第4話 夜は女子トーク
「おばあちゃん家に行く」という、大冒険を終えた夜。お泊り会も久しぶりだったから、三人は楽しくなって枕投げした。それから布団に入ると、それぞれの悩みを打ち明けた。
おっとりしてやさしいカナちゃんの両親は再婚だった。
「へーそうなんだー」
桃子は軽い感じで返す。
「お父さんは結婚していたんだけど奥さんが亡くなって、うちのお母さんと再婚したの。でね、前妻に子どもがいたの」
「うんうん」
アヤちゃんは真剣に話を聞く。
「お父さんの子どもはもう働いていて、一人暮らししているんだけど、たまにうちに遊びにくるんだ。わたしのお姉ちゃん」
「へーそうなんだ」
「でも、お姉ちゃんが帰ったあと、お母さんはお父さんに文句をいっているの……」
「……」
カナちゃんのお母さんに会ったことあるが、とてもやさしい人だ。それだけに何も言えない。
家に遊びに行った時、一度だけお姉さんも会ったことがある。これまたやさしい感じで異母妹のカナちゃんを可愛がっているように見えた。桃子にも姉はいるが、やさしくもないし喧嘩ばかり。常に臨戦態勢をとっている。やさしい姉、羨ましいぞ。
「でも、一人っ子だと思っていたから、最近になって、お姉ちゃんの存在を知って、うれしかった」
カナちゃんはポツリと言う。
「うんうん」
母と異母姉、どちらも大好き。カナちゃんは板挟みで大変だなと思う。
「ホント、色々あるよねー」なんて話した。
次はアヤちゃんだ。
「新しい友だちが、できないんだよね……」
「へーそうなんだ。意外だねー」
「そうかな?」
「う…ん……」
「……」
その理由は桃子もカナちゃんも知っていた。アヤちゃん自身に問題はない。背が高くて美人さん。明るくて冗談も面白い。自慢の友だち。間違いなく陽キャの部類に入る。
家が宗教団体だからだ。アヤちゃんは今でいう宗教二世だと思う。だから、近所の子どもは親に「あの子とは遊んじゃダメだよ」って言われているのかな。実は桃子も親に言われていた。
でも、桃子はめんどくさくて頑固者だから、母親の言葉に「はいそうですか」と、聞き分けの良い子ではない。よく家に遊びに行ったけど、アヤちゃんの母親に入信しろとは言われなかったような……。
アヤちゃんは家族が大好きだ。宗教が原因だと言えるはずもなく、二人は黙った。しばらくすると、
「そのうちできるよ。うちも人見知りで友だち少ないし……」
いつも聞き役のカナちゃんがめずらしく先に言った。
「うん、わたしも友だち少ない。アヤちゃんの良さはうちらが知ってるし~。きっとそのうちできるよ」
「うんうん」
アヤちゃんを励ました。
最後に桃子
悩み。あるかなぁ……。そうだな、田舎にしては珍しい、桃子の両親は国公立大学出身。立派な職業に就いている。桃子の従兄たちも勉強ができるらしい。親戚も東海に住んでいたのに関東の大学だったから、今はほとんど関東に住んでいる。
高学歴親戚に囲まれ出来の悪い子が桃子一人だけ。勉強しないし興味がない。リアルのび太。勉強嫌いなのが悩み。親はどうにかさせたいと思っているが、なんともならない。優秀な人が語る「親に勉強しろと言われなかった」説。うちの親は「勉強しなさい」と言われなくても、ちゃんとできた人たちだった。
桃子は勉強しろと言われなかったので、全然しなかっただけなんだけど。親は冗談っぽく「桃子は橋の下で拾った子」だって言っていた。なんだその言いぐさ。出来の悪い子だと親は愛してくれないのかな……。父はそうでもないが、たしかに母は、姉をひいきしているから、勉強がそんなに偉いのかと、ますます意固地になる桃子。
「そんなことない。桃ちゃんはしっかりしているよ」
アヤちゃん、必死で慰める。
「ええー。しっかりしてない~。アヤちゃんの方がしっかりして、かわいい、最高!」
「かわいいってなにー」
かわいいと言うとなぜか照れてとぼけるアヤちゃん。そこがかわいいんだけどね。
「カナちゃんもだよ。気配りできて、優しい、かわいい!」
「ぷっ。もー桃ちゃんもかわいいよ」
桃子たちは、寝ながら謎の褒め合いっこが始まる。
「まー。勉強は嫌いだけど、せめて親の足を引っ張らないような生き方だけでもしたいよね。犯罪を犯さないとか……ふわぁ(あくび)」
「ふわぁ……(あくびうつる)うん、えらい。それだけでいいんだよー」
「えらくないしー……」
「……」
なんて他愛のない話をしているうちに三人とも無言になって、今日はたくさん歩いたせいか、いつの間にか寝てしまった。悩みを打ち明けたものの結局、どれも解決しなかった。だけど、スッキリしたような気がする。
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