第23話 雷ジングサン ― 新たなるステップへ ― (1)
宮中の
この年の夏は
だが、そんな日に限って、昼過ぎ頃から、突然、激しい雨が降り出したのである。
最初のうちは、『雨乞いの話をすれば早速降るとは……』 そんな雰囲気だったのかもしれないが、雨はだんだん豪雨に変わり、終には雷まで鳴り始め、会議どころの話ではなくなった。
当時、雷鳴があると、"
雷鳴の陣の様子は、清少納言の 『枕草子』 中でも、恐ろしいものとして取り上げられているから、知っている人も多いかもしれない。
何でも、
だが、当然のことながら、雷様はそんな段取りを悠長に待ってはくれない。"雷鳴の陣"どころか、実際は、あっという間に雷雲が近づいてきたのだろう。とうとう清涼殿の南西の第一の柱に雷が直撃した。
そしてこの時、沢山の公卿や官人がそれに巻き込まれ、大惨事になったようである。
例えば(役職、名の読み方は一部略しているが……)
大納言 藤原
右中弁 平
また雷は、
紀 蔭連 は服を焼かれて悶え苦しみ。
安曇宗仁 は膝を焼かれて、重傷。
当然のことながら、救急医療がない時代である。部分的にでも大火傷を負った人達は、死に至ったのではなかろうか。
また、この大惨事は相当に衝撃的なものだったのだろう。当時、理不尽にも中央政界から追いやられた
『 落雷は菅原道真公の怨霊の仕業ではないか…… 』
と、道真が北野社(現在の北野天満宮)に
これは、『日本紀略』 という書物の中で、醍醐天皇時代の出来事として書かれている話だが、ここに、右衛門佐 美努忠包という名前がある。
そして忠明は、今まさに、その孫の世代と思われる美努
同じ美努姓であっても、定信は忠明と違い、さほど背も高くないし細身である。
見た目も穏和な感じで、言われないと、数年前まで検非違使庁に勤めていた人には見えない。
むしろ、とても品良く見えるので、田舎者の忠明の目には根っからの"都の貴族" のように映った。
それに、はっきり言って、和泉の国に住んでいる美努家の者達と比べて、都に住まう美努の人々では格が違うのだ。
和泉は出所かもしれないが、都の美努は平安京への遷都と共に、わざわざ朝廷を支える為に上洛した官人の一族であり、それなりの位も持ち合わせていた。
そして定信も、検非違使としては
そこで、呼び出しが掛かった時には、正直、緊張した。
いくら交流が途絶えているとしても、同族である。
清水寺での事件のことで、何か影響を与えていたら、結構な迷惑を被っているかもしれない。
『……ここは、黙って謝るしかないかもしれぬ 』
そう腹を括って、参上したのだ。
いずれにせよ、例え末端の仕事だとしても、都の検非違使庁で働くなら、一度は挨拶に訪れる場所だったのである。
そこで、春まだ浅い吉日、忠明は意を決して定信の邸を尋ねたのであった。
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