第4話 夢を叶えて壺えもん

 「これが俺?」

 『まぁ、私の知識があればこんなものさ』


 鏡を見て目の前の現実を疑った。

 そこには確かに俺の顔が写っているはずだ。

 しかし、なんか普通に良い顔面なんだよなぁ。


 おかしい。

 俺の顔がこんなに綺麗なはずがない。


 『私を舐めないでほしい。道具さえあればどうにだってなるものさ』


 「男が化粧なんてって思ったけど、こりゃすごいな」


 『なんなら毎日このセットして過ごすと良い。きっと君の生活も爽やかになるよ』


 「でもセットに二時間かかるじゃん。毎日はめんどい」


 『君には無限の時間があるでしょうが。そう言うこと言ってるから万年彼女ができないんだよ』


 「壺のお前に偉そうな事言われたくないわ!!」


 売り言葉に買い言葉とはまさにこのことだ。

 普段の俺ならここでちょっと嫌な気分になるだろう。

 だが、今の俺は心に余裕がある。


 なぜかって?

 それはセットに二時間かけて作った自分が美しすぎるから!!


 いや、マジですげぇわ。

 泉狩都いずみ かるとLv1から泉狩都いずみ かるとLv100になったと言っても過言ではないよ。


 な~にが15人に振られるか彼女を作れだ。

 ここまでサポートしてくれるならもう彼女作ってくださいって言ってるようなもんだろ。


 「まぁ蟲毒君。俺に対して弱者男性童貞野郎と罵れるのは今日までだ」

 『そこまで言って無いけど』

 「お前が作ったこの顔で、俺は人生初の彼女を作るぞ~」


 てなわけで早速マッチングアプリをインストーーーーーーール。

 待ってろ俺のイケ男ライフぅぅぅぅ。

 宝くじを当てても始まらなかった俺の勝ち組人生はここから始まるんだぁぁ!!!!



 3日後。

 俺のスマホにはマッチングアプリの画面が。


 『今日のマッチングは0です』

 「今日のマッチングもだろうがぁぁぁ!!!」


 勝ち組人生が始まらない。

 何?

 泉狩都いずみ かるとには勝ち組になれないって呪いでもあるわけ??



 えり好みなんかせずにかたっぱしから女の子にハートを送ってみたが帰ってこない。

 マッチング出来ない。


 1日目はまぁこんなもんだよねと思って流行る心を抑え。

 2日目でなんか嫌な予感がして今日がこれだよ!!


 これ以上成果が出ないままマッチングアプリを続けてしまったら、メンタルのダメージが許容量を超えて人間ではなくなってしまう。

 

 「壺えも~ん。助けてくれよ~」

 『だ・れ・が!!壺えもんだ!!』


 例の壺を抱えてその呪いに抱き着く。

 某猫型ロボットの様にすがられた呪いは抗議するようにテロップを振りかざした。


 てか、こいつ呪いなのにドラえもん知ってるんだ。

 普通こういう存在は人間世界の娯楽には詳しくないだろ。


 「このままじゃ振られるどころか出会いすらねぇよぉぉぉぉぉ。ちょっと期待してたぶんツレェよぉぉぉ」

 『大の大人が子供みたいに泣きじゃくってんじゃないよ。君今いくつだと思ってるの』

 「24だが」

 『24はもう立派な大人で泣いたりしないって、それ一番言われてるから』

 

 だから何でそんな言い回しが出てくるんだよ。

 お前どの時代で作られた呪いな訳??


 『まぁ、手伝うと言った以上は出来ることをするとも。スマホをここに』


 ここにって……テロップの矢印がさしてるの君の壺の口なんだけど。

 

 「まさかそこにスマホ入れろって」

 『そうだよ。早くして』

 「えぇ……なんか怖い」

 『入れないなら私は手伝わないよ』

 「入れます入れます!!だから助けてくれ!!」


 そうして俺は壺えもんの中にスマホを入れた。


 ◇


 「これが俺のプロフィール?」

 『ぜぇ、ぜぇ。わ、私の知識があればこんなもの朝飯前さ』


 俺はアプリのプロフィール欄を見て声を上げた。

 ここに書かれてる人間、本当に俺か??


 写真普通にイケメンじゃねーか?!誰だよお前!!

 あと、ステータス嘘はついてないけど最大限によく見せてるなぁおい!!


 『アイコンの写真はプロに任せて、プロフィール文もちょっと盛るのさ。ほら、君だって就活とかしたことあるだろう』

 「それと一緒って事か」


 なるほどな。

 確かに、このアプリを使ってるライバルが皆これぐらい努力しているというのなら俺が叶わなかったのも納得だ。


 でも、これで俺も同じステージに立ったという事だ。

 泉狩都いずみ かるとLv100から泉狩都いずみ かるとLv10000にレベルアップしたという事!!


