25話 配信のネタを探すのは大変です

『今日はね、なんとダンス部にお邪魔してきたんだよー』


:ダンス部?

:流石現役JK

:ダンス部とかめっちゃ陽キャやん

:チアガールの格好とかしたの?


『チアガール着ましたよ。あれ色々見えちゃいそうで……ダンス部員の皆さんはよくあんなに堂々と動けますよね』


『思ったんだけどさ……それってすいが太ったって説ない?』


『え!? ふ、太った!? わ、私が太ったならこころちゃんも太ってるはずです!』


『私はすいより代謝がいいから太りませーん。それにほら、こっちに脂肪が付きやすいからね』


:おっぱいマウントきた

:二人とも大きいから大丈夫!

:こんなとこで話す内容なのかこれww

:初見ですー

:俺の嫁の配信にようこそ


『なっ……くっ…………萎めばいいんですよそんなもの』


『ちょっと、聞こえてるんだけど』


『聞こえるように言ったんです』


『ほほう……つまり、この私に喧嘩を売っていると?』


『喧嘩を買う度胸がこころちゃんにあれば、ですけどね』


『あははは』


『うふふふ』


 そうして二人はお絵描きの森でバトルを始めた。お絵かきの森というのは一人がお題に沿って絵を描き、他の参加者はその絵を見てなんのお題なのか当てるというゲームだ。

 こころもすいも絵心は全くないのか、最早お題とは似ても似つかないモンスターを生み出している。


 これは、なんだ……?

 俺には腹筋がシックスパックに割れたムキムキの猫ちゃんにしか見えない。


 ともあれそんな白熱した戦いを、俺はリビングのテレビでポテチを食いながらのんべんだらりと見ていた。

 ちなみにリビングで見ていることに特に意味はない。

 やっぱ推しの姿はでかい画面で見た方がいいだろ?


 わーきゃー言いながらお絵描きバトルを繰り広げている二人は、実に楽しそうだ。

 コメントもかなり盛り上がっていて、今日も安定して視聴者は50人を超えている。


(二人とも、もう全く嘘っぽさはないな)


 まぁ流石に本気でぶち切れてる訳じゃないだろうけど、それでも殆ど素の状態で会話できていると思う。

 だが、このままだとまずい。非常にまずい。


「昨日とパターンが同じじゃな」


 俺と同じようにポテチを食べていた莉子の言葉に俺はため息をついた。


「そうなんだよなぁ。今日はゲームの展開に持って行けたからいいけど、このままじゃ毎回喧嘩腰の配信になっちまう。会話のネタも今日あったダンス部の話そのまま使ってるし」


 俺が思うに、二人は外に出たりとかしていないのではないだろうか。

 配信者というのは引きこもりのガチ陰キャオタクヒキニートがやってるものとかいう固定観念があるが、断じて違う。

 人気のある配信者ほど、外部の刺激をたくさん受けてそれを自然と配信でアウトプットしているものだ。


 まぁもちろん例外はあるが、それは一部の天才の話。

 隣にいる超出不精の妹とかはその典型だ。そんなイレギュラーの話をしても仕方ない。


 ともかく俺の見立てでは、藤白と奈良瀬はまず間違いなく外出とかしていないと見た!

 だって会話のレパートリーが少なすぎるもん!


「もっとリスナーを楽しませるというサービス精神を持たねばなるまいな」


「その前に会話のネタだな。このままだとまたそのうち無言になる」


「そうは言っても兄ぃ。そういうのは日常の中からちょっとずつ接種していくものじゃ。そもそものアンテナが狭いと焼け石に水だろう?」


「うーむ……」


 莉子の言ってることも最もだ。根本的な解決をしないといけないのは確か。

 だが、事は一刻を争う。

 多少荒療治になるかもしれないが、とにかく会話のネタを沢山ストックさせなければならない。


「ならやっぱり……あれしかないか……」


 外部からの刺激が必要なら、文字通り外部に連れ出せばいいだけの話。


 そう、次の作戦は……二人を遊びに連れ出すことだ!



 ***



「という訳で、今度の土曜日に三人で出かけようか。場所は駅前のショッピングモールで」


『ちょ、ちょっと待って! 何がどういう訳でそうなったの!?』


「どうもこうもこのままだといつか配信が崩壊するからだけど」


『崩壊ってなんですか!? なんの話をしてるんですか!? ちゃんと説明してください!』


 配信終了後、俺は自室にて藤白に電話をかけたのだが、二人ともどうにも理解してくれていないようだ。

 電話越しでも面白いくらいに動揺しているのが見て取れる。


「だから、このままだと配信で話すネタが尽きるからその前にネタの補充と、ついでにどうやってネタを拾えばいいのかの伝授をしようって話よ。お分かり?」


『分かる、けど……それでいきなり遊びに行くってのは……』


「いや別にもう一緒にファミレスで飯食ったじゃん。一緒一緒」


『い、一緒じゃないですぅ……!』


『休みの日に友達と遊ぶのは、ちょっとハードル高いの!』


 え、そうなのか?

 放課後だろうが休みの日だろうが変わらんと思うんだけど。


 くそっ、中学時代は俺も引きこもりだったから陰キャの気持ちが分かると高をくくっていた。

 陰キャのハードル判定難し過ぎる。


「まぁ、別に無理にとは言わないけど……それなら今日みたいにゲーム配信に方向性変えるか? Vtuberは大体みんなゲーム配信してるから全然ありだけど――」


『その手のゲームは本当に下手くそだから絶対に嫌』


『右に同じく、です』


「我儘な奴らめ……」


 文句しか言わないじゃないか、全く。

 俺はこんなに真剣に考えているというのに。


「はぁ……でもさっきも言った通りいずれネタは尽きるぞ。今日はダンス部の話題があったからいいけど、明日そういう目立ったトピックがなかったら何話すんだ?」


『それは……その……』


 藤白はごにょごにょと口籠り、奈良瀬は沈黙してしまう。


 二人とも素の状態で喋れるようになっただけで、別にトークスキルが上がった訳じゃない。

 コメントは結構来るようになったけど、それだけでべらべらと話せるほどまだこなれてないのだ。


「働きたくないんだろ? 楽して稼ぎたいんだろ?」


『うぐぐぐ……』


 しばしの沈黙。

 かと思いきや、遠くの方から微かに二人の話し声が聞こえてきた。


 またなんか作戦会議でもしてんのか?


 そう思ったのも束の間、二人分の足音がぱたぱたと近付いてくる。


『分かった。でも土曜じゃなくて日曜でもいい? いいってか日曜じゃなきゃだめ』


「別に日曜でもいいけど……なんか用事でもあるのか?」


『ま、まぁそんなとこ……かな……?』


 なんか歯切れの悪い返事だけど、別に気にするようなことじゃないか。


「じゃあ日曜に駅前集合な。時間とかは後で連絡するから」


『うん。分かった。それじゃあ今日はもう寝るね。おやすみ下条君』


『下条君、おやすみなさい』


「あぁおやすみ。藤白、奈良瀬」


 俺は通話を終了し、自室のベッドに横になる。


(当日のプラン、ちゃんと考えないとな)


 何をしようか、何を見て回ろうか、そんなことをあれこれ考えていることがなんだかとても楽しくて、俺はしばらく目を閉じて頭の中で当日の予定をこねくり回していた。

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