25話「脅威なる存在」
「見てたわよ、タクナイ君。私が見込んだだけのことはあるわ」
「あんたか」
そう口にした今の俺の顔は、たぶんしかめっ面になっていることだろう。
そこにいたのは、新たにコミエの冒険者ギルドのギルドマスター就任したキャロラインだった。なぜ、こんな戦場に彼女がいるのかと思ったが、元Sランク冒険者ということで実力的に借り出されてもなんら不思議はないということに思い至る。
あるいは彼女自身が自ら志願して参加したということもあるが、どちらにせよ物好きなことではある。
「グオオオオオオオ」
「フガアアアアアア」
おふざけタイムはここまでとばかりに、突然ゴブリンキングとオークキングが雄叫びを上げる。その声を聞いた一部の冒険者は震え上がり、戦意を喪失する。
だが、今から経験の差かそれとも強がりかはわからんが、奴らと直接対峙するBランク、Aランクの冒険者は怯むことなく、攻撃を開始する。
「くらえ!」
「燃え尽きろ! 【フレイムバーン】!!」
「吹き飛びなさい! 【ヒューズストーム】!!」
「どりゃぁー!!」
ある者は自身の相棒である武器で攻撃を仕掛け、またある者は強力な魔法を使って攻撃する。一見すると、冒険者側が押しているように思える状況だが、それも奴らの次の行動で一変する。
「ガッ」
「ぐはっ」
「フゴッ」
「ぐぼっ」
冒険者の攻撃を耐えた二体のモンスターがすぐに反撃に出る。ゴブリンキングの大剣が冒険者の体を真っ二つに切断し、オークキングの棍棒の直撃を受けた冒険者の顔面がはじけ飛ぶ。
そんな攻撃を受けてまともに生きているはずもなく、名も知らない冒険者が即死する。そのあまりに強力な攻撃に、他の冒険者たちの間で一瞬動揺が走る。
しかし、死と隣り合わせの彼らにとってそれは日常的なものであり、すぐに冷静さを取り戻し、再び攻勢に打って出る。
「さて、いきなりだったから助けられなかったが、次は殺させん」
目まぐるしい展開になかなか頭がついていかなかったが、ようやく意識を集中させた俺は、これ以上の犠牲者を出さないようにするべく行動に移る。
ひとまずはあの二体のモンスターの動きを封じるべく、俺は地面に片膝をついて両手を地面に置きながら魔力を集中させ魔法を使った。
「【スワンプバインド】」
俺が魔法を使うと、ゴブリンキングとオークキングがいた地面周辺が底なしの沼に変化する。それはたちまちに二体の両足を地面に埋もれさせ、その動きを封じることに成功する。
「奴らの動きが鈍ったぞ」
「今だ! 畳み掛けろ!!」
動きが鈍ったことで、勝機を見出した冒険者たちが攻勢に打って出る。動きを封じられた二体はその攻撃を防ぐので手一杯な様子だ。
しかし、奴らもそのまま黙ってやられているつもりもなく、沼の拘束から逃れようと足を動かし始める。
「抑えられんか」
圧倒的な膂力を持つ奴らをたかが沼程度では拘束しておけず、徐々に奴らの拘束が緩んでいく。ならば、もっと拘束力を強くすればいいだけのことだ。
「【スティッキークレイテンタクルズ】」
さらに魔法を使い、俺は先ほど作った沼を利用して粘着質な触手を生み出す。途端に近くにいたゴブリンキングとオークキングに絡みつき、その動きをさらに制限する。
「グオオオオオオオ」
「フガアアアアアア」
そればかりか、底なしの沼に引きずり込もうと触手が二体のモンスターに襲い掛かる。徐々に体が沼に埋もれていき、下半身のほとんどが沼に埋もれてしまった。
「これで止めだ! 【カイザークラッシュ】!」
「死になさい! 【ピアシングスラッシュ】!」
最終的に動きを封じられた二体のモンスターは、ゴッザムとキャロラインの手によって止めを刺された。脅威的なモンスターの出現に前線が崩壊しかけたが、なんとかその場を収めることができたのであった。
〈拓内畑羅木のレベルが40に上がりました〉
〈スキル【土魔法】がレベル4に上がりました〉
おっと、さすがに高ランクのモンスター相手をしていただけあって、戦闘が終了したタイミングでレベルアップの告知があったようだ。
これでまた確実に強くなった。不労所得スローライフへ向けて一歩前進である。
「坊主、なかなかやるじゃないか」
「さすがはタクナイ君ね」
「ギルドマスター! あれを!!」
そんなわけで、レベルアップの確認が終わったところで、本日のMVPであるゴッザムとキャロラインが声をかけてくる。ここから、残りのモンスターの掃討作業に移るかと思いきや、そうは問屋が卸してはくれなかった。
ようやく高ランクのモンスターを倒したというのに、さらに新手が登場したのである。
それは一見すると、山のような見た目をしていた。だが、山であるのならばそれが動き出すことはない。
しかし、それは確かに動いていた。動き自体はのっそりとしていたが、確実に一歩一歩大地を踏みしめてこちらに向かってきていたのである。
「あ、あれは……」
「ま、まさか……アダマンタイトトータス」
「……? なんだそれ?」
それがどういうものなのかわからなかったため、聞いてみた。すると、こんな答えが返ってくる。
「アダマンタイトトータスは、その名の通りアダマンタイトの装甲を持った化け物亀だ。問題なのは、その装甲の固さで物理だろうと魔法だろうとどんなものでも有効な手段がねぇってことだ」
「その存在自体が実在するかも怪しい存在で、私も長いこと冒険者やってたけど、一度も見たことがない伝説級のモンスターよ」
「ふーん」
そう言われて、俺は改めてアダマンタイトトータスに鑑定を使ってみた。すると、こんな結果が表示された。
【名前】:アダマンタイトトータス
【ランク】:S
【ステータス】
レベル145
体力:100000
魔力:80000
筋力:890
耐久力:15000
精神力:3510
知力:198
走力:45
運命力:16432
【スキル】:体当たりLv8、かみつきLv8、鉄壁Lv7
Oh my Angel……なんということだ。確かに、これはとんでもない化け物だ。
攻撃力は大したことはないものの、圧倒的な耐久力は凄まじいものがあり、これを突破するのは容易ではない。
走力もかなり低いので、完全な防御型のモンスターではあるが、五十メートルを優に超える巨体から繰り出される攻撃はかなり凶悪なものになるだろう。
「終わった」
「もうおしまいよ」
BランクやAランクのモンスターを一撃で仕留められる二人が、地面に膝をついて諦めた様子を見せる。完全に戦う意思を失ってしまったようだ。
「じゃあ、ちょっと試してみるかね」
「お、おいっなにをする気だ?」
「あの巨体を見たでしょ? あれを倒そうなんていうこと自体がおかしいのよ。やめておきなさい」
「そんな理不尽があってたまるか」
いきなり地震に巻き込まれて、ゴミの山に埋もれながら俺は前世に幕を引いたのだ。俺のスローライフはこれからだったのに、理不尽にも奪われてしまった。
幸いなことに第二の人生を与えてもらったが、再びその人生を脅かそうとする存在が現れた。であるならば、俺がやることはひとつである。
「俺は拓内畑羅木。すべての理不尽をなぎ倒す無職を愛する男だ。俺の無職人生を邪魔するというのなら、例え魔王だろうと神であろうと滅んでもらうだけだ」
そう言いながら、俺は再びアダマンタイトトータスに視線を戻した。この俺の前に立ちふさがったこと、後悔させてやろう。
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