9話「またまたピンチなんだが」
「ガウー」
「げっ、そういうことかよ!」
すぐにウルフの遠吠えの意味がわかった俺は、余計なことをしてくれたと思い顔を顰める。
どうやら、瀕死のウルフが取った行動は、死の最後に仲間を呼ぶ合図だったらしい。某国民的RPGでもスライムや泥の手の形をしたモンスターがよく仲間を呼ぶ行動を取っていた記憶があるが、まさか現実にそれをやられるとは思わなかった。
遠吠えによって新たに呼び出されたウルフの数は三十ほどで、あっという間に俺の周囲を取り囲んでしまった。
退路を断たれたことでもはや逃げることはできず、戦うのみだが、さすがに三十ものウルフを相手にするのはかなり辛いものがある。
そう思いつつも、俺は敵の戦力を把握するべく、改めてウルフを鑑定する。
【名前】:ウルフ
【ランク】:G
【ステータス】
レベル3
体力:55
魔力:12
筋力:22
耐久力:11
精神力:10
知力:9
走力:25
運命力:13
【スキル】:かみつきLv1、連携行動Lv1、遠吠えLv1
鑑定の結果、一匹の能力はそれほどではない。だが、これだけの数を一度に相手にするとなると、かなり手こずることになりそうだ。
「だが、やらねばやられる。これ、それがこの世界の理だ」
などと、格好つけた台詞を宣うが、それで状況が好転するはずもなく、今も仲間をやられてご立腹なウルフたちがこちらに襲い掛からんと牙をむき出しにしている。
「グルルルル」
「いいだろう。正々堂々どちらが勝つか。生き残りを賭けた勝負だ!」
「ガァァァアアアア」
俺のその台詞が開始の合図とばかりに数十のウルフが飛びかかってくる。避ける隙間がなく、やつらの攻撃を避けることは不可能かに思えた。
「なーんてな。くらえ【太〇拳】!!」
飛びかかろうとする直前、俺はウルフたちに向かって、某漫画のキャラクターが使用している技を魔法で応用して繰り出す。俺の髪はふさふさだが、上手く発動してくれたようだ。
辺り一面を覆いつくすほどの閃光が発せられ、ウルフたちの目が眩んだ。
「バーカバーカ、誰が正々堂々戦うものか。世の中どんな汚い手を使おうが、勝てばいいのよ! ウルフども、俺の名を言ってみろぉー!!」
目が見えずにいるウルフに向かって、俺は大人げないほどに煽り散らかす。これではどちらが悪人かわかったものではない。まあ、俺だろうな。
「じゃあ、そういうことで……ウルフたちよ。お別れだ。【ウインドカッター】!」
そして、とどめに風魔法の範囲攻撃魔法であるウインドカッターをぶち込む。毛皮を傷つけないよう首元に狙いを定め、ウルフたちの首を刈り取った。
胴体と首がお別れした少々惨たらしい光景が広がってしまったが、これも弱肉強食の世界ではよくあることなので致し方ない。悪いのは襲ってきた奴らなのだ。
〈拓内畑羅木のレベルが11に上がりました〉
〈スキル【魔力感知】のレベルが2に上がりました〉
〈スキル【無属性魔法】のレベルが2に上がりました〉
〈スキル【風魔法】のレベルが2に上がりました〉
〈スキル【危険察知】を獲得しました〉
「おっと、いろいろ上がったな」
戦闘終了と共に、いろいろと告知が入ったので、俺は改めて自身のステータスを確認する。
【名前】:拓内畑羅木
【年齢】:十五歳
【性別】:男
【職業】:無職
【ステータス】
レベル11
体力:1600
魔力:2000
筋力:135
耐久力:119
精神力:133
知力:160
走力:122
運命力:710
【スキル】:鑑定Lv2、成長率上昇Lv1、健康Lv1、アイテムボックスLv1、異世界言語Lv1、
魔力感知Lv2、無属性魔法Lv2、詠唱破棄Lv1、火魔法Lv1、水魔法Lv1、風魔法Lv2、
土魔法Lv1、光魔法Lv1、闇魔法Lv1、時空魔法Lv1、回避Lv1、直感Lv1、錬金術Lv1、危険察知Lv1
ふむふむ、順調にレベルが上がり確実に強くなっている。良きかな良きかな。
このまま確実に強くなっていき、最終的にはドラゴンをワンパンできるくらいにはなっていきたい。……それは、少しやり過ぎか?
