22話「王都に到着して早々にトラブルが起きるのってテンプレじゃね?」
「さて、さっそく王都散策へと参りますか」
コミエの街を出立してから半月後、ようやく王都へと到着する。
道中でいろいろとキャロラインから情報を引き出した結果、わかったことがある。
この国の名はイストブルグ王国で、俺のいたコミエという街はこの国最東端の街らしい。
コミエからさらに東には、【ウッドストック大森林】と呼ばれる広大な森が広がっており、そこには多くのモンスターが生息している。
その大森林の先には、魔族の国があるという話らしいが、誰もその真偽を確かめたことがないため、この情報に関しては眉唾なところがある。
そして、イストブルグ王国の他にもこの大森林に面している国があり、イストブルグ王国を挟む形で北南に国が存在する。
それぞれ名をノストリア公国とサウストリア王国である。名前でなんとなくわかると思うが、北側の国がノストリアで南側の国がサウストリアである。
そして、ウッドストック大森林とは真逆の方角にある三国の国境に面している国が、ウエスタント大帝国である。
帝国という名を冠する国であるため、当然だがその頂点には皇帝が君臨しており、事あるごとに他の三国に軍事侵攻を試みているものの、この三国が同盟関係を結んでおり、侵攻のたびに連携して帝国と渡り合ってきたという歴史がある。
背後にはモンスターが跳梁跋扈する魔の森、そして反対面には領土拡大を目論む軍事国家の侵攻という二つの問題を抱えている状態であった。
そんな事情を道中で聞かされた俺だが、感想としては特になしだ。精々が「ふーん、そうなんだ」というどこか他人事と言っていい感情しか浮かばず、とりあえず問題が解決するといいねというどこか楽観的な言葉しか出てこない。
俺がこの国の国王として生まれていれば、目の前の問題に真剣に向き合うのだろうが、残念ながら今の俺は絶賛無職生活を満喫中なのだ。前世で志半ばに倒れてしまった分、今生は上手く立ち回りたい。
「これで商業ギルドの依頼は達成だな。護衛ご苦労。じゃあ、これであんたともお別れだ」
「……なんか嬉しそうなのは気のせいかしら?」
不満げな表情でそうキャロラインが口にする。実際のところ彼女を持て余していたのは事実であり、余計な詮索をされないためにも、余計なことは喋らせずにひたすらこの国の内情を聞いていたのだから、俺がどれだけ彼女と一緒の空間にいたくなかったかは容易に想像できるだろう。
ギルドマスターとして個々の冒険者の能力を把握しておくことは必要なことなのだろうが、俺は冒険者ではなくただの一般人なのだから、その必要はない。え? 大型モンスターを単独で狩る人間を一般人とは言わないって? それはそれ、これはこれである。
「あんたも用事があるんだろ? 俺にかまけてないで行った行った」
「とりあえず、コミエに戻るときも護衛するから、そのときは覚悟してなさい」
まるで犬でも追い払うかのような俺の態度が不満だったのか、最後にそんな捨て台詞を口にして俺のもとを去って行った。
さて、そんな俺といえば、王都にあるとある宿に滞在しており、現在は国王との謁見に向けての予定調整待ちの状態だ。
王都の門兵に書状を見せると、血相を変えて上の人間のもとへと走って行った。おそらくは確認のためだろうが、人が慌てふためく姿は見物だ。
それから、戻ってきた兵士の話では、すぐに国王との謁見は難しいので、準備が整うまで王都で待機しておいてくれということであった。
まあ、国の最高権力者なら忙しいというのは納得がいく。俺は暇を愛する無職人間であるからして、時間ならいくらでもある。面倒なことであるが、ここは待つしかない。
というわけでだ。国王との謁見があるまで実質自由時間ができてしまった。となれば、どうするのか?
