第26話 神は遍在するがゆえ
「──あら。あなた、どこから
──!?
そんなわけない、私が見ているのはあくまで
けれど次の瞬間、目の前では桜色のロングスカートの裾が風もないのにゆらめいていた。時折ちらりと、白い裸足の爪先がのぞく。
──気付けば黒猫の姿のまま私は、ゴルゴーンの隣で女神の足元に座っていました。
「まあかわいらしい。でもあなた、
その言葉に身構える間もなく、一瞬後には制服姿の女子高生に戻って、私はその場にひざまずいていました。背の羽根も、角も尻尾もすべてを晒した状態で。
「なるほど、
真横から、灼けるように熱い視線を感じる。転生者への憎しみで燃えるゴルゴーンの黄金の瞳が、こちらを睨んでいるのでしょう。
当然のことですが、夢の中の登場人物たちは現実の人物とは切り離されています。
しかし、夢の中に引きずり込んで私の
「戸惑ってるのね。教えてあげる、神とは
「……偏在……?」
理解できず、思わず口に出てしまう私に、女神は優しく微笑んだ。
「
しばし小首をかしげてから、嬉しそうに続ける。
「そうそう、ゴキブリ! あれみたいに!」
──急激に、背筋が冷えた。
理解できない喩えは置いておくとして、要は
理解はできないけれど、神とはそういうものなのだと納得するしかない。
いま私の目の前に
「──で? あなたは、何をしに来たのですか?」
女神が問いかける。トーンをひとつ落とした声が優しく耳に潜り込み、鼓膜を指先でなぞられたかのよう。鳥肌が、ぞわり。
「生徒会長を──彼女を前世の呪縛から切り離しに来ました」
「ふうん。なぁぜ?」
「なぜって……罪のない人たちを、守るため……」
「へぇ、えらいのね。あなたはいったい、なぁに? 世界を守る正義の味方かしら」
畳みかける女神の問いに、ひざまずいたまま必死に言葉を搾りだしていた私の思考は、そこでふと立ち止まった。私は
もちろん、ゴルゴーンの無差別大量石化を阻止して人々を守る、という大義名分は
「復讐は彼女の──
顔を上げる。両脚に力を込め、立ち上がる。女神の
「──それが私の、清く正しき
浮かんでいるだけ頭ふたつ高い位置の女神の尊顔を、見据えて言い切る。
それは無意識に崇めてしまうほど、神々しい美しさ。けれど、リリスの
「そうですか」
女神は淡々と応えた。優しさを忘れた声で。急激に私への興味を失ったように。
「でもそれはだめ。私は女神として全宇宙のバランスを保たなきゃいけない。だから、可哀想だけれどあの世界──あなたの世界には滅びてもらわないと」
そのとき彼女の言葉から、微かに嘘の気配がした。全部が嘘ではないけれど、そこに漂うのはSNSにもはびこる、
だから私は、一寸の迷いもなく言い切ります。
「──なら、
「追い出す? あなたが? 普遍たる
淡々と、しかし口元には微笑の形の嘲笑を浮かべて問う彼女の眼前に、私はゆっくりと右手を、指先にはさんだ一枚の紙片を差し出した。
「これで」
「そんな紙きれで、あなたが私をどうこうできるの?」
できる。正確には
「やれるでしょう、
頭上に
──女神の口元から、微笑が消えた。
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