24話「スタンピード」



「さて、外に出られたのはいいが、とんでもない数だなありゃ」



 急ぎ足で王都の外へとやってきた俺は、目の前に広がった光景をただ呆然と眺めていた。そこには、おびただしい数のモンスターが王都に向かって侵攻をする姿があり、まさに数の暴力だ。



 それに対抗するべく、兵士と騎士団と冒険者が連携を組んで戦う姿が見られ、特にモンスター討伐に特化した冒険者たちの活躍が目覚ましい。



 こちらの戦力は一万のモンスターに対し、王都を警備する警備軍三千に騎士団千五百、そして緊急事態につき要請を受けた二千の冒険者の計五千五百だ。



 およそ倍の兵力差ではあるが、ただ真っ直ぐ突っ込んでくるモンスターとは異なり、こちらは戦略的な動きができる分、有利に戦うことができる。



「弓隊、矢を射かけ続けよ! 相手は低級のモンスターばかりだ。とにかく、数を減らせ!」


「接近された個体は、順次近接戦闘にて排除せよ。単独で突っ込むな。常に複数人で戦うことを意識せよ!」


「おう野郎ども! お祭り騒ぎと洒落込もうじゃねぇか!! モンスター相手の戦闘は俺ら冒険者の十八番だ! 俺らに向かってきたことを後悔させてやれ!!」



 兵士、騎士、そして冒険者を率いる指揮官がそれぞれに適宜指示を出し、連携を図ってモンスターの対処に当たっている。



 さてさて、俺はどこに入ればいいのかと観察していると、そこに一人の冒険者姿の女性が声をかけてきた。



「なんであなたみたいな坊やがこんなところにいるのよ! ここは危険よ今すぐこの場から離れなさい!!」


「俺も戦いに来たんだ」


「なんですって? あなたのような坊やに戦えるわけが――」


「ふっ、なんか言ったか?」



 どうやら、俺を心配して戦場から離脱しろと言いに来たらしい。だが、こちらとしても国王の依頼であるからして、そう簡単に引き下がるわけにはいかないのだ。



 そんなまごまごした状況を見逃してくれるほどモンスターも甘くはなく、彼女の背後に豚の姿をした二足歩行のモンスターが迫りくる。



 咄嗟に彼女を庇うように前に飛び出し、モンスターの懐に潜り込みつつ地面を蹴って跳躍する。そして、その顔面に思い切り蹴りを叩きつけてやった。



 その勢いのまま豚のモンスター巨体が宙を舞い、何度も地面にバウンドしながらモンスターの群れにぶつかる。それは、さながらボウリングの球のようで、低級モンスターたちがそれに巻き込まれ吹っ飛ばされた。



「嘘……あれってハイオークだったんじゃ」


「それで、俺はどこに入ればいい?」


「……こっちよ、ついてきて」



 そんなことは気にせず、俺は女性に声をかける。先ほどまでの態度とは打って変わって、戦えるとわかった途端彼女の態度は一変し、冒険者たちが任されている一角へと案内してくれた。



「くたばれやぁー」


「邪魔だ!」


「ふっ、蚊トンボが……落ちろっ!!」



 どこもかしこもモンスターと人間が入り乱れて戦っており、まさに激戦区の様相を呈している。



 そんな中、俺が戦う予定の場所に行くと、それに気づいた大柄な男がのしのしとやってきて女性に詰め寄った。



「おいっ、ジェニファー! なんでこんなところに子供を連れてきてんだ!? 子供を庇いながら戦うなんてできないぞ」


「この子なら大丈夫。ちゃんと戦えるわ。むしろ心強い助っ人よ」


「こいつがか?」



 ジェニファーと呼ばれた女性が太鼓判を押すも、男は訝しげにこちらに視線を送ってくる。そりゃあ、こんなところに俺みたいなガキがいること自体おかしな話であるからして、いきなり助っ人と言われも信じられないのは理解できる。



「おいっ、弓が残り少ない! 誰か、魔法で援護してくれ!!」


「じゃあ、いっちょ仕事を片付けるか」


「お、おいっ待て! 話はまだ終わってないぞ」



 男の制止を無視し、俺はモンスターがいる前線へと向かう。形勢は弓の攻撃がなくなったことでモンスターが優勢になりつつあり、このままでは前線が崩壊することは想像に難くない。



