2話 Vtuberは最高だぜ!
「……えーっと」
口ごもる俺。
訪れる静寂。
気付けば周りの生徒達も俺達の様子を固唾を飲んで見守っていた。
いや見守るな。気まずいから。
「あ、え……な、何か用……かな?」
我に返った藤白が挙動不審に視線をさまよわせる。
そこに隣にいた奈良瀬が、耳打ちをした。
こちらもだいぶ挙動不審だ。まるで猛獣を前にしたウサギのように体を震わせている。
「ゆ、結乃ちゃん。ここはさようならの挨拶を言うべき所じゃないですか……?」
「へ……? あ、そっか……えーっと、さようなら!」
「下条君、さようなら」
そう言って突然頭を下げる美少女二人。
さようならって正しい挨拶のはずなのに、そこはかとなく距離を感じるのはなぜだろうか。
目に見えぬ壁を突き付けられたことに少なからずショックを抱いていると、二人はまたもやこそこそと会話をし始めた。
「ね、ねぇ真白。やっぱさようならはまずかったんじゃない……?」
「で、でもうちでの挨拶はさようならでしたよ……? な、何がいけなかったんでしょう」
「私にも分かんないけど…………あ、さようならじゃなかったらさ……きっとあれだよ。ごきげんよう。うちのおばあちゃんがよく言ってた」
「た、確かに! 私の祖母も言ってました!」
作戦会議は終わったのか、二人はこちらに向き直ると――
「「ごきげんよう、下条君」」
ちょこんとスカートを摘まみ、立派なカーテシー付きで恭しく一礼した。
顔は引き攣ってるけど。
(え、なにこれ。これどうしたらいいの、俺)
ごきげんように対する正しい挨拶ってなんだ。
俺もごきげんようって言えばいいのか。
というか、ごきげんようって別れの挨拶にも使えるんだっけ。
ぐるぐると頭の中がパンクしそうになる。
俺はスカートの裾を摘まんだままフリーズしている二人を尻目に、深呼吸をした。
おずおずと口を開く。
「あー……普通に、またね、でいいと思うけど……」
「「え……?」」
再び訪れる静寂。
春の生温かい空気が俺達の間を通り抜けていく。
(え、俺なんかやっちゃった……?)
そんなラノベ主人公みたいなことを考えていると、
「そ、そうだよね! 普通またね、だよね! なな、何してんだろ私」
「こ、これは別に挨拶の仕方を知らなかったとかではなくてですね! ただちょっと言ってみただけといいますか……あの……」
顔を真っ赤にした二人がわたわたと慌てふためく。
「えーっと……とりあえず落ち着いて――」
「あ、私達、用事あるからもう帰らなきゃ! またね、下条君!」
「そ、そうでしたね! 早く帰らないとですね! またね、です! 下条君!」
「え、ちょ――」
俺が何か言う間もなく、二人は勢い良く走り去ってしまった。
ぽつん、と一人残される俺。
周りの生徒の視線が痛い。
「……ちょっと対応を見誤ったかな」
彼女達に話しかけたのは、これで二度目。
最初に話しかけた時は、完璧にスルーされた。
いや、スルーというかフリーズしてしまって会話にならなかったというのが正しい。
それに比べれば今日は会話ができたので進歩と言える。
けれど……どうにも彼女達から怖がられている節があった。
(俺なんかしたっけ……全然心当たりがない)
二年生になってクラス替えをして、二人と同じクラスになって数週間。
二人との接点は、ほぼない。
(せっかく同じクラスになれたんだし少しは仲良くなりたかったけど、これは無理かな……)
そもそも彼女達は俺以外に対してもあまり心を開こうとしてないように見える。
基本的にあの二人の他人に対する態度は……言ってしまえば塩対応だ。
例え同性であっても、あまり二人は踏み込んで話そうとしない。
事務的な話はするし、人によっては雑談だってしているみたいだけど、恐らく友達と呼べる人は他にいない。
つまり彼女達は――ぼっちだった。
一人ぼっちじゃなくて二人ぼっちだけど。
別にクラス全員と友達になる必要はない。それは分かってる。
でもあそこまであからさまに避けられると、流石に少し悲しい。
「そうだ。こんな時こそ癒しだ」
さっさと帰って趣味に興じて、この心にこびりついた悲しみを解きほぐそう。
今日は俺の、今一番推してるVtuberの配信があるのだから!
***
『あーあー……えーっと、聞こえてるかな?』
『大丈夫みたいですね。それじゃあ始めましょうか』
『
『
『『雑談生放送ぉー!』』
「うおおおおおおお! こころたぁぁぁん! すいたぁぁぁん! やっぱ可愛いなぁこの二人は!!」
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