第3話
ニコラスに案内された応接室……いわゆるサロンの中は、女で溢れかえっていた。
ソファーに座ってお茶を楽しんでいる女性や、窓際で物憂げに外を眺めている女性など、ざっと見る限り十人以上の女性が一部屋に集結していた。
着ている服も違えば容姿も違う。けれども皆、女性の私から見ても目を奪われるほど美しい顔をしていた。
清楚な美女。色気のある美女。元気な美女。美女が大渋滞している。何だここは。石油王のハーレムか。いや違った、ここはメルウェローの王城だった。
「すぐに戻るから、もう少しだけ待っててくれないか」
そう言ってニコラスは私をサロンに置いて部屋から出て行ってしまった。急に心細くなって扉の前に立ち尽くしていると、不意にひとりの女性から声をかけられた。黒髪に青い目をした大和撫子風美女だ。彼女の後ろには褐色肌の踊り子風美女や、チャイナドレスをアレンジした中華風美女もいて、非常に多国籍満載である。そして彼女たちは皆同じように、私のことを興味津々に見つめていた。
「ねぇ。あなたもマリアなんでしょう?」
「あなたもってことは……あなたも?」
私の問いに、大和撫子風美女をはじめとした多国籍美女が揃って頷いた。
「そうですわ。わたくし、現実世界でトラックに轢かれて……気付いたらこの世界にいましたの」
「アタシもそうだよ。ダンスオーディションがあるから急いでたんだけど、信号無視のトラックに轢かれてサ……目覚めたらマリアだったってわけ」
「ヤッバ! 全員トラックに轢かれて異世界転生しちゃったカンジ!? 超ウケるんだけど」
中華風美女の中身がギャルっぽかったのは意外だったが、それよりもここにいる全員がトラック事故によって異世界転生している事実の方にびっくりしてしまった。トラックと異世界を繋ぐ道でもあるのだろうか。
「でも、ここにいる皆がマリアって……そんなこと、ある?」
「あなたが目覚める前に、わたくしは皆さんと情報交換しましたの。そして共通点を二つ、見つけましたわ」
「共通点……」
「そう。まずひとつ。わたくしたちは全員、トラックに轢かれてこの世界へ聖女マリアとして転生した。そしてもうひとつ。それは皆が同じアプリゲーム『白き聖女と封印されし聖石の王子』にドハマリしていたことですわ」
あなたもそうでしょう? と言わんばかりに、大和撫子風美女が探るように見つめてきた。
「それはつまり……皆がヒロインで、それぞれに推しの王子がいる……ってこと!?」
「そうですわ。これは謂わば、わたくしたちマリアによる推し王子獲得のバトルロワイヤルなのです!」
にわかにサロン内の空気がぴりついた。総勢二十名のマリアが、それぞれ推し王子とのハッピーエンドを虎視眈々と狙っているのだ。もはや聖女どころか悪女といった方がいいかもしれない。
せっかく二度目の人生を推しゲームのヒロインとして歩むことができるというのに、まさかこんなところにマリア軍団という落とし穴があろうとは。
でも考えてみればあのゲームをプレイしているのは全世界に多くいるし、異世界転生がこうも頻繁に起こっているのなら、転生先も被ってくることは否めないだろう。石王子のゲームにドハマリして、推し王子とあんなことやこんなことを想像して楽しんでいるのは私だけではないのだ。
せめて推し王子が被らなければいい……と、一瞬儚い希望を抱いたが、世界はそんなに甘くない。私の推し、暗黒王子クロードはほぼガチャでしか登場しない超人気キャラなのだ。このマリアたちの中にも、彼を狙っている者がいるはずである。
彼女たちよりも早くクロードに辿り付かなければと、そう決意したところで、再びサロンにニコラスが現れた。
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