26話「亀の倒し方 ~ HOW TO DEFEAT THE TURTLE ~」
「さて、まずは本当に魔法が効かないのかの検証だな。燃え尽きろ【フレイムガトリング】」
まずは小手調べとばかりに、直径三十センチくらいの火球を十数個出現させ、それを機関銃のように連続してぶつけてみた。
しかしながら、怯んだ様子もなくただアダマンタイトの装甲にかき消されただけだ。
「ならば、これはどうだ。【アイシクルストーム】」
次に俺が行ったのは、氷漬けにするという方法で、氷によって瞬く間にアダマンタイトトータスの顔面部分が氷に覆われる。
だが、これも失敗に終わり、一瞬だけ動きが止まったがすぐに氷が割れてしまい、何事もなかったかのように活動を再開した。
「なるほどな」
それから、他の属性の魔法もいくつか試してみるが、有効なダメージを与えることはできない。やはり、魔法は効かないようだ。
「なら、次は物理だな」
そう言うが早いか、地面を蹴ってアダマンタイトトータスへと向かっていく、顔の側面に回り込み、腰だめに構えた拳を一気に突き立てた。正拳突きである。
これまでそれなりに拳でモンスターと戦ってきたが、大抵のモンスターには有効だった。だが、圧倒的な防御力を誇るアダマンタイトトータスの前では、ダメージを与えることはできない。
「グルルル」
「いてててて、赤く腫れてら。うおっ」
攻撃されたのが気に障ったのか、顔をこちらに向けながら口を開けて迫ってくる。どうやら、かみつき攻撃をしようとしてきたようなので、咄嗟に後ろに飛び退くことでその攻撃を回避する。
そして、まるで「おまえのような小さき者の攻撃など効かぬわ」とばかりにフンスと鼻息を出しながら、再び王都に向かって動き出した。
「ヤロー、俺の攻撃が効かないからって、俺を無視する気か」
ずいぶんと不遜な態度ではないか。いいだろう。無視できないくらいの攻撃をお見舞いするとしよう。
そう思い立ったが吉日とばかりに、すぐさまアダマンタイトトータスの前方に回り込む。そして、両手を奴に向けそこに魔力を込める。
「はあああああああああ。これでもくらえ! 【ドリルアンカーピラー】!!」
それは硬い岩石で生成された錨の形をした物体であり、底部にいくつもの棘状の突起がついたものだ。それを高速回転させることで、破壊力を向上させ、大ダメージを与えることができる魔法なのだが、果たして上手くいくか。
さすがのアダマンタイトトータスも、回転運動をしながら迫ってくる物体を脅威と思ったのか、頭部を甲羅の中に引っ込めて防御態勢をとった。
「無理臭いな。三つ目熊やウルグファングみたいに水で溺死させることもできないだろうし。なんてったって、亀だからなー」
“キンキン”という金属音と火花が散る中、俺はその魔法がもたらす結果に見向きもせず、あることを考えていた。
「ふむ、いけるかもしれんな」
もちろん、今の発言はドリルアンカーピラーの魔法に対して口にした言葉ではない。こいつを倒せる方法について言及したものだ。
きっかけは奴が鼻息を荒くしている様子から思いついたものだ。その可能性を確かめるべく、俺は一旦ゴッザムやキャロラインたちのいる場所へと戻る。
その間にもドリルアンカーピラーがアダマンタイトトータスに迫っているが、一向にダメージを与えた様子はない。やはり、この程度では駄目なようだな。
「なあ、ちょっといいか」
「な、なんだ?」
「あれって、要は体がアダマンタイトでできている亀だよな?」
「……? ああ、そうだな」
「アダマンタイトの体以外は、普通の亀と同じってことでいいよな?」
「……多分?」
「わかった」
俺はあることを確認するため、ゴッザムたちのもとへ戻った。そのあることとは、アダマンタイトトータスが亀であるか否かということである。
今回の場合、ただの動物であるとかモンスターであるということが重要なのではなく、亀という種族に属しているか否かということだ。
そのことをゴッザムに確認すると、戸惑いながらも肯定してくれたので、俺は再び奴のもとへと舞い戻った。
そのタイミングで、俺の放ったドリルアンカーピラーが砕け散り、静寂を取り戻す。
このまま放っておけば、再び甲羅から顔を覗かせ王都に進撃してしまうだろう。その前に考えていたことを実行するべく、俺はすぐに行動した。
「【フィジカルバリア】」
俺は時空魔法を使い、アダマンタイトトータスの体をすべて覆いつくすほどの巨大な結界を生成する。魔力が足りるか不安だったが、先の戦いによってレベルアップしていたため、その心配は杞憂に終わる。
「すべて吸い出せ【ヴァキュミゼーション】」
結界が奴の体を覆いつくしたところで、さらに結界内の空気を抜いていく。こうすることで、結界内を真空状態にすることができるのだ。
ここで生物学の話をすると、亀というのは水場を生息域としていることが多いため、一見すると両生類に分類される生き物と見られがちだが、実際は爬虫類に分類される生き物なのだ。
爬虫類である以上、呼吸はエラ呼吸ではなく肺呼吸となっており、当然空気中の酸素を体内に取り込むことで、その生命を維持しているということになる。