 まあ、久々に本気で戦える機会ということで、ちょっと魔法の訓練も兼ねて大きめのものを使うことにした。



「押し流せ。 【タイダルウェーブ】!!」



 俺は両掌を合わせながらそこに魔力を込め、腕を左右に開いた。それに呼応する形で、前方に幅が十数メートルもある高さ三メートルほどの波の壁が出現する。



 まるで意志を持ったかのように、波がモンスターたちを蹂躙する。人工的に生み出された津波は、周辺にいたモンスターたちをことごとく飲み込み、一掃されてしまった。



〈拓内畑羅木のレベルが35に上がりました〉


〈スキル【魔力感知】のレベルが7に上がりました〉


〈スキル【詠唱破棄】のレベルが5に上がりました〉


〈スキル【水魔法】がレベル4に上がりました〉




 さすがに低級とはいえあれだけの数のモンスターを一度に倒せば、そりゃレベルアップもするのは自然なことだ。



 レベルアップしたタイミングで、俺はステータスを開いて確認した。




【名前】:拓内畑羅木


【年齢】:十五歳


【性別】:男


【職業】:無職


【ステータス】



 レベル35



 体力:15500


 魔力:17000


 筋力:588


 耐久力:531


 精神力:604


 知力:749


 走力:553


 運命力:3236



【スキル】:鑑定Lv6、成長率上昇Lv4、健康Lv3、アイテムボックスLv8、異世界言語Lv2、


 魔力感知Lv7、無属性魔法Lv3、詠唱破棄Lv5、火魔法Lv2、水魔法Lv4、風魔法Lv3、


 土魔法Lv2、光魔法Lv2、闇魔法Lv2、時空魔法Lv1、回避Lv3、直感Lv3、錬金術Lv6、危険察知Lv3、


 精神耐性Lv1




 いきなり水魔法が2から4に上がったが、それ以外は順当な感じといったところだ。



「うっ、少し魔力を使ったな」



 いきなりの大技を使ったことで、多少頭にめまいを覚えた。しかし、すぐに頭を振ると症状がなくなり、元通りになる。



「なっ、なんなんだ今のは? 坊主、おまえがやったのか?」


「まあな」


「あんな強力な魔法まで使えるなんてすごいじゃない! ねぇ、これが終わったらお姉さんのパーティーに入らない」


「こらジェニファー、勧誘はあとにしろ。今はこの状況をなんとかするのが先だ。幸い坊主の魔法のお陰で、モンスターどもに傾きかけていた戦況がこちらに戻った。これを機に一気に畳み掛ける!!」



 男の言葉に周囲の冒険者たちも同意するように叫ぶ。そういえば、この男誰だ?



 そんな俺の感情を読み取ったのか、男が自己紹介をしてきた。



「俺は王都の冒険者ギルドでギルドマスターをやっているゴッザムだ。坊主の名前は?」


「拓内畑羅木だ」


「そうか、坊主には悪いがもう少し力を貸してくれると助かる」


「わかった」



 そこから、形勢を立て直した冒険者たちによってモンスターが徐々に駆逐されていく。このまま何事もなく終わってくれるかと思ったその時、事態は急変した。



「ギルマス、大変だ。ゴブリンキングとオークキングが出やがった!!」


「BランクとAランクか、やむを得ん。Cランク以下の冒険者は下がれ! Bランク以上で対処しろ。俺も出る」



 そこに現れたのは、三メートル以上はあろうかという巨体に他のモンスターとは明らかに一線を画した二体のモンスターだった。



 現れたモンスターの特徴は、一体は黒みがかった緑色の肌にその巨体に負けないくらいの大剣を所持している。残ったもう一体は、浅黒い土色に近い肌にこれまた巨大な棍棒を持った二足歩行をする豚の顔をしたモンスターだ。



 ゴッザムの口ぶりからゴブリン系とオーク系の上位種のモンスターであり、かなり手ごわい相手であることは間違いない。



「俺も行こう」


「わかった。だが、無理はするな」



 先ほどの戦いを見て俺に手伝ってもらった方がいいと判断したのか、俺の申し出にゴッザムが反対することはなかった。



 特に気することなく、俺はこれから始まる戦いに備え、両手をふるふると振りながら意識を集中させた。

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