第3話 短いトンネルを抜けると……
水筒の麦茶を飲み、休憩すると、風がそよそよ吹き、木々の葉っぱが揺れ、鳥がさえずる。三人は元気になって歩き出す。
くねくね道を歩いている途中で、一台の車が停まった。運転手は男の人だ。
「どうして君たちはこんなところを歩いているんだい?」
「おばあちゃん家に行くのー」
元気よく返事をした。
「ええ⁉ それじゃあ大変だ、乗せてあげるよ」
「いえ、けっこうです」
親切でやさしい男の人なのに、桃子はきっぱり断った。
なぜならば誘拐が頭をよぎったから。桃子は冒険者として責任がある。大事な友だちを危険な目に遭わせるわけにはいかない。しかし友だちは汗だくで道路沿いとはいえ山をひたすら登るのは嫌だったみたいです。名残惜しそうに車を見送った(そりゃそーか)
次も親切そうな女の人が「車に乗せてあげるよ」と言うのに、またまた断った。
桃子の気分はスタンドバイミー♫ 「ロリポップ」の曲が頭の中で流れる。エンドレスロリポップでご機嫌な桃子。当時は、車でおばあちゃん家まで送ってもらったら冒険じゃないしー。なんて思っていたような。この頃は熱中症になるほど暑い夏ではなかったのが幸いです。山に入れば涼しかった(言い訳)。
さて、映画「スタンド・バイ・ミー」では、汽車でひかれそうになるハラハラドキドキ展開ですが、おばあちゃん家に行く途中のドキドキ展開といえば、最難関のトンネルです。
「ここを突破しなければ……」
約二百メートルのトンネル。短いけれど、幅が広い大きなトンネルじゃないので車にぶつからないとも限らない。桃子たちに緊張が走る。
「いい、走るよ!」
「うん!!!」
三人はいっせいに一列で走る。二百メートル走だと思えばあっという間だ。心の中で「車が来るなよ~」とお願いする。短いようで長いトンネル。暗闇から光の差す方へ、駆け抜ける。わたしたちはいったい何のために走っているのか。トンネルの出口に立つと、ふわっと気持ちよい冷たい風が吹き抜けた。
「やったー!!!」
三人は飛び跳ねる。おばあちゃん家まで、道はまだまだ続くのに、なにか成し遂げたような、二百メートル走を優勝したかのような一体感が三人の中で生まれた。
地獄のくねくね道を登った分、今度は下り坂になるので再び笑顔が戻る。
途中、また上がり坂になるが、山に入る時のような急こう配ではない、なだらかな道が続く。ここからは「まんが日本むかし話」のような里山の原風景が広がる。
田んぼに丸いぽこっとした山々。道路沿いに古い家が並ぶ。小川の水がちょろちょろ流れて、とてものどかだ。うんうん、おばあちゃん家は近いぞ。でも、距離はある。汗はだらだら、へとへとで二人の不満が爆発しそう。
「いったいいつ着くの⁉」とうとうアヤちゃんはちび桃に詰め寄る。
そこで桃子は考えた。
「……あのカーブの先がおばあちゃん家なんだ」作戦に出る。
「ほんとう?」
「うん、ホントホントー」
まだまだなんだけど、目標があると頑張れる……ハズ。二人は元気を取り戻し、また歩き出す。
「桃ちゃん、ねえ、カーブの先って何もないよ」
「あれー? おっかしいなー。じゃあ次のカーブかな?」
などと、すっとぼけてアヤちゃんとカナちゃんをだましながら、目的地のおばあちゃん家にじりじりと近づく。
「ねえ、本当にまだー?」
アヤちゃんはもう怒る寸前。
「実は……ここだよ!」
「え!? 目の前じゃん。やったー!」
おばあちゃん家にようやく到着しました!
こうして、二人は知る由もない大迷惑な桃子一人スタンドバイミー気分を味わい満足して、大冒険は終わりました。
***
おばあちゃん家を案内して、友だちもホッとして家に入る。心配だったのか、祖父母の家に何度も母から電話があった。ええ、親に信用されていないもよう(前科あるし。そりゃそーか) ※お祭り編参照
ずいぶん歩いて疲れた気がするのに、冷たい麦茶を飲み、お昼ご飯食べていったん落ち着くと、三人は元気が復活。日が暮れるまで友だちと庭や家でかくれんぼしました。本当に小学生の元気って無限だと思う。
夕飯を食べ、お風呂に入って布団に潜りこむ。
映画「スタンド・バイ・ミー」では、主人公のゴーディたちは森で野宿する。そして、それぞれ抱えている悩みを打ち明けるんだけど。
桃子たちも女子だけで語り始めた――。
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