 今度こそ俺の勝ち組人生が始まる!!



 「ごめんなさい」

 「あ、今用事入ったわ」

 「なんか気を使わせてしまったわね」

 「あーしには合わないわ。次頑張って、お兄さん」



 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 『FXで金溶かした人みたいになってる』

 

 何で呪いなのにFXとか知ってるんだよぉ。

 今そんな事どうでもいいよぉ。

 マッチングはするようになったけどさぁ。

 めっさ振られるんだわ。


 今14人か?

 あと一人振られたら目標達成じゃねーかぁ。


 「やったんすよ。やったんすよ必死に」

 『うん。私は知ってるよ。君の頑張りを』

 「デートプランとか色々考えてぇ。会話デッキも増やしてさぁ」

 『うん知ってるよ。私も沢山相談に乗ったし』

 「その結果がこれだよぉぉぉぉぉぉ!!」


 もう無理だよ!!

 恋愛!!

 だってルール分かんないんだもん!!

 本の情報もネットの情報も、振られて得た経験値も全然役に立たねぇ!!


 「ヘヘッ、ヘヘッ」

 

 あぁ。

 次マッチした人に振られてこの課題も終わりかぁ。

 付き合えない人でもクリア出来る仕様なんて、優しいなぁ壺えもんは。


 『壺えもん言うな』

 「ナチュラルに心読むなよ」

 『まぁ、それはともかくとして。いったん休もう。このまま突き進むのは良くない』

 「休むたって何するんだよぉ」

 『私の知り合いの幽霊が好きだったバーがあるんだ。そこに行ってくると良い』


 今日はもう髪のセット終わってるしなぁ。

 ネット見るよりそっちの方が気分転換になるかもなぁ。


 『スマホ入れて。オーナーに話通しておいてあげるよ』

 

 だから何で呪いの癖にスマホの扱い上手なんだよぉ。

 

 

 「それれ~なぁんもうまくいかなくて~」

 「お客さん凄い酔ってる~。ろれつ回って無いじゃ~ん。もうやめとく?」 

 「まだ飲む~」


 気が付いたらすごい飲んでた。

 宝くじが当たって散財したのも初めてだが、この量の酒を飲むのも初めてだ。


 すげぇな。

 俺ってここまで酔うとダルがらみするタイプなんだ。


 「じゃ~お兄さん私におごってよ」

 「いいよ~」

 

 普通に初対面の女の店員さんにもダルがらみしてる。

 でも、これで気分何となく晴れるからいいやぁ。


 「いやぁ荒れてるね」

 「だって何にも上手くいかなかったんだよぉ」


 「彼女……彼女ねぇ」

 「紹介してくれるんですか?」


 「私の友達は全員彼氏持ちだし……あ、元彼紹介してあげよっか?顔綺麗だから多分抱けるよ」

 「いらねぇぇぇぇぇぇぇ」


 もう何灰杯飲んだかなぁ。

 おなかがグルグルするぅ。


 「まぁ今お店に私しかいないからさぁ。なんでも言いなよ。愚痴聞くよ~」

 

 なんていい娘だ。

 もういいや。

 今日は全部ぶちまけて気分を入れ替えよう。


 「これから人生が上手くいくと思ったのに、失敗したり空虚だったりで最悪ですよ~」

 「ふむふむ。ちなみに何で人生上手くいくかもって思ったの?」 

 「あ、聞きます~。実は宝くじ当てて~」


 俺がそう言った瞬間。

 ガシャンと音が鳴った。

 

 さっきまで楽しそうに話していた店員さんの目がガッと開く。

 

 「ち、因みにお兄さん。おいくら万円当てたの?」

 「ふ、ふ、ふ~。その額なんとぅ」


 なんか、そういう目で見てくれるのも悪くないなぁ。

 なんか誰かに尊敬された気分になる。

 このままだとなんでもかんでも話しちゃいそう。


 「駄目だよ。そういう事他人に話しちゃ」

 「え?」


 勢いに任せて宝くじの金額を言おうとしたその瞬間、自分の唇に何かが当てられている感覚があった。

 これは……指かぁ。

 女の人のぉ。





 指?!?!



 ワッツ?!

 どういう状況これ???


 「どんなトラブルに巻き込まれるか分からないし。金は人間を悪魔に変えるよ~」


 声がした方向を見る。

 そこには首にカメラを掛けた、ボブカットのカワイイ女の子が居た。

 そう、俺の口に指をあてていたのはこの人だ。


 「私、閉野愛民とじのアイミって言うの。よろしくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る