第5話 アイミさんはカメラ好き

 「お兄さん、名前聞いても良い?」

 「あ、えっと。俺は泉狩都いずみ かるとです」

 「狩都かるとかぁ。じゃぁカルッチだ」


 閉野愛民とじのアイミさん。

 バーで酔いつぶれてる俺に声を掛けてきた女性。


 は?

 めっちゃ可愛いが??


 どうしよう。

 すごいタイプど真ん中。


 てか衝撃で酔い覚めたわ。

 酔ってる場合じゃねぇ!!


 「隣、座ってもいい?」

 「え、えぇ。全然、もちろん!」

 「もしかして緊張してる~?肩の力抜いて良いよ。そんな大した人間じゃないからさ」


 愛民アイミさん、今さりげなく俺の方に手置いたよな。

 ポンッとしたよ?

 ポンッと!!


 こんなの緊張するほうが無理って話だよ。

 14回振られた経験と酒の力が無けりゃ今頃ミジンコみたいになってたぜ。


 「店員さんも。彼のさっきの話、広めるの厳禁だから」

 「あ~。アイミにそれ言われちゃね~」


 この二人、知り合いなのか。

 店員さん、ちょっと神妙な顔になってるし。


 「ごほん。お兄さん、私はこう見えて結構口が堅いんですよ」

 「お、おう」

 「だからさっきの話、誰にも言わない!!そしてお兄さんの彼女探しも出来るだけ手伝ってあげる」

 「本当か?!」

 「マジマジ~。だからさぁ、今後も御ひいきにしてくれると嬉しいな」


 調子いいな、この店員。

 でもこのぐらいのテンションの方がカワイイまである。

 なんか、悪友って感じで。


 「へぇ、カルッチ彼女探してたんだ……どおりで」

 

 そして、気が付けば愛民アイミさんがすっごい俺の顔を見つめてる。

 なんでそんなマジマジと。


 「美しい造形美だと思ったんだよねぇ。ワックスもこだわってる。少し技量が追い付いてない感があるのは必死に勉強して即行動に移したか、詳しい人に聞いたかだね。どちらにせよ、カルッチの気持ちが表れる素敵な化粧だね」


 「えっとぉ。その?」


 「あぁ、お兄さん気にしないで。アイミの悪い癖なの」


 悪い癖て。

 何があったらこんな癖が付くのさ。


 「アイミは写真が趣味でさ。趣味突き詰めてるうちに独自の価値観にたどり着いちゃったっていうか」

 

 「写真は良いよぉ、カルッチ。もし暇をもてあそばせてるなら特にお勧めする」


 「へぇ」


 そういえば、よく見れば愛民アイミさん首にカメラかけてるじゃん。

 ガチで写真好きなんだ。

 

 「うまく言葉に出来ないけど、凄いですね。趣味を極めたって感じでカッコいいです」

 「え~。カルッチそれ本当に言ってる?」

 「本当ですよ。俺なんか趣味があるにはありますけど……実は最近まで強くのめりこんだ事なかったんです」


 人生を彩るのは趣味だ!!と声高らかに宣言する人もいる。

 でも、趣味で人生が輝くかどうかってのはその熱量次第な所はあると思う。

 

 そもそも、もっとガチなオカルト好きなら宝くじに当たった瞬間に輝かしい人生が始まっていたはずだ。


 もしあの時、壺を買いに行かなかったら。

 もしあの時、壺の呪いで必死に彼女を作ろうとしてなかったら。


 きっと俺は今もPCの画面の前で時間をつぶすだけの毎日を過ごしていたんだと思う。

 だからこそー


 「趣味をやり尽くして、その結果自分だけの美学にたどり着いて、こんな何でもない場面でも趣味の事が頭によぎる。そんな熱量がカッコいいって、素敵って思いますし。何よりちょっとうらやましい……みたいな?」


 「フフッ。アハハハハ!!」


 「え、ちょ、なんで笑うんですか!!」

 

 「いや。あまりに想定外の答えだったから嬉しくって」


 「そんな変な事言いました?」


 「むしろ逆だよ。カルッチって面白い人だね」


 「え、そうですか?」


 「うんうん。自身もって良いよ~。私が保証してあげる」


 なんか、楽しいな。

 なんか楽しいぞおい!!

 

 宝くじを買ってからの人生で一番楽しい気がする。


 今思えば、マッチングアプリで会った人とは『彼女を作るぞ』って意気込みすぎてちょっと苦しかったぐらいなのに。


 お酒とちょっと上がったテンションで、肩を抜いて話してる今は凄い楽しい。


 「なんかさぁ。お兄さんとアイミ、相性良さそうだよね」

 「はい?!」

 「二人さぁ、お試しで1週間ぐらい付き合ってみたら?」


 ててててててててて店員さん????

 ちょっといきなり何を言い始めてますのん???


 さすがにそれは展開が早すぎってか、爆弾発言過ぎませんかねぇ。

 俺と愛民アイミさん、まだ出会って15分ぐらいの仲ですよ??


 「それにさ、アイミ。お兄さんならアイミの気にしてること、問題にならないでしょ」

 「確かに。それはちょっと考えてた」

 「おまけに楽しそうに話してたじゃん。こんな逸材今度はいつ現れるか分かんないよ」


 おいおいおいおい。

 おいおいおいだわおいおいおい。


 ちょ、店員さん??

 何をそんなにもうプッシュしてるのさ???


 「お兄さんみたいな人とアイミが会えてるのだってもはや奇跡に等しい確率じゃない?」


 言い過ぎ!!!

 さすがに言い過ぎ!!


 いくら何でもバチクソ不思議な感じで俺の事持ち上げてくれるじゃん??

 小説や漫画だったら即没だよ!!


 ちょ、なんでそんなに俺の事をオススメするわけ??

 嬉しいけど!

 嬉しいけども急すぎてちょっと怖いわ!!


 「確かに」

 

 確かに??????

 今愛民アイミさん確かにって言ったか??

 気を確かにもって。

 俺みたいな男どこにでもいるから!!


 「店員さん。他のお客さんが入らないように見張ってて」

 「はいは~い」


 え、店員さんめっちゃいい笑顔でどっか行った。

 え、もしかして愛民アイミさんと二人きり??


 「ねぇカルッチ」

 「は、はい何でしょう?!」


 変な声出ちゃった。

 これから俺何言われるの??


 「実はね、私一つカルッチに隠してたことがあるんだ」


 そりゃいっぱいあるでしょうよ、今日初めて会ったんだから!!

 逆に初対面から15分経過で相手の全てを知ってる人が居たらびっくりするわ。


 「あ、あのぉ。隠してる事も何も俺達初対面ですし。あ、もしかして昔どこかで会ってたとか」

 「私、カルッチと同じなの」

 「お、同じ?同じって何が」

 「宝くじだよ。私も宝くじの当選者。そしてカルッチと同じ、普通の人間からいきなり大金持ちになった人間」 


 一瞬、思考がフリーズした。

 え、ちょっと待って。

 噓でしょ。


 「愛民アイミさんも?俺と同じ?」

 「そうだよ。因みに当てたのは去年。総額は6億」

 「こんな偶然あるのか??」


 うん。

 何となく分かったわ、店員さんが愛民アイミに俺を押してた理由。


 「どんな確立だよ!!たまたま、同じバーで!!宝くじ当選者の男女が出会うって!!」


 確かにこれは奇跡的な確率と言っても過言ではないな、と。

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