21話「王都への旅立ちと元Sランクの実力」
「王都?」
「ああ、そうだ。タクナイ君には、これから王都に行ってもらいたい」
商業ギルドから急な呼び出しがあったと思えば、突如としてそんなことを言われる。一体全体なにがどうしてそうなったと言いたいところであるが、バザックの真剣な表情にかなりの大事であることが窺える。
だが、俺としてはいきなり呼び出されて王都へ行けと言われたところで、はいそうですかと聞き分けよくそれに従うことはできない。そのため、俺は彼に理由を問い質した。
「なぜだ?」
「国王陛下からの召喚状だ」
俺の問いはあらかじめ予想されたものだったようで、バザックの懐からある一通の手紙が出てくる。
それは紙質的にもかなり上質なものであり、特に手紙を閉じていた封蝋には威厳漂う紋章が刻印されており、どこからどう見ても差出人がやんごとなき方からのものであると容易に想像できる。
しかし、ここでどうして俺のことがこの国の王に伝わっているのかという疑問に辿り着く。いくら国王がそういった情報網を持っていたとしても、俺という一人の人間の情報が耳に入る速度が異様なまでに早すぎるのだ。
となってくれば、俺の情報を誰かが売ったことになり、その人物が今目の前にいるバザックであるという結論に至るまでそれほど時間はかからなかった。
「俺を国に売ったのか?」
「人聞きの悪いことを言わんでくれ。むしろ、これはタクナイ君にとって悪い話ではない」
「どういうことだ?」
どうやら、バザック曰く俺は目立ち過ぎたということらしく、このままでは有力商人や貴族が押しかけてくる可能性が高いとのことで、どこか力を持った後ろ盾が必要とのことだ。
そこで商業ギルド本部のギルドマスターに手紙を送ったところ、その話が国王に伝わり、一度会ってみようという話になったということらしい。
「このままでは下手をすれば、悪質な嫌がらせを受けることになる。それは君も望むところではないだろう?」
「それはまあ」
「だから、国王陛下に判断を仰ぎ、君の後ろ盾になってもらおうということになったのだ」
「なるほど」
「というわけで、すぐに旅の準備をして王都へ向かってくれ」
さて、ややこしいことになったぞ。これって、断れないやつだよな?
召喚状というのは、現代で言うところの警察からの出頭命令に近いものであり、無視すれば犯罪者として認定されてしまうお有難い書状だ。
まだこの世界にやってきて日が浅いうちから国の権力者と敵対するなど悪手であり、今回王都に行くことは決定事項となってしまった。
「わかった」
「道中の護衛として、冒険者ギルドに依頼を出しておいた。出立は二日後の早朝だから、その日になったら門の前に集まってくれ」
「準備のいいことだな」
どうやら、外堀を埋められていたようで、もはや王都行きは免れない様子だ。
憂鬱な気分になりながらも、ひとまずは旅の準備としていろいろと用意するべく商業ギルドをあとにする。
その日と明日の時間を使い旅に必要な物資を購入すると、あっという間に時間が過ぎて行き、コミエの街を出立する日となった。
「集まったわね。じゃあ行きましょうか」
「待てい! なんであんたがここにいるんだ? そして、なぜ一緒に行くことになっている?」
集合場所に向かうと、そこには幌付きの馬車と二頭の馬に数人の武装をした人間がいた。
そして、それとは別に予想外だったのは、アントニオに代わって新たに冒険者ギルドのギルドマスターに就任したキャロラインがいたことである。
支部とはいえ、いちギルドの長がなぜにただの護衛任務に同行するのかわけわかめな状態である。すかさず問い質すと、彼女はなんでもないことのように話し始めた。
「私もたまたま王都に用事があっただけよ。別に君が王都に行くことを知って、この護衛依頼に潜り込んだわけじゃないわ」
「ギルドの仕事はどうした?」
「副ギルドマスターがいるからギルドの運営については問題ないわ。大体、アントニオがギルドマスターやってた時も、実質ギルドを取り仕切っていたのは彼だったし」
「……」
それじゃあギルドマスターの存在意義がないじゃないかという言葉を俺は飲み込んだ。一体彼女がどういうつもりでこの護衛に参加したのかはわからないが、元のランクがSだという話だし、道中盗賊やモンスターが襲ってきても問題はないだろう。
彼女とは別に依頼を受けた冒険者もどこか浮足立っており、明らかにキャロラインに対して委縮してしまっている。これでは、まともな護衛はできるのかどうか不安である。
とにかく、ここでまごまごしているのは時間の無駄ということで、出立する運びとなった。
「それでね。ある貴族の依頼で珍しい花の蜜を取りに行く依頼の時に、Aランクのキングボアが出てきたのだけれど……」
「……」
旅が始まってしばらくして、俺は彼女の同行を許可したことを後悔していた。あれから、なにかにつけて自身の冒険話をしてくるキャロラインに俺は嫌気が差していた。
大方俺を冒険者ギルドに引き込もうという腹積もりのようだが、ニートを信条としている俺に決まった職に就くという選択肢は最初からないのだ。
幸いなのは、彼女は自慢話ではなくあくまでも冒険者としての冒険譚を聞かせているつもりらしく、話し方も鼻持ちならないものではなく、どちらかといえば起こった事実をありのままに伝えていることがせめてもの救いだ。
同じく馬車に乗っていた冒険者も滅多に聞けない有名な冒険者のお有難い話ということで、目を輝かせながらキャロラインの話を聞いている様子だ。
「あとは」
「もう結構だ。あんたがどれだけものすごい冒険譚を話したところで、俺は冒険者になるつもりはさらさらない。俺があの時話した欠点を改善できたのならば話は別だが」
「……」
俺がそう言うと、彼女は途端に押し黙った。やはり俺を冒険者として引き込むつもりだったようだ。だが、残念ながら俺が彼女に話した欠点を改善できない限り、俺が冒険者になることは絶対にない。
そもそも、俺は定職には就かないと決めている。そんな人間をいくら説得したところで、その努力は徒労に終わることだろう。
それに、別に冒険者にならずともモンスターの素材の買い取りは商業ギルドでやってくれるから、冒険者ギルドに登録しなくともなんの問題もないのだ。
まあ、商業ギルドにも冒険者ギルドにも登録していないから、街に入るときに毎回手数料を取られてしまうが、それは仕方のないことである。
とりあえず、俺がキャロラインの勧誘ラブラブ光線を一蹴したことでしばらくは平穏な時が続いた。だが、面倒事というものは立て続けにやってくるものなのか、突如として馬車が何者かによって取り囲まれてしまう。
「何者だ!?」
「金目の物を置いていけ! そうすれば、命だけは助けてやる!!」
どうやら、盗賊に襲撃されてしまったようで、完全に退路を断たれている。状況を確認するため、外に出るとその状況がよくわかった。
そして、キャロラインも馬車の外に出ると、その姿を見た盗賊たちの目の色がいやらしいものに変化する。
「ヒュウー、なかなかの上玉じゃねぇか。おい、そこの女も置いていけ」
「久々に楽しめそうだ」
「あとで、こっちにも回してくださいよ兄貴ぃ」
などとなかなかに下衆な発言をしてくださっているが、腰に下げたレイピアを引き抜いたキャロラインが勇猛果敢に盗賊たちに突っ込んでいった。
そのスピードは尋常ではなく、この俺でも姿を捉えるのがやっとであり、気づけば盗賊たちの足や腕が斬り落とされていた。
(速いな。さすがは元Sランク冒険者といったところか)
盗賊たちも一体なにが起こったのか状況が理解できない様子であったが、自分の手足がなくなっていることに気づくと悲痛な叫び声が辺りに木霊する。
無事な盗賊の中で最も冷静だったのは頭目の男だけで、手下の惨状を見るやすぐに号令をかける。
「野郎ども撤退だ!」
「お頭、あの女【戦乙女のキャロライン】だ!!」
「ちぃ、元Sランクのネームド(二つ名持ち)か……道理でな。とにかく、撤退しろ!!」
