3話「畑羅木、いきなり億万長者になる」
「はあ、はあ、はあ、はあ」
なんとかぎりぎりの戦いを制した俺は、生きている喜びを噛みしめる。余裕で勝ったように見えるが、実際は本当にぎりぎりの戦いであった。
「ふざけんじゃねぇよ! なんでこんなのが出てくんだ!! おい、Oh My Angel聞いてねぇぞ!!」
聞いていた話と違うため、天に向かって叫ぶ。おそらく俺の行動を見ているであろう天使に向かって……。
「大体、なんで街から一時間圏内にこんな化け物がいるんだ? 日本だったら警察とレスキューが出動するレベルだぞこれ! このこのこの!!」
そう言いながら、物言わぬ肉塊へと姿を変えた三つ目熊を蹴り上げる。やっていることは、インターネット用語で言うところの死体撃ちと変わらないが、こちとら死にかけたんだ、これくらいのことはやっても仕方がないだろう。
そんなことをやっていたそのとき、頭の中で例のメッセージが響く。
〈拓内畑羅木のレベルが8に上がりました〉
〈スキル【鑑定】のレベルが2に上がりました〉
〈スキル【直感】を獲得しました〉
おうおうおう、さすがに強敵を倒した後だからな。これくらいのリターンがないとやってられんというものだ。とりあえず、ステータスを再度チェックだ。
【名前】:拓内畑羅木
【年齢】:十五歳
【性別】:男
【職業】:無職
【ステータス】
レベル8
体力:1200
魔力:1600
筋力:105
耐久力:79
精神力:77
知力:110
走力:80
運命力:400
【スキル】:鑑定Lv2、成長率上昇Lv1、健康Lv1、アイテムボックスLv1、異世界言語Lv1、
魔力感知Lv1、無属性魔法Lv1、詠唱破棄Lv1、火魔法Lv1、水魔法Lv1、風魔法Lv1、
土魔法Lv1、光魔法Lv1、闇魔法Lv1、時空魔法Lv1、回避Lv1、直感Lv1
【称号】:転生者、〇×△◇の加護、魔法の探究者
うむ、レベルがあがったことでパラメータも向上したな。これなら、さっきの熊相手に素手で戦えそうだ。……実際また戦うことになっても、試したいとは思わんが。
新たに手に入れたスキル【直感】は、咄嗟の判断が直感に従ったような形として認識されたため獲得できたらしい。
「はあ……とりあえず、倒したモンスターをどうするかだが」
一旦状況が落ち着いたので、街へ向かうべく行動を開始する。ひとまずは、倒したモンスターをどうするかという話であるが、こんなときのためにあるのが【アイテムボックス】である。
どんな状況でも、手ぶらで行動できるということはちょっとしたアドバンテージであり、旅行においてもいかに荷物を少なく済ませるかで、その良し悪しが決まってくる。
異世界に転生したとき、欲しいチートな能力の一つでもあり、荷物を持たなくていいというのはどんな状況においても有利に働く。
「まずはウサギを収納してみよう」
天使からもらったアイテムボックスが、どの程度収納できるか現時点ではわからないため、まずは小さいホーンラビットを収納する。
小さいといっても、体長約一メートルもあり、その重量は十キログラムにもなる。果たしてレベルが1のアイテムボックスでも収納が可能なのだろうか?
「うん、入ったな……ん? 何か入ってるな」
すんなり入ったことを確認したあと、今収納したホーンラビットとは別に何か入っていることに気づく。確認してみると、そこに入っていたのは一通の手紙だった。
「なになに……」
その手紙の差出人は、俺をこの世界に送ってくれた天使からのものであり、内容はこのように書かれていた。
『拓内畑羅木様へ
この手紙を読んでいるということは、無事に転生が完了したということでしょう。
あなたは三つの転生ルートのうち、どれも選ばなかった特異な存在です。そのことを自覚して日々過ごしてください。
ひょっとしたら、いろいろと面倒なことに巻き込まれるかもしれませんが、そこは運命だと思って諦めてください。
ああそれと、あなたが前世で稼いでいたお金をこちらの世界の通貨に換金しておきました。
もしかしたら、これだけで一生働かなくても問題ないかもしれませんが、そこは自由に使えるお金が増えたと思って受け取ってください。
それでは、あなたにとって幸多き人生であることを願っております。
〇×△◇より』
待て、ちょっと待て。なんか聞き捨てならないようなことが書いてなかったか? 面倒なことに巻き込まれる……だと?
「だが、前世で稼いだ金が使えるのは有難い」
手紙を読んだあとでアイテムボックスの中身を確認してみると、そこには銀貨や金貨など様々な種類の硬貨が入っていた。
試しに銀貨一枚を取り出して、それにスキルを使って鑑定してみる。
【銀貨】……この世界で一般的に使われている通貨。通貨の単位はゼゼと呼ばれており、日本円に換算すると千円くらいになる。
世界の通貨は価値の低い順から銭貨・鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・白金貨・聖銀貨・聖金貨となっている。
それぞれ通貨十枚で次の通貨一枚分となる。 例:銅貨十枚→銀貨一枚
なるほど、つまり表にまとめるとこういう風になるんだな。
銭貨(一枚の価値は日本円で一円、十枚で鉄貨一枚と同価値)
鉄貨(一枚の価値は日本円で十円、十枚で銅貨一枚と同価値)
銅貨(一枚の価値は日本円で百円、十枚で銀貨一枚と同価値)
銀貨(一枚の価値は日本円で千円、十枚で金貨一枚と同価値)
金貨(一枚の価値は日本円で一万円、十枚で白金貨一枚と同価値)
白金貨(一枚の価値は日本円で十万円、十枚で聖銀貨一枚と同価値)
聖銀貨(一枚の価値は日本円で百万円、十枚で聖金貨一枚と同価値)
聖金貨(一枚の価値は日本円で一千万円、この世界で使われる通貨としては最も価値の高い硬貨)
「聖金貨が五百枚以上ありやがる。まあ、俺が錬金術で稼いでた金額を考えれば当然ではあるが……」
もはや前世となってしまった日本で、俺は放っておけばお金が勝手に増えるという錬金術を使って、五十億以上の金を稼いでいた。
預金上限が一億の通帳が上限いっぱいになった状態で、少なくとも四十五冊以上はあったことを考えれば、最低でも五十億という金額に行きつくのは難しくない。
しかも、俺が把握しているだけでそれだったのだから、実際はどれだけの金が発生していたのかその全体像は掴み切れていない。
「まっ、当分は金の心配をしなくてよくなったのは有難い。とりあえず、近くの街に移動すっか」
細かいことはこの際置いておくとして、残った三つ目熊もアイテムボックスに収納し、俺は街へと向かうことにした。
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