23話 橘早紀の想い①
その後、戻ってきた奈良瀬から再度記憶の抹消を頼まれたり、チアダンスに一生懸命取り組む藤白と奈良瀬を応援したりして俺達の部活体験は幕を閉じた。
「それじゃあ私達はこっちだから。今日はありがとね。楽しかった」
「早紀さん。今日はありがとうございました」
校門の前で藤白と奈良瀬はぺこりと頭を下げる。
「どういたしまして、っていうのも変だけど……。別にあれだからね、無理してダンス部入ったりしなくて大丈夫だからその辺は気にしないでね。もちろん、入ってくれたらあたしは嬉しいけど……」
「思ったよりも楽しかったですよ、ダンス」
「ね、体動かすのも久しぶりだったし」
「ほ、ほんと? よかったぁ、そう言ってもらえて……」
橘は安堵の息を漏らした。
自分から誘った手前、ちゃんと楽しんでもらえていたのか不安だったのだろう。
律儀というか優しいというか、橘らしいな。
「あー俺も、今日は余計なこと言って悪かっ――」
「下条君?」
俺の言葉を遮るように、奈良瀬が口を挟む。
その目は鷹の様に鋭く光っていた。
「いえ、なんでもないです」
そう言えばあの時の記憶は抹消されてるんだった。
危ない危ない。
奈良瀬はにこりと微笑むと、小さく頷いた。
その姿が妙に迫力あって怖い。
「じゃあ帰りましょうか。下条君、早紀さん。また明日です」
「またねー下条君、早紀」
「おう、またな」
「ばいばいー!」
俺と橘は二人に手を振り、
「俺達も帰るか」
そう言った所で、橘がとんっと俺の前に立った。
「その前にさ、ちょっと散歩に付き合ってよ」
ふわりと風が吹いた。
橘の金色の綺麗な髪がそよそよとなびいて、夕暮れ時の光がきらめく。
普段と違うような、なんだか神秘的な光景に思わず息を呑む。
散歩ってのは多分、話す口実だろうな。
きっと藤白と奈良瀬についてだろう。
「そうだな……丁度俺も散歩したいと思ってた」
「お、奇遇だねぇ。それじゃあ河川敷の方行こっか。ちょっと川が見たい気分で」
「りょーかい」
俺達は並んでぽつぽつと歩き出した。
***
「結乃と真白、楽しんでくれたかなぁ」
川のせせらぎを横目に見ながら河川敷を歩いていると、橘がぽつりと零した。
「本人達も楽しいって言ってたし、大丈夫だろ」
「そうかなぁ……そうだといいけど……」
地面に目を向けながら不安げに呟く。
「そんなに不安か?」
「だってほら、友達になりたいのに嫌われたらやじゃん? ちょっと誘い方とか強引だった自覚はあるし……」
言われて、今日の放課後のことを思い出す。
ダンス、と聞かされて藤白と奈良瀬が微妙な顔をしていたのは確かだ。
陰キャにとってダンスなんて全く持って埒外だし、ダンス部員というのはそれでなくても陽キャの集まりだ。
彼女達が尻込みする気持ちも分かる。
「でもそれを言うなら俺の方が強引だっただろ」
俺はそれを分かっていて、あえてやってみろと二人に言ったのだ。
Vtuberとして成功するという目標を俺達は共有している。
だからこその助言。
「……さっきも言ったけど、結乃と真白は下条君には心開いてる感じするもん。だからそれはノーカン」
俺のことを引き合いに出したけど、橘は納得できないようだった。
自分に厳しいというか意外と気にしいというか。
「そもそも、なんで突然ダンス部に誘ったんだ? あそこまで強引なのは珍しいだろ」
橘は確かにイケイケではあるが、相手の気持ちを慮れない奴ではない。
自分の意見を無理矢理に押し付けるようなことはしない。
だからこそ、今日の行動は少しだけ引っかかっていた。
「あ、やっぱりそう思う……?」
「結構違和感あった」
「下条君はよく見てるねー。流石っす」
くしゃりと笑う橘。
しかし、その表情にしゅんっと影が落ちる。
「……前からさ、二人のことは気になってたんだ。あたしと似てるから」
その言葉で、もう俺は橘の言わんとすることが理解できてしまった。
「わざと線を引いてるというか、他人を避けてるというか……なんかそんな風に見えたんだよね」
「去年の橘みたいに、か」
「正解」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます