第三話 運命の出会い
――主人公か、モブか、脇役か、悪役か、それが問題だ。
戯曲のような台詞を頭に浮かべながら、ぼくはまだ鏡を見ていた。
(正直、嫌われ者、ってことはないと思うんだよね)
自分で言うのもアレだが、鏡に映った自分は明らかな愛されフェイス。
これで悪役路線はちょっと信じられない。
じゃあ次は自分がどのくらいの重要人物なのか、ってことだけど……。
「……うーん」
顔は整っている方、だとは思うけど、ゲームの主役を張れるまでかは分からない。
そもそも、主人公はキャラ造形としてわざと没個性に作る場合もあるし、ぐぬぬぬぬ。
(自分がただのモブなのか、重要人物なのか、せめてそれだけでも分かるといいんだけどなー)
鏡の前で百面相を繰り返しているが、やっぱり決定的な証拠は出てこない。
自分のほっぺたをくにくにとやりながら、何か新しい事実はないかと探していると、
「アルマー! ちょっといらっしゃーい!」
母さんがぼくを呼ぶ声が聞こえてきた。
「はーい!」
自然と子供っぽい声で返事をしながら、ぼくは部屋の外に歩いていく。
(これも、なんだか慣れないなぁ)
自分の中に、「アルマ」として育った子供の「ぼく」と、「有馬」として生きた日本人の「俺」が両方住んでいる感じ。
まあ別の人物に乗り移ったとかではなくて、どっちも最初から自分なので、これから成長していけば「ぼく」がゆっくりと「俺」に近付いて一つになるとは思うんだけど。
応接間にやってきたぼくに、母さんは優しく微笑みかけた。
「あなたの六歳のお誕生日を祝いに、イングリット伯が来てくれたのよ。覚えてる?」
「えっと、あ、イングリットおじさん!」
「ぼく」の方の記憶を探ってみれば、すぐに思い出せた。
父さんや母さんと仲がいい同年代のおじさんで、ぼくも何度か話をしたことがある。
なんというか、「ぼく」にとっては「たまにお年玉をくれる親戚のおじさん」くらいの関係だ。
おそらく、「伯」とついているのだから、伯爵さま。
ちなみにうち、レオハルト家は公爵なので、たぶんめっちゃ偉い。
ただ、「騎士伯」とか「炎熱公」とか謎の単語を聞いたこともあるし、どうやらこの世界の貴族制度は独自の方式を取っているようだから、地球の知識そのままで考えるのは危険かもしれない。
いや、ほんとゲーム独自の貴族設定とかやめてよね。
覚えらんないからさ。
「本当はもっと早くに来るつもりだったらしいけど、体調を崩しちゃったみたいでね」
そう言われると、誕生日祝いにしてはちょっと遅いような気はする。
母さんが言う言葉を、ふーん、と適当に受け流しながら、
(あんな巌みたいなおじさんでも、体調崩したりするんだな)
なんて失礼なことを考えていた。
いや、まあ人間だし病気くらいはするんだろうけどさ。
※ ※ ※
やがて現れたイングリットおじさんは、ぼくが覚えていた通りの人だった。
身体が大きくて気が優しくて、だけどちょっと荒っぽい。
「久しぶりだね、アルマくん。ちょっと遅れたけど、六歳の誕生日おめでとう」
そう言って、おじさんはぼくの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
いやあんた貴族だろ、もうちょっと配慮とかしろよ、とうちなる「俺」が言っているけど、ぼくも俺もこの人のことは嫌いにはなれなかった。
ただ、予想外も一つだけ。
「……ほら、ルリリアも」
おじさんの後ろに、かわいいオマケがついてきていたのだ。
「う、うん」
イングリットおじさんの陰に隠れるようにしていたのは、小さな女の子。
年は……ぼくと同じか、ちょっと下くらいだろうか。
お人形さんのような、という言葉が似合うおとなしそうな彼女は、お菓子が入った包みを大切そうに両手で抱えていた。
「あ、あの、えっと……」
「えっ? う、うん」
おじさんに促され、彼女はおっかなびっくりの様子でぼくに近づくと、
「――これ……あげる!」
まるで猛獣に餌でもやるように、お菓子の包みをぼくに押し付けたのだった。
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第一ヒロイン発見!?
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