33話「街の散策で見つけた我が祖国が誇るもの」



「さて、今日はこの街の散策をするとしよう」



 ダンジョンに潜った翌日、俺は街へと繰り出してみることにする。そう思い、身支度を済ませた俺は、宿から飛び出した。



 散策といってもなにか特別な目的があるわけではなく、どこになにがあって露店でどんなものが売られているかの確認という軽いものであり、実質的にはただの散歩に近い。



 そう思いながら、人の往来が激しい大通りを歩いていると、大きな広場に出た。



「市場か? ふむ、見ていくか」



 俺は料理できないが、なにかあったときのために食材を確保している。自分でできるようになればいいとは思うが、はっきり言って面倒くさいし、そういうのは専門家に任せてしまった方がいい。



 というわけで、なにか珍しい食材がないかといろいろと見て回る。そこには、地球にも存在していた野菜や果物があり、特に変わった食材はない。



 そんな光景を見ながら露店を歩いていると、明らかに気落ちした男性店主がいることに気づく。近づいてみると、彼の愚痴が耳まで届いてきた。



「はあ、なんでこんなものを買い取っちまったんだ。こんな雑草なんて売れるはずもないのに……」


「ここはなにを売ってるとこなんだ?」



 気になったので、声をかけてみると、俺の存在に気づいた店主がぽつりと話してくれた。



「いやね。最初は小麦粉なんかの穀物類を扱おうとしてたんですが、取引してた農家が不作になっちまって、こっちに回してくれるはずだった作物が手に入らなかったんです。諦めようかと思ったときに、売れる穀物があるっていう話を持ちかけてきた人がいたんですけど、それがこれなんですがね」


「こ、これは!?」


「酷いもんでしょ? 騙されたと気づいた時には、すでに仕入れのお金を払ったあとだったんです。こんな売れない雑草なんて仕入れて一体どうしたら……」


「……」



 男が雑草を口にするその植物を俺は知っている。いや、俺が転生するつい先日まで口にしていた我が祖国のソウルフード……そう、米である。



 米といっても、精米されたものではなく、なにも加工がされていない稲穂のままの状態だった。それでも、米は米であり、精米されていなければすればいいだけの話であって、特に問題はない。



「いくらだ?」


「はい?」


「これは、いくらかと聞いている?」


「いや、こんなものに値段なんて付けられ――」


「こんなものとはなんだ! これはちゃんとした食材だ。ええい、まどろっこしい!! 仕入れたとか言っていたな? いくらで仕入れたんだ?」


「はあ、一キロ当たり四百ゼゼで買って、それが二百キロあるから――」


「うむ、なら合計で八万ゼゼだな。そうだな、仕入れた金額に対しての利益率を考慮して……十万ゼゼでどうだ?」



 俺は先を越されないよう店主に交渉を持ちかける。これなら、店主も利益を得ることができるし、問題はない。それが証拠に、俺の提案に店主も乗り気のようだ。



「いいんですか!? こちらとしては大変ありがたいですが……」


「構わん。では、十万ゼゼで買い取るということでいいな?」


「はい、ありがとうございます!!」



 交渉成立だぜ。ふふふ、これで米が手に入った。



 日本人たるもの、米を蔑ろにすることなどあってはならんからな。それはそれとしてだ……。



「なあ、あんたに米を売ったやつは、これをどこで手に入れたんだ? なにか仕入れた先を言ってなかったか?」


「確か、ある階層のダンジョンに自生していたと言ってましたね」


「どこの階層だ?」


「うーん、確か……三十階層くらいだとか言っていたような」



 この瞬間、俺のダンジョン攻略は決定した。攻略の先に米があるのなら、ダンジョンを攻略する価値は十分にある。



 それから、一刻も早くダンジョン攻略に向かいたかった俺は、よきところで街の散策を切り上げ、ダンジョンへと向かった。

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