第2話黒川と八田

黒川創一の隣に引っ越しした、八田弥生は子供を幼稚園に預けると、会社に向かった。

軽自動車を運転していた。

元々、名東区に住んでいたのだが、夫の仕事の関係で港区に移り住んだのだ。夫は、トラックドライバー。

弥生は、パチンコ部品会社の経理担当。同期の今池夏希とは、仲が良く昼ごはんを一緒に食べた。

弥生は手作りのお弁当。今池はサンドイッチ。

「昨日さぁ〜、お隣の家に挨拶に行ったら、中年の男性だったけど、結構イケメンだったの」

と、弥生が玉子焼きを口に運びながら言った。

「紹介してよ!」

「ダメダメ、タバコ臭くて。イケメン何だけど、何の仕事してるのか知らないし。もしからしたら、引きこもりかも知れないよ」

「でも、朝は居なかったって、朝は言っていたよね。働いてんじゃないの?そのマンションの家賃いくら?」

「12万」

「そんなするの?じゃ、働いてるんじゃない?」

「そうなのかなぁ〜」


昼休み、黒川は缶コーヒーを飲みながら、喫煙所にいた。


ハックション!


「誰か、オレのウワサしてんな?」

「黒川君のウワサする奴なんていないよ!」

「日比野さん、そんな悲しい事言わないの。オレまだ、この前の失恋で傷付いているんだから」

「じゃ、私が女性を紹介しようか?」

「日比野さん、まさか、フィリピン人?」

「ああ、そうだよ」


日比野課長は、47歳だが酒好きでフィリピン人の嫁さんがいる。

子供は3人。

嫁さんは、コンビニでバイトしているらしい。子供たちは、手がかからないくらいの年齢に達しているので、昼間だけ働いているとの事。


「今度、また、新瑞橋あらたまばしのフィリピンパブ行こうな」

「もう、フィリピンパブは飽きたよ。てか、女の子が怖くなって。オレ、長年の恋を破局で迎えるなんて思っても無かったですよ。女は何を考えてるか分からんな」

黒川は、灰皿にタバコ吸い殻を落とした。ジュッと音を立てて消えた。

課長はニヤニヤしながら、喫煙所から去って行った。


午後の仕事が始まる。

トラックの運ちゃんが、トラックの停車位置を間違えた。

「おいおい、お兄さん、5番ラインだよ!」

「すいません」

「直ぐに、移動して」

「はい」


20フィートのコンテナを積んだ、トラックは移動した。荷物はタマネギだった。

運ちゃんは事務所で手続きしなくてはいけない。タマネギの下ろしは、若い作業員の仕事だった。作業員は、日雇い労働者が多い。

そこに、1人リーダーが付いて、指示を出す。

黒川は倉庫管理責任者なので、主に書類と格闘しているが、手が空くと現場の見回りもする。

さっきのトラックの運ちゃんが、書類を持って、

「すみません、手続きはどちらで?」

と、言うので黒川は、

「こっちこっち」

「はい」


「ドライバーさん、ここ今日が初めて?」

「はい」

「先週、配置替えで港区に引っ越してきたばかりで」

「そう、大変だね」

「これから、よろしくお願い致します」

「うんうん、こちらこそ。ちょっと待ってね。コンテナナンバーの控えと、印鑑押すから。ドライバーさん……八田さん?」

「はい、そうです。八田直樹です」

「いや、昨日ね、隣に引っ越してきた人も八田さんでね。奇遇だね」

「あぁ、そうでしたか」

「オレ、ここの倉庫管理者の黒川。宜しくね。まだ、荒畑さん元気?」

「部長ですか?」

「え、荒畑さん部長になったの?オレと出会った時は、ドライバーだったよ」

「そうでしたか。まだ、ここに入って10年ですから」

「オレは、14年だよ。35歳。八田さんは?」

「30です」

「余り年齢変わらないね。1時間は荷下ろしに時間が掛かるから、ちょっとここの仕事の説明するね。喫煙者?」

「はい」

「じゃ、喫煙所行こっか」

「はい」


2人はタバコを吸いながら、黒川が八田にあれこれを説明した。

「ドライバーさんは、着いたら、まず書類を事務所に持ってきて、さっきみたいな手続きして、ヘッドだけ外して、また、会社に戻って、新しいコンテナを運んで来て、空のコンテナを運ぶの。その繰り返し。今日は初めてだから、特別だけど結構忙しいよ。でも、八田さんの会社良いよね。残業、殆ど無いんでしょ?」

「はい。残業無しで、福利厚生がしっかりしていて。まさか、港区に飛ばされるとは思いませんでしたが」

「スーパー中枢港になっちゃったからね。名古屋港は」

「はい。聴きました」


「じゃ、僕は事務所に戻るね。八田さんはまた、ヘッドだけで会社に戻れば良いよ」

「分かりました」


今日は、バナナは無いので、18時で上がった。

スーパーで、ウナギのかば焼きと缶ビールを買って帰宅した。


「直くん、今日のお仕事どうだった?」

と、夕飯を作りながら弥生は話した。

「忙しくて、はじめは何をして良いのか分からない時に親切なお兄さんがいてね。最初だから、タバコ吸いながら説明を受けたよ。慣れたら問題ないよ」

「そう、それなら良かったね。配置替えでも」

「まぁ、港区の仕事の方が給料高いからね。そう言えば、うちの会社の荒畑部長って元ドライバーだったらしいよ。僕が入った頃は課長だったけど」

「その、会社の方はいくつくらいなの?」

「35歳だって。背が高くてかっこいいお兄さんだった。たしか、黒川さんって方。でね、黒川さんのお隣に僕らと一緒の、『八田』って人が引っ越して来たんだって」

「へぇ、そんな偶然があるんだね。純君、パパとお風呂入ってきてね」

「はーい、ママ。パパ、お風呂」

「うん、入ろっか」


直樹と子供の純也はお風呂に入った。


その頃、黒川はウナギのかば焼きをレンジで温めて、炊いたご飯の上に乗っけて食べた。


缶ビールを飲みながら。


明日は、木曜日。バナナ船が入港する。既に、バナナ船は着岸しているだろう。

忙しい日だ。


22時には黒川は布団に入る。

春だ。ポツポツ、ソメイヨシノが咲き始めている。

だが、まだ朝晩は寒い。暖房をつけて寝た。翌朝、6時半出勤した。

地下鉄とあおなみ線を利用して。


翌日は20時まで残業した。

こんな生活を続けていると、女性との距離が遠くなる。

でも、半年前に失恋している。この頃、黒川は女を作るとは考えてもいなかった。

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