第4話 マルチ 後半

「この人がね居酒屋であったK田さん」

「こんにちは。K田(仮)といいます」

「こんにちは」


(恋バナだったらどんなに良かっただろうか…)


 K田は黒髪短髪、清潔感のあるスーツ姿。やっぱりベストのあるスリービース。名刺はもらった記憶はない。


「えーと、鴨居さん?は今の生活に不安じゃない?」

「まぁ、そうですね」


「鴨居さんはになりたいと思わない?」

ですか?誰に勝ちたいんでしょうか?」


「えっ?負け組になってもいいの?例えば…なんだけど、B佳ちゃんがフェラーリ買って乗ってきたらどう思う?」

「『へぇすっごいねぇ~ちょっと乗せてよぉ』って言います」


「自分も欲しい!乗りたい!って思わない?」

「思わないです。東京で車運転できる自信もないし。駐車場代高いし」


「あぁ、そぉなんだ…じゃじゃじゃぁさ!B佳ちゃんがロレックスとかいい時計していたらどう?」

「『重たそうだねぇ』って思います」


「えぇ?じゃブランドもののバックとかだったら?」

「『へぇ高そうだね』って思います」


「欲しいとか思わないの?」

「いや、ブランド物のバックってなんか、大体これくらいって値札つけて歩いているみたいで、私が持っても分不相応だな…と。マダムになってからでいいんじゃないかなって思ってます」


「そうなんだ。でも生活に困らないようになりたいとは思わない?」

「まぁ、それは確かに思いますよね」


「そうでしょ?生活に困らないために…」

 K田はバックからパンフレットを出した。


「これは、インターネットで物を売っている会社でネット上のデパートみたいな物なんだけど、この会社の権利を買うと売り上げの一部が勝手にあなたのところに入ってくるっていうヤツなんだ。B佳ちゃんも始めたんだよね?」

 K田はB佳を見る。


「そうなの!これってすごいんだよ!ねぇ!

(はい!『一緒に頑張ろうよ』いただきました!)


「最初はまず布団を30万円で買って1人紹介すれば5万円入るからあっという間に元を取れて、もっと紹介すれば儲かるし、紹介した子達が誰か紹介してもお金が入るんだよ?自分は何もしなくてもお金が入ってくるってすごくない?どうかな?」

 はい、決めたぁ!と言わんばかりにK田は言った。


「………」

 固まる私。


「じゃ、ちょっとトイレ行ってくるね。その間に考えてみて」

 K田は席を立つ。


「ねぇ、やろうよ!K田さん忙しくって今日しか時間取れないし本当は60万のところ半額の30万だよ?

の価格なんだって!毎月5万円が何もしなくても入ってくるんだよ?

やらなきゃ損だよ!」

(ハイ!説得タイム来たーーーー!!)


「う~~ん、って話だけどさ、なんでを買わなきゃいけないのかがよう分からんのだけど?」

「えぇ?それは、布団それを買う決まりだから?」


「物を売るインターネットの店のって言う割に買わされてない?」

「それは、これからお客が増えるから…」


 K田戻ってくる。

「どうだった?」

「う~んと、なんで布団を買わなくちゃいけないのかって」

 困った顔をしてK田に報告するB佳。


「あぁ、それはね、井戸の水を出す時に『呼び水』って使うよね?それと一緒でまずは誰かが買って売れてますよぉってするの。そしたらここのサイトは売れる!ってどんどん売れるようになって入金に繋がるっていうワケ!」

 ドヤ顔のK田。


「こんな儲けられる話、そうそうないよ!今日は特別!B佳ちゃんの友達だからお伝えしているんだよ。よ?」


(はぁ、儲け話がこんな下々の世界の人間に届いた時点でもう終わってるんだよ!)


 靴磨きの少年までもが株が儲かるという話をしていたのを聞いて慌てて株を売って大恐慌から逃れたケネディ大統領のお父さんの『靴磨きの少年』の話を思い出していた。


「うん、分かった。そのステキな儲け話は私じゃなく他の誰かにしてください」


「えっ!」

 慌てたのはB佳だった。


「でも、今日ハンコも持ってきてって…」

「ごめん、忘れちゃった」

「はっ?!」

 その私の一言を聞いて驚いたのはK田。慌ててB佳を見る。B佳は訳が分からないと首を振るばかり。


「な、なんで?今日だけだって言ったじゃん!ハンコも持ってきてって言ったじゃん!」

「うん、そう言っていたね。でもハンコ忘れちゃったんだもん」

 テヘッと私が笑って見せる。わなわなとするK田。


「うん、もう分かった!じゃ、この話はここまでで!B佳ちゃん行くよ!」

「信じらんない!!」

 そうB佳は私に言い捨ててK田と出て行った。とりあえず伝票は持って行ってくれていたのでホッとした。


 それからB佳とは連絡が取れなくなった。前にB佳とB佳の弟と一緒に飲んだ時に連絡を交換していたので弟に

「姉ちゃん大変な事になってんぞ!」

 と連絡しておいた。


 しばらくして、どうなったかB佳の弟に聞いたら、なんとかB佳の足を洗わせる事ができたが100万の借金をこさえていたそうだ。親に地元に帰らせられたそうだ。乙。


 法学部の友人によると大体のマルチ商法はノルマがあるらしい。きっとB佳の上のK田もノルマに追われているのだろう。何がだ。めっちゃ回し車をクルクルと回し続けるネズミじゃねぇか。


 上京した若い子がターゲットだったんだろう…嫌な商売だ。





 










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