「まあ、散策でもするか」
新しい場所へとやってきた人間がすることなど限られており、俺は早々に王都散策へと繰り出した。
イストブルグ王国王都の人口は五十万人ほどで、円形状に囲まれた高さ十数メートルもある城壁によって守られている。
大抵の場合モンスターの侵入を防ぐためのものであるが、ウエスタント大帝国の侵攻を防ぐ役割も兼ねている。
その城壁には生々しい傷跡が残されており、帝国の侵攻によって王都を襲撃された際に付いたものだと王都の人間に教えてもらった。
もともと魔の森などというモンスターと対峙する国であるため、兵士たちの練度は高く、特に国を守る騎士たちの力は相当なものらしい。
そのことが如実に表れている話があり、かの帝国が攻めてきた際、たった一人の騎士によって万を超える帝国軍を退けたという逸話が残っており、その騎士は今も王城にいるらしい。
情報収集を行いつつ、王都の街並みを俺は観察する。石畳でできた大通りは多くの人々が行き交い、賑わいを見せている。
王都の広さはかなりのものであり、とてもではないが一日で回ることができないほどの規模だ。これは暇を見つけては散策に出る必要があるな。
そんなことを考えながら歩いていたせいなのか、気づけば人通りの少ない路地へ迷い込んでしまった。踵を返して元の大通りへ戻ろうとしたその時、路地の奥から女性の悲鳴が聞こえてくる。
「まぁた古典的なテンプレだな。……行くしかないか」
助けを求める女性の声を聞いたからには、このまま何事もなかったかのように立ち去るなどあり得ん。十中八九だが、後味の悪い結果になるだろうし、こういうイベントを消化しておかないとあとでバッドエンドになる可能性もあるのだ。そういうフラグ的なものが、ゲームだけだと思ったら大間違いなのである。
というわけで、一体なにがあったのかを検証も兼ねて路地の奥を進んでみると、そこには想像した通り一人の女性に群がる悪漢たちの姿があった。
「や、やめてください」
「へっ、いいじゃねぇか。ちょっとくらい付き合えよ」
「兄貴、こいつなかなかいい体してるぜ」
「おら、顔を見せろ」
「や、やめ――」
などというようなやり取りが聞こえる。男たちの言葉でもわかる通り、女性はフード付きのマントを身に着けており、顔はわからない。しかし、その体つきは隠し通せないほどのダイナマイトなバディをしており、まさに男好きする体をしていた。
仮に女の顔があまりよろしくなかったとしても、男たちが彼女をどうこうすることをやめるということはないだろう。それほどまでにいやらしい体つきなのだ。
とまあ、いろいろと頭の中で考えていないで、さっさと彼女を助けるとしよう。てことで、正義の使者拓内畑羅木、出陣じゃー!!
「そこまでだ」
「だ、誰だ!?」
「兄貴ガキですぜ?」
「ふんっ、お前のようなガキがなんの用だ? 俺たちは今からこの女とやることがあるんだ。ガキはガキらしく、家に帰って母ちゃんのおっぱいでもしゃぶってろ」
「それでおまえらは、その人のおっぱいをしゃぶるってわけか? 言ってることが自分に跳ね返ってきてるとおもうんだが、そのことに気づいてるか?」
「てめぇ……」
俺の挑発に男たちの視線が鋭くなる。そして、その隙に俺は女性に視線を送って今のうちに逃げろと合図を送る。
「ご、ごめんなさい!」
「あっ、女が逃げますぜ!」
「ま、待ちやがれ!」
襲われそうになった相手に待てと言われて待つ馬鹿などいるはずもなく、女の姿が大通りへと消えて行った。せっかくの獲物を逃したことで、そのヘイトが完全に俺へと向いた。
「おまえのせいで女に逃げられたじゃねぇか! どうしてくれんだ!! ああ!?」
「知るか」
「兄貴、やっちゃいましょう」
俺の態度が気に食わなかったのか、完全に俺を敵と認めたようだ。手の骨をぽきぽきと鳴らしながら、怒り肩でこちらに向かってくる。
「俺たちの邪魔をしたこと、死んで後悔しろや!」
「ふっ、ぺちっ」
「あひゃひょわ」
二人のステータスを事前に鑑定で調べ、大した相手ではないことを確認していた俺は、殺さないよう手加減をすることにした。
大振りの拳を最小限の動きで躱すと、そのまま相手の懐に入り、おでこに弾いた指を当てる。いわゆるデコピンだ。
デコピンといっても、その力は凄まじく、大人と子供の体格差をもろともせずに男の体が吹き飛ばされる。そして、その衝撃によって昏倒してしまい、地面にうつ伏せに倒れた。
「おいっ! ……ちぃ、少しはやるらしいな。だがな小僧。喧嘩無敗と言われたこの俺ボガレ様の拳の前には、おまえの攻撃など通用しな――ぶぼぉー」
「講釈はいいから、大人しく沈め」
もう相手にすること自体嫌気が差していた俺は、相手の口上を遮る形で腹にデコピンを当ててやる。最初に吹っ飛ばされた男同様その巨体が宙を舞う。そして、路地の壁に幾度かバウンドすると、大の字に倒れた。
「……生きてはいるな。なら、もうここに用はない」
近づいて息があるのを確認すると、俺はその場をあとにした。幸いにも、進んだ先が大通りであったため、元来た路地を通ることをせずに済んだ。
こうして一人の女性を助けた俺は、無事に散策から宿へと舞い戻り、その日は早々に体を休めた。
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