第27話 彼女はアイドル
──女神の口元から、微笑が消えた。
「……さすがは、
「お褒めの言葉、光栄です」
応えたのは、聞き覚えのある声とフレーズでした。同時に隣でうずくまっていたゴルゴーンが、ぼろぼろと何かを振り落としながら立ち上がる気配。
「呆れてるだけと、何度言えばいいの」
そこには、担当カラーである
──わあ、本物。
動画でしか見たことのない私は、その何倍もの可愛さ美しさに思わず感動してしまう。正直、彼女のことを調べる過程で私は、すっかり天乃
そんな熱い視線を気にも留めず彼女は、横方向に膨らむスカートを抑えながら屈み込むと、足元にたくさん散らばった青い鱗を一枚拾い上げる。
「
その言葉を聞いて、女神の口元には再び微笑が浮かんだ。
「そうでしょう、ゴルゴーン。あんな憎しみを忘れられるわけない。さあ、あなたにもっと
「──いいの、切り捨てなくても」
女神の言葉を遮って、私は
そのとき女神の口元から、きっと気のせいだろうけど、まるで舌打ちのような音が聴こえた。
「だから、
「……それは……んふッ、ちょっと何を……」
包んだ彼女の掌に、繊細無比なる秘撫「
そして私は背中の翼を開き、空中へと舞い上がっていました。
「ごめんあそばせ、女神さま」
不敬を謝罪しながら
「さあ!
ォオォオオオオ……!
光しかない周囲から、低く静かに地鳴りのような声たちが応える。
清楚系としての
「てーんの! てーんの! はいっ」
……てーんの……てーんの……
私の
……てーんの! てーんのっ! てーんーのっ!
薄れた光の下から現れるのは、私と同じく両手に
そうして光が薄まるほどに客席は拡がり、やがてコールは嵐のように。
「──なんだか、にぎやかね」
それを背に浴びて、淡々と言い捨てる女神の輝きはみるみる失われてゆく。
その前方で俯いた天乃は、いつの間にか差したスポットライトのなかで、鱗と
『ねえ、天王洲先輩』
そのとき、コールを続ける
出どこはもちろん彼女の握った
──なにせ、
『
「そう……」
短い答えは、湧き上がる何かを堪えるように無感情。
『だからあなたが
そもそも
──そのとき御堂は石化され、そして
御堂の黒い
──美術準備室に現れたのも、最初は私を救うためだった。
『アイドルになる夢を叶えるため、あなたが積み重ねてきた努力も知ってる』
その間もずっと、コールは響き続ける。
『だったら、アイドルになって
「──ほんとうに
『お褒めの言葉、とっても光栄です』
もはやお約束のやりとりだけど、いつもの否定は返ってこない。
かわりに彼女はスポットライトの中で、右手をゆっくりと顔前に掲げた。
使用済みの券は光の粒になって鱗に吸収されてゆく。青い光に包まれた鱗は、ゆっくりと一本の青いマイクに形を変えた。
それを、握りしめ。
「──ええ。ご褒美に私の
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