第2話 清楚なる日々
サキュバスの記憶。
それはもう
幼いころの私にはもちろん、さっぱり意味が分からず。
記憶がよみがえりはじめた小学生のころ、なにげなくお母様に聞いてみたときには、死ぬほど怒られたものです。
(私がではなく、怒ってるお母様のほうが死にそうなくらい顔面蒼白、息も絶えだえで……)
以降、絶対に表には出さないことにしていました。
そうして、大好きなお母様の教えを素直に守りまっすぐ清楚に育った私。
ですが、その手の知識というのはいろんなところから自然と混入してくるもの。
おかげでうっすら記憶の「意味」がわかってくると、途端にものすごい興味が湧き上がり、中二の終わりごろにはもう好奇心がはちきれそうでした。
ぶっちゃけ、そのへんのモヤモヤをすべて無理やり勉学にぶつけたおかげで、難関である聖条院への編入試験に合格できた気がします……。
というわけで、高校合格のお祝いとしてスマートフォンを手にするやいなや。
私はインターネットという集合知からありとあらゆる情報を珪藻土マットのように高速で吸収しまくったのです。
言っておきますが、いやらしい気持ちなんか欠片もありませんからね。
SNSで
なかには危険な誘惑も潜んでいましたが、
悪い大人を華麗にあしらいつつ、推しの絵師さんや
謎の清楚系マニアックバーチャルJK「
……うん、なんだか途中ですっかり
だって根底に
それに、すべては知識の中だけのこと!
「──ごきげんよう、
そんなこんな想いを馳せていたところ、わざわざ送迎の高級車のスピード落として後部座席の窓を開け、手をひらひらしながら同級生が通り過ぎていきました。
「ごっごごきげんよう!」
内心どぎまぎしつつも、微笑みと会釈で見送る私。
通り過ぎる瞬間に前髪越しに見えた
同級生のほとんど、というより全校生徒のほとんどは、校舎の敷地内にある高級マンションじみた女子寮住まいか、高級車による送迎の二択です。
私のように最寄り駅まで歩くのは、ほんの一握り。
それでも、いつもは同級生であり数少ないお友達の綾さんと、二人並んで帰るのですよ。
ですが最近の彼女は学校を休みがちで、それが目下のところ最大の心配事です。
そんな友達想いなところも清楚な私は、電車に揺られること数駅、さらにてくてく徒歩で十数分、お母様と二人暮らしのアパートに帰り着きました。
「ただいま、お母様」
「おかえりなさい、琳子さん」
ベビーアルパカ生地ぐらい柔らかで優しい耳ざわりの声が出迎えます。
ここからはお母様と私の大切な団らんの時間なので、描写は割愛させていただきます。
ちなみにベビーアルパカ生地は、生後三ヶ月以内のアルパカの赤ちゃんの毛だけを櫛でやさしくすき取って集めた、一生に一度しか採れない稀少素材。
私が赤ちゃんのころ、
残念ながら、実物はゴタゴタのさなかに失われてしまいましたが……。
そう、お気づきかとは思いますが、名門たる我が硯家は私が中学生になる前、ゴタゴタの末に没落しました。入り婿だった父は、若い家政婦と一緒になけなしの財産を持って行方不明……。
ですが、いいのです。お母様がいてくれて、こうして毎日ふたりで夕飯を食べながらお話する時間があれば、私はそれだけで充分に幸せだから。
──はい。そんなこんなで、就寝時間です。
私の就寝前の日課が、自室のベッドに寝転んでの読書。
ちなみに学校では文芸部に所属し、詩や小説の創作を
これも本好きのお母様の影響です。なお、お母様の現在のご職業はこの近所にある隠れ家的ブックカフェの(雇われ)店長で、私もお店には時々お邪魔させていただいています。
えー、というわけで本日ですが。お母様のブックカフェとはまた別の、行きつけの古書店で手に入れた……いわゆるその……
……官能小説を、読みふけっておりました。
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