では、一定の空間に閉じ込め、その生命を維持するための酸素を吸い出し、真空状態にしたらなにが起こると思うだろうか? 答えは、窒息するである。
肺呼吸をする生物にとって酸素を取り込めなければ、生命を維持することは困難であり、待っているのは確実なる死だ。
しかし、これほどまでの巨体を持っている亀の肺も大きく、真空状態にしたからといってすぐに死ぬわけではない。
「とりあえず、このまま様子見だな」
「坊主、これはどういう状況だ?」
「奴を結界に閉じ込めて、中の空気を抜いた。しばらくすれば、窒息して死ぬだろう」
すべての作業が終わると、ゴッザムたちが駆け寄って事情の説明を求めてくる。俺が簡単に状況の説明をすると、半信半疑な表情を浮かべる。
「本当に、これでアダマンタイトトータスを倒せるのか?」
「こいつは亀なんだろ? だったら呼吸は俺たちと同じ方法で行っている。例えば、口と鼻を塞がれたり、首を締められたりしたら、人間は死ぬよな? この結界の中は、それと同じ状態になっている。まあ、これだけの巨体だ。息ができなくなって死ぬまでまだしばらく時間はかかるが、このまま放っておけば窒息死するはずだ」
「俺たち、助かったの、か?」
「助かったんだ! アダマンタイトトータスから生き残ることができたんだぁー!!」
他の冒険者たちも、アダマンタイトトータスの脅威が去ったことで、歓声が上がる。おい、まだ奴は死んでないぞ? 一応閉じ込めてはいるが、暴れだして結界を破壊されることもあるんだぞ?
「さすがはタクナイ君ね! ねえ、これを機に冒険者に――」
「ならない。俺は無職を愛する人間だ。定職に就く気は、さらさらない」
それから、俺以外の冒険者たちは残ったモンスターの掃討へと動いた。もう主要なモンスターは討伐されており、残っているのは低級の雑魚モンスターばかりのため、ランクの低い冒険者たちでも対処は可能だ。
「坊主、感謝する。おまえがいなければ、王都はアダマンタイトトータスに蹂躙されていただろう」
「まあ、一応頼まれて来ただけだからな。気にしなくていい」
その後、アダマンタイトトータスが暴れ出すなどの波乱は起きず、三日後静かに息を引き取った。呼吸を断たれても三日も生き続けることに驚いたが、これでようやく見張りから解放されそうだ。
〈拓内畑羅木のレベルが80に上がりました〉
〈スキル【鑑定】がレベル7に上がりました〉
〈スキル【成長率上昇】がレベル5に上がりました〉
〈スキル【健康】がレベル4に上がりました〉
〈スキル【異世界言語】がレベル3に上がりました〉
〈スキル【魔力感知】がレベル8に上がりました〉
〈スキル【無属性魔法】がレベル4に上がりました〉
〈スキル【詠唱破棄】がレベル6に上がりました〉
〈スキル【火魔法】がレベル4に上がりました〉
〈スキル【水魔法】がレベル5に上がりました〉
〈スキル【風魔法】がレベル4に上がりました〉
〈スキル【土魔法】がレベル4に上がりました〉
〈スキル【光魔法】がレベル3に上がりました〉
〈スキル【闇魔法】がレベル3に上がりました〉
〈スキル【時空魔法】がレベル4に上がりました〉
〈スキル【回避】がレベル5に上がりました〉
〈スキル【直感】がレベル5に上がりました〉
〈スキル【危険察知】がレベル6に上がりました〉
〈スキル【精神耐性】がレベル3に上がりました〉
〈スキル【大物食い】を獲得しました〉
アダマンタイトトータスが死んだことによって戦闘終了と見なされたようで、いきなり頭の中にメッセージが飛び込んでくる。すぐにステータスを確認すると、いろいろと変化があった。
【名前】:拓内畑羅木
【年齢】:十五歳
【性別】:男
【職業】:無職
【ステータス】
レベル80
体力:115500
魔力:99000
筋力:1388
耐久力:1131
精神力:904
知力:1239
走力:1013
運命力:9011
【スキル】:鑑定Lv7、成長率上昇Lv5、健康Lv4、アイテムボックスLv8、異世界言語Lv3、
魔力感知Lv8、無属性魔法Lv4、詠唱破棄Lv6、火魔法Lv4、水魔法Lv4、風魔法Lv4、
土魔法Lv4、光魔法Lv3、闇魔法Lv3、時空魔法Lv4、回避Lv5、直感Lv5、錬金術Lv6、危険察知Lv6、
精神耐性Lv3、大物食いLv1
うん、かなり強くなりましたねー。さすがに、Sランクのモンスターといったところか。
ちなみに、この三日間暇だったので、亀が結界から出てこないか見張りをしつつ、多少魔法の訓練もしていた。それもあって、今回使ってない光魔法や闇魔法もレベルアップしている。
今回のスタンピードによってかなりレベルアップすることができた。これで俺の望むスローライフにまた一歩前進した。
「ん、あれは?」
そんなことを考えていると、なにやら危険察知に反応があり、その方角を見てみると、なにやら怪し気な物体が空中に浮かんでいるのを発見する。
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