6話「レッツ錬金術」
そんなこんなで、一度宿へと戻ってきた俺は、本屋で買った錬金術のハウツー本とその道具をアイテムボックスから取り出した。
当然だが、俺の目的は錬金術を会得することであり、それを使い新たな錬金術として日銭を稼ぐ腹積もりだ。
「どれどれ」
思い立ったが吉日ということで、さっそく本を開いて読んでみる。内容としては、とにかく錬金術を使えるようになるまで頑張れというものであった。
具体的なものとしては、ポーションを売っている店などで錬金術を行うための道具を購入し、その道具にひらすら魔力を注ぎ込めという内容だ。
錬金術を使用するには道具が必要であり、なおかつその道具を作動し続けるだけの魔力が必要らしい。そのため、限られた人間だけが錬金術師になることができ、誰でもなれるというものではないらしい。
「なら、さっそくやってみるか」
俺は、魔法陣のようなものが描かれた布を広げると、それに向かって魔力を注ぎ込み始める。すると、魔法陣が光輝きその光が部屋を照らし出した。
感触としては、ただ魔力を注いでいるだけなので、体内の魔力がなくなっていくだけの作業でしかない。これで本当に錬金術ができるようになるのだろうかと思っていたが、どうやらその方法は間違ってはいなかった。
〈スキル【錬金術】を獲得しました〉
〈スキル【魔力感知】のレベルが2に上がりました〉
おお、こうもあっさりと錬金術を覚えることができるとは思わず、俺は内心で驚嘆する。おそらくは、あの天使との二週間にも及ぶ話し合いによって決めたチートが影響しているのだろうが、それにしたってあっけなさすぎる。さすがはOh my Angelである。
ひとまずは錬金術のスキルを得られたので、本の続きを本でいくと、どうやら魔法陣の上にすり鉢でつぶした素材を置いてその状態で魔法陣を発動させることで錬金術を行うことができるらしい。
「材料がないな。ならばやることは一つだ」
そう言うが早いか、俺は再び宿から飛び出した。地球にいた頃とは明らかに違い、精力的に動いている気がする。まあ、その原動力となっているのが、まともな職に就かず不労所得を得るという不純な理由であるのがなんとも言えないのだが……。
それはともかくとして、すぐさま俺はポーションの看板を見つけると、店に突入する。今回の店はあのぼったくり女の店ではなく、別の店で買うつもりだ。
「いらっしゃい。なにがほしいんじゃ?」
出迎えてくれたのは、白髪白髭のいかにもなお爺ちゃん錬金術師であった。ポーションを作るための材料が欲しいと言うと、快く用意してくれ、その値段もぼったくり価格ではなくちゃんとした価格だった。
「これはおまけじゃ。ポーションが出来上がったら持ってくるといい。わしが見てやろう」
「ありがとう」
そう礼を言いながら、俺は再び宿へと舞い戻る。なぜわざわざ宿に戻っているのかという疑問が浮かぶと思うが、錬金術を行っているところを見られたくないからである。
どこでなにを見られているのかわからない以上、俺が錬金術を使えることを不特定多数の人間に知られるのはあまり良くないと考えている。
もちろんだが、誰にも知られないなどということは不可能であると理解しているが、俺の情報を知っている人間が少ないに越したことはない。
だからこそ、めんどうだが人の目のない宿に戻ることは決して無意味ではないと俺は思う。……そう思いたい。
「さて、それじゃま。いっちょ作ってみるとするか」
個人情報の流出もろもろはさておいて、さっそく覚えたばかりの錬金術を使ってポーションを作っていくことにする。まずは材料だが、この世界で一般的に自生していると言われる【ポムポム草】という見た目が完全にヨモギの癒しの力がある薬草と、どこにでもあるただの水を使って【最下級ポーション】の作製を行っていく。
ポーションの質は全部で七種類あり、下から最下級・下級・中級・上級・超上級・最上級・伝説級・神話級となっている。
最下級は、擦り傷などの軽い怪我を治す程度しかない粗悪品で、ポーションとしての効果を期待するのなら中級以上と言われている。
上級になると怪我だけでなく病気にも効果が見込め、超上級になると骨折や内臓損傷などの重傷も一瞬で治療が可能となる。
最上級クラスともなれば、千切れた腕が生えてきたり、重い病気もすぐさま治療される。
伝説級は致命傷となる傷を瞬く間に回復させ、不治の病とされる病気にも効果がある。だが、効果が高い分なかなかお目にかかれる代物ではなく、求められる材料もとんでもないものばかりらしい。
そして、最高レベルの神話級だが、その名の通り神話の中でしか登場しない存在すら疑わしいレベルのものであり、錬金術師の間では事実上伝説級が最高レベルとされている。
余談だが、もし仮に神話級のポーションが実在しているとしたら、一体どれだけの効果があるのかという議題が毎年のように議論されているが、一説では死者を蘇らせる効果があるとされている。
「まず、ポムポム草をすり潰していく」
ポーションについての講義はこれくらいにして、実際に作業に移る。最下級ポーションの材料となるポムポム草をすり鉢とすりこぎ棒を使ってすり潰していき、ある程度すり潰せたら、そこに水を適量加える。
「あとは、これを魔法陣の上で錬成させれば……」
そう言いながら、すり潰した材料をすり鉢ごと魔法陣の上に置き、その状態で魔力を流していく。すると、魔法陣の光がすり鉢を包み込み、次の瞬間には“ボン”という音と共にすり鉢が煙に包まれた。
煙を払うように手を扇ぐと、煙の中から緑色の液体が入ったフラスコが姿を現す。
「おいおい、フラスコはどっから現れたんだ?」
地球出身の俺からすれば物理の法則を完全に無視した現象に、思わず突っ込んでしまった。
いろいろと言いたいことがあるが、この現象が異世界ファンタジー特有のものであると無理やりに自分を納得させた俺は、できあがったポーションをさっそく鑑定してみることにした。
【最下級ポーション】……最も低品質のポーション。
その効果も悪く、擦り傷などの軽傷しか治療できない。
材料が薬草と水だけなため、味が最悪なことになっている。
なるほど、ポムポム草と水だけで簡単にできる分、あまり効果は期待できないということか。あと、味が最悪らしい。
「どれどれ……うっ、苦い。そして、青臭い」
試しに一滴指ですくって口に入れてみた。すると、ものすごく苦い味が口の中に広がる。さらには、もともと材料が草というだけあって青臭さもあり、とても飲めたものではなかった。
「とりあえず、練習がてらどんどん作ってみよう」
初めて作ったポーションは最悪な味だったが、錬金術のレベルが上がれば改善されるかもしれないという淡い期待のもと、持っていたポムポム草すべてを最下級ポーションに変えていった。
〈スキル【錬金術】のレベルが2に上がりました〉
作業が終わったところで、錬金術のレベルが2に上がった。このレベルアップが早いのかどうかはわからないが、今後も錬金術のレベル上げはやっていくつもりだ。すべては働かなくても金が勝手に入ってくるその日のために……。ザ不労所得万歳である。
すべての作業が終わったところで、ちょうど昼時になり、俺は作ったポーション出来栄えを確かめるついでに昼飯を食べるべく、再び街へと繰り出したのであった。
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