まるで蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う盗賊たちに対し、キャロラインは追撃を仕掛けていく。ここで盗賊たちを逃がせば新たな犠牲者が出るだけであり、盗賊を見かけたら討伐することが大体の決まりとなっている。
まあ、盗賊なんて強盗殺人に加えて脅迫と強姦など日本の法に当て嵌めれば処刑台送り待ったなしの罪を犯している連中だ。ここで駆逐しておくことで被害を無くせるのなら討伐しない手はない。
「どけ小僧ぉー!」
「ふっ、とい」
「ぐべらば」
こっちに逃げてきた頭目が襲い掛かってきたため、奴の攻撃を躱しその横っ面に拳を叩きこむ。筋骨隆々な肉体はいとも簡単に宙に投げ出され、錐もみしながら近くに生えていた木にぶつかる。
頭目にとって不運だったのは、ぶつかった場所が顔であり、当たり所が悪かったらしく、首の骨が折れてそのまま二度と立ち上がってくることはなかった。
事故ではあるが、初めて人を殺めてしまったことに罪悪感を覚えるかと思ったが、特になんの痛痒も感じない。相手が罪人だったためなのか、それとももともとそういったことに頓着しない人間だったのかはわからないが、まあやってしまったものは致し方なしである。
〈スキル【精神耐性】を獲得しました〉
などと自己分析を行っていたが、どうやら精神的なダメージは少なからずあったようで、それに対しての耐性スキルが発現した。
ちょうどよかったので、ステータスの確認を行うことにする。ステータスオープンヌ!
【名前】:拓内畑羅木
【年齢】:十五歳
【性別】:男
【職業】:無職
【ステータス】
レベル28
体力:10500
魔力:13000
筋力:518
耐久力:461
精神力:524
知力:659
走力:483
運命力:2136
【スキル】:鑑定Lv6、成長率上昇Lv4、健康Lv3、アイテムボックスLv8、異世界言語Lv2、
魔力感知Lv6、無属性魔法Lv3、詠唱破棄Lv4、火魔法Lv2、水魔法Lv2、風魔法Lv3、
土魔法Lv2、光魔法Lv2、闇魔法Lv2、時空魔法Lv1、回避Lv3、直感Lv3、錬金術Lv6、危険察知Lv3、
精神耐性Lv1
あまり戦闘を行っていないため、レベル自体は変化がないがこの数日間で鑑定や成長率上昇などのレベルが上がっており、確実に成長を感じている。
ちなみに、このときキャロラインのステータスも確認してみたが、こんな感じの能力だった。
【名前】:キャロライン
【年齢】:二十六歳
【性別】:女
【職業】:冒険者ギルドのギルドマスター(元Sランク冒険者【戦乙女のキャロライン】)
【ステータス】
レベル55
体力:36900
魔力:22000
筋力:918
耐久力:881
精神力:1024
知力:819
走力:1583
運命力:4436
【スキル】:剣術Lv7、魔力感知Lv4、無属性魔法Lv4、風魔法Lv4、回避Lv5、直感Lv5、危険察知Lv6
うむ、さすがはSランクだといった感じのステータスである。当たり前だが俺よりも格上であり、まともに戦ったら確実に負けるだろう。
現状彼女と敵対関係にはないので問題はない。仮に戦うことになったとしても、逃げることくらいはできるだろう。
そのためにも更なる精進が必要であり、まだまだ先は長いと感じた。
「なかなかやるじゃない。……これは、ますます冒険者に引き込まなくちゃ」
「大したことはない。まだ発展途上だ」
キャロラインの不穏な呟きが聞こえてきたが、全力で無視して謙遜しておく。俺は無職を愛するただの一般人なのだ。冒険譚に憧れる初心な少年ならいざ知らず、日々の糧を得るために命を懸ける冒険者などになるつもりはない。
それから、ますますキャロラインの勧誘が強くなってしまったが、それを華麗にスルーしつつ、俺たちの旅は続いた。
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