「ワォォォォオオオオオン」
「な、なんだ!?」
ステータスの確認が終わった直後、どこからともなく遠吠えが木霊する。よく見ると、生き残ったウルフが最後の力を振り絞って【遠吠え】のスキルを発動したらしい。
「ちぃ【マジックボール】!」
すぐにとどめを刺そうと魔法で攻撃したが、すでにスキルは発動した後であった。
「ガルルルル」
「な、なんだあれは? デカいぞ」
そこに現れたのは、姿はウルフのようだが、纏っている雰囲気は明らかに強者のそれだった。そして、なによりもウルフよりも二回りほど大きな体格は、それだけでもかなりの脅威だということが理解できる。
【名前】:ウルフファング
【ランク】:C
【ステータス】
レベル20
体力:2000
魔力:1800
筋力:220
耐久力:188
精神力:177
知力:109
走力:267
運命力:111
【スキル】:爪攻撃Lv2、体当たりLv3、かみつきLv3、連携行動Lv3、遠吠えLv3
待て待て待て待て待てぇーい! なんでいきなりこんなのが出てくるんだ!? おかしいだろう!!
ここは駆け出し冒険者向けの森で、言わばチュートリアル的な場所じゃないのか?
などという考えていたが、いきなりウルフファングが突っ込んできたことで、思考を一時中断せざるを得なくなった。
三メートルを優に超える体格を感じさせないほどに奴の動きは素早く、十メートル以上離れていた距離が一気に縮まった。
そして、挨拶代わりとばかりに繰り出される右前足の爪攻撃は、直撃すればただでは済まないと一瞬にして理解する。俺は、すぐさまその場から身を投げ出し緊急回避を試みた。
咄嗟の判断が功を奏するということはよくあることである。今回も俺の取った行動は正しかったようで、俺の背後にあった木がまるで小枝かのようにポキリと折れた。
「ガルルルル」
「風きり音が普通じゃない。あんなの食らったら、ただじゃ済まない」
初手の攻撃を回避したことで、こちらを脅威と見たのか、明らかにウルフファングの警戒レベルが上がった。隙あらば攻撃を仕掛けるとばかりに様子を窺っている。
「ならば、この手でどうだ。【ウォーターシャワー】!!」
俺は前回三つ目熊に使った溺死作戦を決行した。しかし、三つ目熊とウルフファングではモンスターとしての格が違った。
レベルが上がったことで、ウォーターシャワーの威力と速度は上がっていた。しかし、敵の強さも上がっているため、俺の放ったウォーターシャワーをなんなく回避してみせたのだ。
「さすがにこちらの狙い通りにはなってくれんか」
「ガアアアア」
そして、お返しとばかりに再びこちらに突進してくるウルフファングだったが、すぐにそれに対応するべく、俺は地面に手をついて魔法を発動させた。
「【ストーンウォール】!」
俺が発動させた魔法の効果により、地面から石の壁がせり上がる。ウルフファングの行く手を阻むかに思えたが、その考えは脆くも崩れ去る。
なんと、突進の威力を利用した頭突き攻撃でいとも簡単にストーンウォールの壁を粉砕したのだ。
「そんなのありかよ!!」
「ガアアアアアアアアア」
そして、その勢いはとどまることなく、大口を開けたウルフファングが眼前にまで迫った。
「ひぃぃぃいいいいい」
もはや体裁など構ってはいられず、ウルフファングの牙から逃れようと必死に回避する。その必死さによって、辛うじて奴の牙から逃れることができた。
だが、回避した際ウルフファングの牙が掠っていたらしく、頬に切り傷ができており、そこから血が流れていた。避けきれなかったか。
「くっ、このままでは……やられる」
圧倒的な力の差に、なにか打つ手はないかと頭を高速回転させる。そして、ある一つの手を思いつく。
しかし、その手は一歩間違えれば取り返しのつかないことになりかねず、ある意味では一種のギャンブルに等しい。
「そんなことを言っている場合じゃないな。ここは、この作戦にすべてを賭ける!」
そう言うと同時に、再びウルフファングが襲い掛かってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます