さん! これ、すっごくおいしいよ!」

「そ、そう? なら、いただこうかしら」


 母さんはぼくのテンションについていけていないようだったが、それでもルナ焼きを手に取って、口には運ぶ。


 さぁ、ふだんはおしとやかな母さんが、一体この味の爆弾に対してどんなリアクションを取ってくれるのか、ワクワクしながら見守っていると、


「えっと……おいしい、わね?」


 どこか気を使ったような、歯切れの悪い反応。


(あ、あれ?)


 どうやら、母さんにとってはそれほどでもないらしい。

 いや、まずいって反応ではないんだけど、まるで、そう、大人が普通のタマゴボー〇を食べた時のような反応だ。


「む、うぅ?」


 もしや、この一見タマゴボー〇にしか見えないお菓子には何か秘密が隠されているんだろうか。

 ぼくが目を凝らしてルナ焼きの愛らしいボディを眺めていると、




《ルナ焼き(食料): 庶民の間で人気の定番お菓子。HPを1%回復し、満腹度が1上がる。》




「ふぎゃっ!?」


 いきなりウィンドウが出てきて、ぼくは思わずのけぞった。


(……し、心臓に悪い)


 ただ、説明文を見る限りではやはりやばいものが入っているとかそういう訳でもないらしい。

 まさかさっき食べたものが特別だったのかと、もう一個、口に運ぶ。


(うまあああああああああ!!)


 口に広がる圧倒的なおいしさ!

 うまい、もう一個!


(うまあああああああああ!!)


 やっぱりルナ焼きは三個目でもおいしい!

 おいしい、が、しかし、この謎のおいしさの秘密はやっぱり分からない。


(ただ、ぼくの好みなだけ? でも、前世でもこんなやばいくらいおいしいもの、食べたことないしなぁ)


 ぼくは四個目のルナ焼きをほおばりながら、うーんうーんと首をひねる。

 しかし、その答えは意外なところからやってきた。


 ぼくの様子を見たイングリットおじさんが、笑いながら言ったのだ。


「ははは! どうやらアルマくんは、そのルナ焼きが好物みたいだな!」


 そのおじさんの言葉に、ピンとくるものがあった。




(――これ、「ゲーム設定」だ!)




 おそらく、ぼくの……「アルマ・レオハルト」の人物設定に「好きな物:ルナ焼き」と書いてあるんだろう。

 そうじゃないと、こんな暴力的なうまみは説明出来ない。


(待った待った待った! これは、すごい情報なのでは?)


 だってそうなるとぼくは、少なくともキャラ設定が作られるほどの人物。

 つまり……。



 ――〈アルマ・レオハルト〉は、この世界ゲームの重要人物だ!!




―――――――――――――――――――――

×悪役転生

×モブ転生

?脇役転生

?主人公転生

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