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標高が高いせいだろう。温かい布団の誘惑に負けそうになったが、そうもいかなかった。
「ようし」
言い聞かせるように言って
「お世話になりました」
「こちらこそ」
玄関先で挨拶をする。
「ああ、それとこれ。昨日の残りものだけど、おにぎりにしたから帰りにでも食べて」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
飛び上がりそうな勢いで、アルミホイルに包まれた栗ご飯のおにぎりを受け取る。
「では、失礼します」
「記事、楽しみにしてるよ」
一礼をしてから、御幣島は民宿を、居之上の家を後にする。
彼はずっと微笑んでいた。
十分ほど歩くと、一軒の家が見えてくる。昨晩遅くに紹介された女性、
門扉からちらりと敷地内をのぞきこむ。ノンアポなのでどうしようかと思っていると、目的の人物は丁度庭にいた。昨日と同じ、白系のゆったりとしたワンピースを着ている。
彼女は御幣島の方に気がついたようで、
「あら? あなたは昨日の……」
「おはようございます! 巳々子さんですよね、今よろしいですか?」
これはチャンスとばかりに御幣島が声をかけると、巳々子はゆったりと歩いて門扉まで来る。
「私、こういうものです!」
「ホラー雑誌のライターさん、ですか」
「はい! 昨日は居之上さんのところに泊まって、取材させてもらってたんです。祠と祟りというテーマで」
巳々子の表情はわずかに硬直した。御幣島はすかさず補足する。
「もともとは居之上さんにお話を聞いて案内してもらうだけだったんですけど、うまく記事が書けそうになくて……見かねた居之上さんが巳々子さんのことを紹介してくれたんです」
「ああ、居之上さんに」
と、硬さが霧消する。それどころか微笑んだ。よそ者の御幣島なのに居之上の名前を出しただけでこの変化。この村で居之上への信頼感というのは絶大なようだ。
「もちろん、亡くなられた
「は、はあ……」
「まあ、次のバスに乗らなくちゃなので、あまり時間はないんですけど」
苦笑しながら御幣島が言う。
すると、巳々子は微笑んだまま、澱みなく頷いた。
「はい。私でよければ大丈夫ですよ」
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