七
「ここはうちの領主サマの別荘みたいな離れ小島でね。オレがたまにこうやって見回りに来てるんだよ。いやあ、危ないところだったな兄ちゃん」
眼帯をした、男勝りな言葉を話す美人で巨乳のお姉さん。
僕はこの人が放った弓矢によって、一角虎に殺されそうになっていたところを助けてもらったのだ。
「ど、どうも、助かりました……」
「ごろちゃん、無事でよかった~」
体を洗い終えたニャー子も僕と眼帯姉さんがいる、そして一角虎が横たわって死んでいる現場にやって来た。
なにはなくとも、僕もニャー子も無事でよかった……。
と安堵したのもつかの間。
このお姉さん、髪の毛はなんか紫がかっている不思議な色だし、なにより耳が長くて、とんがってるんだけど……。
「たま~にこの小島にわけのわからん魔獣を捨てていくヤツがいるみたいでなあ。まあ大方どっかの金持ちが手に余った獣を処分するのに使ってるんだろうけど、いい迷惑だっツーの」
「は、はあ……」
尖った耳の弓使いに、魔獣?
わけがわからない。
ここは日本じゃないのか?
それとも僕が知らないだけで、日本にはこういう土地、こういう島があるのか、和歌山の沖とかに……?
「まあとにかくお前ら、どういう経緯でこの島まで迷い込んだか知らねえけどよ、ここは私有地だから居つかれちゃ困るんだよな。とりあえず街まで送り届けさせてもらうぜ。詳しい話はそれからだ」
茂みを出るように眼帯姉さんが僕らを促す。
浜辺で僕らを待っていたのは、羽を持った大型の爬虫類に見える生き物だった……。
ワ、ワニ? トカゲ? まさかとは思うけど、ドラゴン!?
そうとしか形容のしようがない、巨大な有翼生物だ。
「え、えと、この恐ろしげな生き物は一体、なんなんですか……? 機械とか作りものじゃ、ないですよね……?」
鱗の一枚一枚まで、しっかりと有機物のディテールを持っている。
CGとか合金製の機械とかではなさそうだ。
怖いから触れないけれど、確実に「そこ」にいる、生き物だった。
「なんだよ、けったいな格好してるからこの辺のモンじゃねえとは思ったけど、ワイバーン見るのも初めてなのかよ」
「バーンさんって名前なん?」
ニャー子、ワイはバーンやという関西弁ファンタジーボケをかますタイミングじゃないと思うぞ。
「ま、いいからさっさと乗れ乗れ。難しい話はオレの担当じゃねえんだ」
僕とニャー子は眼帯姉さんの強引な押しに逆らえず、ワイバーンと呼称される巨大有翼生物の背中に乗せられた。
「半日くらいは空の旅になるけど我慢してくれよ。腹減ってねえか? 干し肉と水くらいならあるぞ。あと酒も」
「じゃ、じゃあいただいてもいいですか……」
「オウ遠慮すんな。糞もションベンも適当に海の上に垂れ流していいからな。あんまりこいつの背中にはかけるなよ。掃除するのが面倒だ」
現実感のないままわけのわからない生き物の背中に乗って、空の旅。
これはいわゆる一つの、異世界転移というやつなのだろうか……。
そうだとすると僕とニャー子はこのまま身寄りもない状態で異世界の街に降ろされて、そこでギルドを介して仕事を斡旋してもらったり、冒険の中で現代日本人としての知識を活用しながら上手く立ち回らなければならないのだろうか。
無理だぁ。
サバイバル一つ上手く行かないのに、この世界で冒険して立身出世なんて夢のまた夢だ。
まあ、でも。
「ごろちゃん、すっごい眺め! 気持ちええなあ~~~!!」
目の前に広がる青い海と広い空。
隣にいるニャー子。
これだけで今この瞬間、満たされている自分がいる。
「ところで砂浜になんか絵が描いてあったけど、あれすげえな。兄さんが描いたんか?」
眼帯姉さんがワイバーンの手綱を握りながら、僕に話しかける。
「え、ええ、まあ」
「いやあ大したもんだな。うちの領主は珍しいもんが好きな人だからよ。絵の上手いやつを連れて来たぜって言えば喜ばれそうだ。どうだい兄さん、うちらのところで働く気はねえか? しっかり働けばそれだけ見返りのある職場だぜ」
「は、はは……とりあえず今はゆっくり休みたいですね」
「気が向いたら声かけてくれ。城壁や館の天蓋になんか描いたりとか、そう言う職人が不足してんだよ実際」
「ごろちゃんの絵は上手いからなあ~」
飲酒運転ならぬ飲酒騎乗の有様で、眼帯姉さんは笑いながらお喋りしながらワイバーンを駆る。
思いのほか大きな揺れもなく安定した飛行で、僕もニャー子も安心していつしか眠りについてしまった。
手綱を握って眠ることができない眼帯姉さんに、悪いなとは思いながらも、空の上で風を浴びながらの居眠りは、とても気持ち良いものだった。
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