37話「牛、豚、鶏」
「さて、そろそろ昼飯にするか」
二十階層の階層主を倒してからも、俺の進撃は留まることを知らない。一気に二十五階層へと駆け上がったところで、ここで昼食を取ることにする。
本日の昼食は、異世界ファンタジーに登場する主人公のように凝った料理ではなく、ダンジョンに入る前に露店で購入した簡単なパンとスープだ。
アイテムボックスがストレージに進化したことで、時間経過による劣化の心配がなくなった。これで食べ物や食材もいろいろと詰め込み放題である。良きかな良きかな。
そんなわけで、短い昼食を終え、改めてダンジョンに挑もうとしたところで、新しいモンスターが姿を現す。
【名前】:ダンジョンバイソン
【ランク】:C
【ステータス】
レベル23
体力:1600
魔力:1000
筋力:250
耐久力:304
精神力:410
知力:112
走力:351
運命力:131
【スキル】:突進Lv3、豪脚Lv3
その姿は、まるっきり牛そのものであり、唯一モンスターらしいところといえば、頭部から生えた鋭い二本の角のみだ。
見た目は牛といっても、その体格は大きく、目算で大体二メートルくらいはあることが見て取れる。実に大きい牛だ。
こちらの姿を視認したダンジョンバイソンが、前足を地面に擦りつけながらこちらに突進する態勢を取る。そして、そのまま一気に突進してきた。
「モォォオオオ」
「ふん、そんな直線的な動き、避けられんはずないだろう」
ただの突進であれば、避けるのは難しくはない。突進のスピードはかなりありそうだが、どんな攻撃も当たらなければ意味はない。そう、当たらなければ、意味はないのである。
その後、方向転換をし再び俺に向かってくるダンジョンバイソンだが、そう何度も同じ攻撃をさせてやるほど俺はお人好しではない。
「【アイスバインド】」
「モォ!?」
俺はダンジョンバイソンの足を氷漬けにし、その動きを封じる。そして、やつの動きが止まったところですたすたとやつに近づき、その脳天に強めのチョップをお見舞いする。
その攻撃によって脳震盪を起こしたダンジョンバイソンは、地面に横倒しになる。再びやつが動き出すことはなく、残ったのは魔石と素材アイテムだけとなった。
「ん? これは?」
そして、問題はその素材アイテムだ。明らかに生肉の見た目をしたそれは、一見すると食材にも見えるのだが、念のため【解析】を使って調べてみた。
【ダンジョンバイソンの肉】……ダンジョンバイソンから入手できる食材。
部位は肩ロースで、それ以外にも様々な部位が存在する。
庶民の間では、贅沢品として市場に出回ることが多く、それなりに美味である。
はい、乱獲決定! 異論は認めん!!
まさか、ダンジョンでこのような素晴らしい食材に出会うとは、これも日頃の行いの良さなのだろうか。……ん? ただのこじつけですが、なにか?
そんなこんなで、今いる階層に出現したダンジョンバイソンはすべて討伐し、大量の肉をゲットすることに成功した。
様々な部位が存在するという説明文から他の部位が手に入らないかと思っていたが、予想通り【ヒレ】や【サーロイン】など他の部位もドロップした。
「さて、このくらいかな」
あれから一体どれくらいの時間が経過したのだろう。三十分? いや、下手をすると一時間以上ダンジョンバイソンだけを狩っていた気がする。それが証拠に……。
〈スキル【大物食い】がレベル4になりました〉
巨体を持つ相手に対して効果を発揮する【大物食い】のスキルがレベルアップした。
このスキルは体の大きさが二メートル以上ある相手に対して効果を発揮し、スキルレベルに5%を掛けた数字分だけ相手のステータスがダウンし、逆にこちらのステータスがアップするというものである。
つまり、スキルレベルが1だと5%、2であれば10%といった具合に、相手と自分にデバフとバフの効果を与えるということになる。
そして、レベル2だった大物食いが4にまでなるくらいにダンジョンバイソンと戦っていたことを考えれば、俺がどれだけの間乱獲していたかが容易に想像できるだろう。
「ま、まあ。肉も手に入ったことだし、次に行くとするか」
だが、俺の考えがどれだけ甘かったことを認識することになる。
このあと、二十六、二十七階層と進んだが、二十六階層には【ダンジョンポーク】という名前の豚が、そして二十七階層には【ダンジョンチキン】という名前の鶏がいたのだ。
それから俺がどういう行動に出たのかはもはや言うまでもないだろうが、一応言っておく。
「乱獲じゃぁぁぁああああああああ」
まあ、仕方ないよね? 目の前に食材があれば取りに行くのは当たり前のことだよね? 異論は認めん。
それから、豚肉と鶏肉もたんまりと手に入れた俺はほくほく顔で二十八階層へと足を踏み入れたが、そこにも今まで出てきた肉たちが群れで出現するのを確認し、さらに乱獲しまくったのであった。
当然だが、それだけ時間をかけていれば夕方になるのは自明の理であり、その日までに三十階層に到達することはできなかったのである。
個人的には食材を手に入れることができたので問題はないが、当初の目的であった米を手に入れるということを完全に忘れ去ってしまっていたことを思い出したのは、宿のベッドに入ったあとであった。ぐすん。
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