第一話 見える人
――前世の記憶が戻ったのは、本当に突然だった。
六歳の誕生日を迎えてしばらく経ったある日、母親から、
「――こっちに来なさい、アルマ」
と名前を呼ばれたのだ。
特になんてことない、日常の一ページ。
その、はずだった。
でも、
(あれ? 「俺」の名前って、「アルマ」じゃなくて「
そんな疑問が浮かんでからは、早かった。
押さえつけていた何かが一気にあふれ出すみたいに、なし崩しに前世の記憶が一気に脳に押し寄せてきて、そして、
「……きゅぅ」
ぼくはその場であっさりと気絶した。
※ ※ ※
「あ、れ? ぼく、いや、おれ、は……」
そうして次に目が覚めた時、俺は完全に前世の記憶を取り戻していた。
いや、正確に言うと、記憶自体は最初からあったけど、自分が転生者だということにその時気が付いた、という感じだろうか。
その、文字とか計算とかは最初から出来ていたし、日本人としての知識もたまに表に出てきてはいた。
ただ、脳が未熟でその記憶を全て受け止め切れていなかったというか、特に意識しないと前世の記憶を引き出せないような状態だったのだ。
「え、というか、マジ? え、マジなのこれ?」
「有馬 悠斗」としての記憶は、これは異世界転生で、しかもなんかよく分からないゲームの世界に飛ばされてしまったのだ、と言っていた。
「……だ、大惨事じゃん」
転生直前の焦りを思い出して、冷や汗がだらだら出てくる。
(ま、待った! まだだよ! まだ早い!)
こんな「日本人の記憶」なんてただの「ぼく」の妄想かもしれないし、「俺」がゲームに転生したと思い込んでいるだけで、実は全く別の世界に転生したのかもしれない。
(そ、そうだよ。アンケートで異世界転生なんてアホなことある訳ないし、昔の自分が、酒のせいで死ぬほどやりつくしたゲームの題名を間違えるような間抜けだったなんて、そんなはず……)
必死に理論武装をしてつらい現実を遠ざけようとする努力は、だけど外から聞こえた声に打ち砕かれた。
「アルマ! 目が覚めたのね!」
「坊ちゃま! 大丈夫ですか、坊ちゃま!」
心の底から心配しているような母親とお手伝いさんの声がして、扉が開かれる。
そこから見えた、見慣れたはずのその人たちの姿を見て、ぼくは絶望した。
「あ、ぁ、ぁぁ……」
だって、だってさ……。
部屋に入ってきた、母さんも、使用人の人たちも、みんな……。
HP ------------
MP ------------
(――頭の上に、HPとMPのゲージ出てんじゃんかあああああ!!)
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これはもう1000%ゲーム!!
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